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調査の終わり

「…そうか。」維心は、巻物を閉じて、言った。「吉賀は…まあ、那海であろうが、ようやったのだの。今の規模なら、上から二番目でもおかしくはない。だが、現在の王である吉賀の気がそこまでではないので、このまま那都が次の王となったらそれは考えるとして、今は間違いなく上から三番目の地位を与えて然るべき様ぞ。次の会合までに炎嘉と話さねばならぬ。」

鵬は、頷いた。

「はい。誠に那海様とは、我が王妃様と同じ月の眷族であられるから、それは優秀な妃であられるようで。立ち姿も文言も、仕草も完璧な貴婦人であられました。宮の侍女侍従の教育も問題なく、まるでこの宮に居るのかという様で。誠に細やかな教育が行き届いた様子でありました。」

維月は、維心の隣りでそれを聞きながら、思っていた。

この眷族は、何でも真似が上手いのだ。

一度教えられたらなかなか忘れないので、全てが完璧な神を真似ることで、完璧に振る舞うことができる。

那海は、ここで躾けられた維月が教えたので、維月と同じ動きができているはずなのだ。

そして、もちろん世界を造るほどの命なので、かなり優秀だ。

教えられたことを完璧に頭に入れてそれを使って考え、この世界でどうするのが良い方向へと行くのか、しっかりと計算して動いたのだ。

維心は、頷いた。

「あれは、月の眷族というて天黎と同じ命であるからな。小さくなっておったが、元の能力はかなり高いはず。それが本気で励めば、宮一つぐらいいくらでも大きくできよう。それにしても…この様子では早急に序列を上げた方が良いな。もはや下位の宮の水準ではない。このままでは、変に妬まれるだけぞ。炎嘉が言うように、領地を広げることも考えて、早急に我も考えておく。上の序列に入ってしまえば、あれらは逆らうことができぬようになる。吉賀の事は、その線で考える。」と、巻物を鵬へと返した。「…それで、陸の所は知っていた通りであるが、涼弥であるな。そこまで酷いか。」

鵬は、ため息をついて頷いた。

「は…。見て参りましたところ、あの規模であの臣下の数であるにも関わらず、職人の数は恐らく30程度。染め、織り、縫製の職人が10ほど、義心が宮を案内される時に窺ったところ、酒の醸造に五人、細工と木工が7人、その他、庭などを世話しておったり、設備の修理をしておる者達が数人かと。」

維心が眉を寄せる。

義心が頷いた。

「宮を訓練場まで歩いて参る時に窺いましたが、それぐらいの数でなければ合わない気配と音、それに作業場の大きさでありました。多く見積もってそれなので、もしかしたらそれ以下という事も…。」

維月は、横でそれを聞いて絶句した。

龍の宮には、織りの職人だけで500は居るのだ。そしてそれの見習い達はその倍は居て、臣下のための布を織ったりしている。

そして、他の縫製、染め、それを統括する職人と、規模が桁違いなのだ。

しかも、細工と木工が同じというのはあり得ない。

細工にしても、頚連の細工専門、耳飾り専門、刀飾り専門など、その中でそれを専門にする職人達が大勢居る。

木工も、塗り専門、椅子専門、文箱など箱専門、机専門など、また中で多岐に渡っているわけだ。

酒の醸造など、それだけで1000以上が働いているのだ。

ちなみにその他にも、製紙を担当している龍達も居るし、筆などを専門に作っている細工職人も居る。

挙げるときりがないほど、多くの職人を抱えているのだ。

もちろん、龍の宮は最大の宮なので、それぐらいの職人が居ないと宮が回らない事になる。

職人は、多ければ多いほど切磋琢磨するので、龍の宮の職人は神世一と言われているのだ。

維心が、言った。

「…まあ、あの規模の宮であるからという事を差っ引いても少な過ぎようの。全く己で宮を維持する気持ちが無いという事ぞ。少しずつでも増やして参れば、そんな少ない数であるはずがないのだ。つまりは、高峰からの支援を期待してそれを頼りに回しておる宮、自立の意思のない宮と言われても何も言えまい。」

鵬は、重苦しい表情で頷いた。

「はい。筆頭重臣の朱理と話しましたが、倹約して耐えることに関して、抵抗があるようで。臣下があれでは、王が強く推し進めぬ限りは、やはり皇女を嫁がせてという方向で考えることになるのではと案じておりまする。王に於かれましては、何年様子を見られるおつもりでしょうか。」

維心は、答えた。

「百年ほどかと炎嘉と申しておる。」鵬は、険しい顔をした。維心は続けた。「主の心地は分かる。百年では、今から始めてギリギリよな。それも、持てる力を全て使って励まねば自立まで成し遂げられまい。しかし、吉賀は50年でやった。可能なはずぞ。」

鵬は、下を向いた。

適格にその都度指示をする、那海が居たからこその快挙だと、分かっているからだ。

とはいえ、その倍の時間を与えようと言っている。

多少試行錯誤をしても、間に合わない時間ではないのだ。

義心が、言った。

「…塔矢様の宮は、どのように。」

維心は、ふうとため息をついた。

「そうよなあ…何しろあやつは欲のない奴で、ああして生きるのが性に合っておるようでの。無理に大きな宮を持たせるのもとは思うが、しかしあれだけの能力を持っておるのにもったいないのだ。」

維月が、ふと、言った。

「…塔矢様には、他の宮から職人を預かって育てることをお願いしては?」維心が維月を見ると、維月は続けた。「塔矢様は、何事にも優れておられるようですので、何かの面倒を見ることも、他よりお得意ではないかと思うのです。何より、神の助けになるのですから。きっとお引き受けくださるのでは?」

上位の宮で預かるのも良いが、あまりのレベルの違いに萎縮してなかなか進まないことが多い。

確かに、同じ下位の中の塔矢に教えてもらうのが、確かに良いのかもしれない。

「…塔矢には、教えることの報酬を上位の宮から送るようにすれば、恐らくあれは引き受けてくれようが…どうしたものか。近々炎嘉でも呼んで、ちょっと話し合うわ。我にはここで決められぬ。とにかく、下位の宮を調べておった志心も呼んで、明日話す。鵬、予定を空けよ。」

鵬は、頭を下げた。

「は。では、明日の宮の会合を先送りということで。」

そうして、いきなりの呼び出し状を、明日来いと、炎嘉と志心に向けて、維心は送ったのだった。


夕方になって送った書状への返事は、早朝の先触れだった。

志心と炎嘉から、今から行く、と送って来たのだ。

維月はまだ寝ている時間にその書状が来たので、維心は一人、むっつりと機嫌を悪くしながら、二人を待った。

維心が維月が起きるのを、結構日が昇るまで寝台で待っているのを知っている炎嘉と志心が、こんな早朝に先触れを送って来るのは、どうもいきなり来いと言ったことへの、嫌がらせのように思える。

維心は、嫌味のひとつも言われるだろうな、と面倒に思いながら、居間で二人を待っていた。

すると、夜が明けて来てすぐに、二人は龍の宮へと降り立った。

嫌がらせにしては早い到着だと怪訝に思っていると、炎嘉が先に居間へと入って来て、言った。

「維心!主、本来ならいきなり来いとはと腹を立てるところであるが、我も言いたいことがあるゆえちょうど良かったわ。宮の政務を炎耀と炎月に押し付けて参った。志心も降りて来るところであったから、もう来るわ。」

すると、言った途端に扉がまた開いた。

「主は歩くのが早いの。追いつくかと思うたのに。」と、炎嘉に言ってから、維心を見た。「いきなり何ぞ。まあ、我も話さねばと思うておったところであるから、早々に来たわ。」

どちらも、何かあるらしい。

維心は、ため息をついた。

「まあ、座れ。で、精査は終わったか。」

炎嘉は、頷いた。

「終わった。何しろ小さい宮ばかりであるからの。我が調べたところは、全て支援が必要な宮ばかりで…何しろ、101位から200位までであるからの。多かれ少なかれ、支援無しでは立ち行かぬので、どこかの宮に吸収されるのでしょうかと泣きついておったらしいわ。」

志心は、言った。

「こちらなどもっとぞ。201位から305位までであるからの。最下位の宮は、もうほとんど臣下の宮と変わらぬ様子で、皇女を嫁がせようにもなかなかウンと言ってはもらえぬで、仕方なく侍女として出して、足りぬ分は一時支援を繋いで何とかしておるらしい。あれでは、いっそどこぞの臣に落としてやった方が楽であろうなと思う。」

維心は、どこもそんな感じかと、言った。

「我の所では、上位の方は自立できておる宮が多い。元々、そういうことで序列を決めておったし、当然といえば当然ではあるが。あと少しで自立ができそうな宮も多かった。ただ、問題は涼弥の宮ぞ。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「ああ、まあそうであろうな。あの宮には行ったことがあるゆえ何とのう分かるが、あれから変わっておらぬとしたら、職人は40ほどしか居らぬのでは?」

維心は、首を振った。

「今は30ほどらしい。高峰が居らぬと、全く回らぬのだ。」

二位がそれか。

さすがに、志心も盛大に顔をしかめた。

「高峰の対面もあろうし、皇子の気がそこそこあるゆえ二位に格上げしておるが、それではならぬな。他の宮への対面もある。陸の宮が三位というのが、それでは軋轢が生まれようが。」

維心は、頷く。

「その通りよ。まあ吉賀の宮の品位は問題ない。また見て来てもらえば良いが、内情はこうだとわざわざ書にして義心と鵬に託して参った。それがこれよ。」

維心は、巻物を二人に渡した。

炎嘉は、それをサッと見て、唸った。

「…また全て手の内をさらけ出して来たのか。それにしても、よう短期間でここまでにしたの。さすがに天黎と同じ命、侮れぬ。」

維心は、また頷いた。

「我もそのように。蒼がこの前申しておったが、那海の命は少し大きくなりつつあるようぞ。ああして己で考えて命を守ろうとしておるのが、どうやら学びになっておるようであるな。これなら、上から三番目に早急に上げることを考えた方が良いかと思うておるのだが。」

志心が、炎嘉から巻物を手渡されて、それを見ながら頷いた。

「問題ない。あれを三番目に上げよう。領地は広く取れる…とりあえず、己から臣に下りたいと言う宮を募ろう。そうしてそれを吸収させる。」

炎嘉が、言った。

「それも良いが、翠明とこの間話したところによると、自分の傘下に加えるという、西の島方式にしたらどうかと。翠明は、自分の傘下に50の宮を抱えておって、それらの世話をしながらやっておるが、各々自分で政務を執り行いながら、翠明の結界内に居るそうな。基本己でやっておるが、重要なことは翠明に聞いて来る。こちらの会合に出るのも翠明だけで、あれらはこちらでは王とは認められておらぬだろう?そんな形ぞ。」

そうだった、西の島はそんな感じだった。

志心と維心は、思い出していた。

翠明はその50の宮の王達に王と呼ばれ、実際王として君臨しているのだが、その宮の中ではそこの王が王なのだ。

形は残っているが、王というよりも、力のある臣下のような位置付けになる。

それは、もっと気が小さな時でもそうだった。

ということは、優秀な王なら、それができるということだ。

維心は、フッと息をついた。

「…吉賀に、翠明と同じことができるかという事になるの。」言われて、確かに、と炎嘉も顔を曇らせる。維心は続けた。「まあ…那海が居るゆえ。だが、何とも心許ないが…。」

王妃に頼る宮というのもどうだろう。

三人は、考え込んでしばらく沈黙が続いた。

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