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第十章 新しい始まり
雅人との関係を整理した萌は、自分のケーキ作りに集中することにした。
新作の白餡バニラケーキは、シェ・ルミエールでも評判になった。見た目は地味だったが、食べた客の反応は上々だった。
「このケーキ、なんだか懐かしい味がします」
「上品で優しい甘さですね」
お客さんの声を聞くたびに、萌の心は温かくなった。
悠斗もコラムで萌の新作を紹介してくれた。
「シェ・ルミエールの新作『故郷』は、作り手の心が込められた逸品である。和と洋の融合は決して目新しいことではないが、このケーキには特別な何かがある。それは、故郷への愛情と、美味しいものを作りたいという純粋な想いなのだろう。一口食べれば、その想いが確実に伝わってくる」
この記事を読んで、多くの人が萌のケーキを求めてやってきた。SNSでの拡散は少なかったが、口コミで確実に評判は広がっていった。
萌のインスタグラムのフォロワー数は伸び悩んでいたが、もう気にならなくなっていた。大切なのは数字ではなく、本当に自分のケーキを愛してくれる人がいることだった。