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アンケート  作者: 菊池まりな


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第39話 同期化

スクリーンに浮かび上がった無数の顔写真が、次第に色を変え、青い光に染まっていく。その中央に、大きく「SYCHRONIZATION IN PROGRESS」の文字が点滅した。




「やばい……これ、マジで同期されてるのか……?」




翔が小さく呟いたその声は、誰にも届かない。空間は重く沈み、誰もが息を呑んだまま沈黙していた。けれど、ただひとり、美佳だけが妙な感覚に包まれていた。




(頭が……痛い……なに、これ……)




まるで、誰か別の記憶が流れ込んでくるような感覚。自分の記憶のすき間に、知らない景色が混ざってくる。見知らぬ実験室、透明な液体に浮かぶ無数のカプセル。手にしたタブレットには、こう記されていた。




「記憶統合 第37被験体:ミカ・サエグサ」




「っ……!」




思わず立ち上がる。額に汗がにじみ、膝が震えた。自分は、過去に一度……いや、何度もこの実験の“中”にいた?




「……美佳? どうしたんだ、顔色が……」




純が隣で支えるように声をかけたが、美佳は答えられなかった。目の前に広がる映像が、ただのCGではないと確信していた。




「皆さん、落ち着いてください」




有栖川玲の声が会場に響く。




「今、皆さんの脳波と記憶領域は、段階的に“重ね合わせ”の処理に入っています。この同期化は、あなた方自身が“選択”した未来に導くプロセスなのです」




「選んだ覚えなんて……!」




誰かが叫ぶ。だがその叫びも、壁に吸い込まれるように消えていく。退出すらできないこの空間で、彼らの声は無力だった。




だが、次の瞬間。




パチッ──。




会場の一角で、何かが切れる音がした。電気か、回線か。瞬間的に一部の照明が落ち、画面が数秒だけ乱れた。そしてその間隙に──。




「……聞こえる? 三枝美佳」




どこからか、声が届いた。




(えっ……誰?)




頭の中に直接響くような声。機械的でありながら、どこか人間味を感じさせる女性の声。




「あなたは、特異点にいる。干渉が可能な、唯一の存在。私たちの“鍵”よ」




(わたしが……鍵?)




「このまま統合されれば、世界は新たな記憶で上書きされる。現実さえ、塗り替えられる」




そのとき、美佳の瞳に光が差した。記憶の中に一瞬、あの廃工場のロゴが浮かんだ。




《LAPIS: Logical Algorithmic Parallel Integration System》




(──統合を止める鍵が、どこかにある)




「……純、行こう」




「え?」




「ここにいてもダメ。どこかに、止められる場所がある。きっと、わたしたち……まだ間に合う!」




美佳の手が、純の腕を強く掴んだ。同期化は進んでいる。でも、完全には終わっていない。




残された時間は、ほんのわずか。




でも、そのわずかな“ノイズ”が、世界の再構築を狂わせる唯一の可能性だった。

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