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炎嘉は、義心が調べて来た事、それに嘉張が調べて来た事と、維心の事、そして蒼から聞いた事を詳しい事を一気に話した。

志心は、最初は眉根を寄せて真剣に聞いていただけだったが、過去を知る者が現実に居てそれが迅と涼夏だという話になると、一気に険しい顔になり、そして、碧黎から維心のやり方では駄目だと、つまりは全部消すのでは解決にならないのだと聞いている、という事実を話した辺りでは、もう困惑したような表情になっていた。

志心も、恐らく二人の記憶を消してしまいたいと思ったはずだった。

「…ゆえにの、我一人では手に負えぬ事もあるかと思うて。」炎嘉は、続けて言った。「志心に言うても良いかというたら、好きにしろと言われた。」

志心は、聞き終えてハアとため息をついた。

やはり、聞かねば良かった。

維心に言わずに、この厄介な事を処理してしまわねばならないのだ。

「…支流とて流れに逆らうのは並大抵のことではあるまい。維心の力なくして我らでやるのは荷が重いのではないのか。まして、維心はその流れに従おうとするのだろう?そも、逆らって大丈夫なのか。碧黎が止めぬということは、世が乱れるわけではないのだろうが…。」

炎嘉は、頷いた。

「そうよな。蒼が言うには、神世の平穏に陸の宮は関係ないようよ。存在しようとしまいと、特に乱れる事は無い。もちろん、無くなるとなれば多くの神が路頭に迷うであろうが、それも平穏にはあまり関係ない。個々の神にとっては大変であろうが、全体には影響はない。蒼は、そういう個々の神の平穏も守りたいと考えているようだ。未来を知る者が、流れのままに世が流れて、その流れを利用して何かをしようとしておるのではないかと危惧して、そうならぬようにと動かそうと考えている。維心は、流れが平穏であるからそれをそのままに流したいと考えるので、何かあれば一刻も早く元に戻そうと強硬手段に出るだろう?我らは、それを止めて、尚且つおかしな方向へ行かぬようにと加減せねばならぬのよ。」

志心は、あまりにも途方も無さそうな事に、大きなため息をついた。

これまで、いろいろ維心に任せっきりでやっていただけに、面倒そうで気が遠くなりそうだった。

だが、それを炎嘉一人に任せきりになるのも、さすがに気の毒だった。

なので、言った。

「…わかった。しようがない、聞いてしもうたし我とてそんな懸念はさっさと消したいと思うが、未来を知るとかいう輩が何をどうしようとしておるのか気になるゆえ、それの対抗策として存在するなら仕方がない。我も手を貸そうぞ。だが、あまり期待するでないぞ?我とてそう優秀でもないのだからの。」

炎嘉はホッとして、頷いた。

「すまぬな。助かる。主ならそう言うてくれると思うたわ。我一人には荷が重かったのだが、主が居るなら良いわ。では、帰る。」と、炎嘉は、来た時あれほど疲れて居そうだったのに、落ち着いた顔をして立ち上がった。「新しいことが分かったら、十六夜が知らせてくれるだろうし、また主にも話す。ゆえ、共に考えようぞ。だが、維心には、それに他の王達にも内密にな。」

志心は、渋々頷いた。

「分かっておるわ。気を付ける。」

また面倒を持ってきおってからに。

志心は思ったが、こればっかりは仕方がない。

なので、それ以上何も言わずに炎嘉を見送った。

ここは、義心に気を付けねば、と志心は結界を強化して備えていた。


炎嘉が鳥の宮へと帰ると、開が出迎えに出て来て、言った。

「王、おかえりなさいませ。あの、塔矢様のことでありますが。」

炎嘉は、奥へと歩き出しながら言った。

「何やら皇女が何とかと。何の話であったのよ。」

開は、首を傾げた。

「さあ、分からぬのです。ですが、折り入ってお話がと。婚姻のお話かと思いましたが、それにしてはまだ聡子様は160歳とお若いし、そんな様子でもないようで。ただ、あれからお戻りになって、恵麻様がお帰りになる日も近いので、その折にまたお訪ねになるということでした。」

炎嘉は、そうだった、恵麻が出産で戻って来るのだったと頷いた。

「そうであったな。恵麻がもう産み月であった。皇子であると分かっておるとかで、あちらの臣下も大変喜んでおるらしいの。恵麻も手柄ぞ。まあ、まだ産んではおらぬが。」

開は、頷いた。

「はい。誠におめでたい事でありまする。恵麻様には大変に丈夫なかたでありますので、安くお産みになりましょうし。とはいえ、治癒の対では出産に備えて産所の準備は整っております。」

炎嘉は、頷きながら居間へと足を踏み入れた。

「それは良かった。ま、塔矢がそう言うということは、それほど急いでおらぬという事か。ならば良いのよ、あれがいきなり来たと申すから、また何かあったかと思うて落ち着かなんだのだがの。」

開は、椅子に座る炎嘉の前に、膝をついた。

「は。それで、龍王様はどのように。」

炎嘉は、ため息をついた。

「…あれは、十六夜と喧嘩して大騒ぎであったが、しかし我が月の宮へ談判に参って何とかなった。碧黎が十六夜を説得すると言うし、何とかなろう。だが…少し、厄介事を月の宮から押し付けられてな。維心にも言えぬし、とりあえずは我が下位の面倒を見ることになったわ。主も、何かあったら我に報告せよ。些細な事でも良いからの。維心には、面倒の無い二番目の英、加栄、覚の様子を見ておくように言うた。あれも、子供な所があるゆえ。落ち着かせることにしたのよ。なので、陸や塔矢、吉賀や銀令などを見ておかねばならぬ。詳しゅうまとめておいてくれぬか。」

開は、面倒な方をお引き受けになられたのだなと思ったが、頭を下げた。

「は!では、御前失礼致します。」

そうして、開が出て行ったのを見送っていると、十六夜の声がした。

《炎嘉。》

炎嘉がびっくりして窓の方を見ると、十六夜の姿はない。

月から直接話しかけているのだ。

「なんだ十六夜、驚くゆえ少し前置きとはないのか。」

十六夜は、答えた。

《慣れろ。これからいろいろ報告することになるし。》と、続けた。《お前が言うように、涼夏と迅は治癒の対に籠ってるぞ。それから、今夜定満んとこの軍神の男を攫って来て記憶の玉のコビー取ってまた帰して来る。また分かったことがあったら連絡するからな。》

炎嘉は、それなら維心より早いなと思いながら、頷いた。

「そうか。それで良い結果を待っておる。だが、なぜであろうな、それで本当に解決のなるのか、疑問よ。そも、主らという眷族は我ら神世にあって稀有なもので、そのようなやり方では本来、進まぬものなのだ。それが許されるのかと言われたら…まあ、天黎が見逃しておるのなら良いのかの。」

十六夜は、渋々と言った声で言った。

《…分かってらあ。お前から見て、オレ達のやり方ってのはチートだろうよ。でもな、過去を知る者も未来を知る者も、存在自体がチートだ。特に未来なんか知ってられたらこっちは困る。だからいいのさ。》

チートというのがよく分からなかったが、話の筋から言って恐らく不正行為というか、そんな感じの意味のような気がする。

炎嘉は、ため息をついた。

「ま、良い。我は解決さえしたら良いのだ。情報はこちらへ知らせてくれ。維心には言わぬが、主らが情報を出し渋るとなるとこの限りではないぞ。我だって、情報なしにどうにもできぬし、それで手遅れになっては維心に申し訳が立たぬ。あれは、我を信じて任せてくれたのだ。本来、自分が責任を持っておる世の中の事を、他神に任せたりはせぬものなのに。ゆえ、あれを裏切ることは出来ぬからの。そこは譲れぬ。」

十六夜は、頷いたようだった。

《分かった。じゃあまた連絡するよ。》

炎嘉は頷いて、そうしてその炎嘉にとって長い一日は、やっと終わったのだった。

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