動き
王達は、結局そのまま仮眠を取りながらも夜を徹してゲームを進めて二日で完結し、皆が幸福になるエンディングを迎えた。
とはいえ、たった一人の黒幕だった、自分達の王を最後に倒す必要があり、それが真のラスボスで、全員が満身創痍になりながら、やっとの事で倒した時には、見ていた皆が歓声を上げた。
何しろ皆が次々に瀕死状態になって行く中で、最後まで残ったのはモブキャラの回復役を務めていた蒼と、維心と炎嘉のたったの三人だったのだ。
蘇生薬も尽きて他を起こす事もできず、やはり炎嘉が囮となって維心がとどめを刺すという方法で、何とかやり遂げる事ができた。
エンディングロールが流れる中、皆が幸福なアニメーションがその背後に流れていて、その中には前回殺してしまったバーントの姿もあった。
どうやら退役して故郷の村に帰り、そこで農業を始めたようだ。
敵だった国の王は、バーントを城に迎えたがっていたが、それは叶わなかったということらしかった。
その敵国の王は、バーントの母の写真を見つめて何かを回想している映像が流れた。
こちらの国でも、見事に剣を持ち帰った6人が城へと入って、皆で国を治める事にしたようだった。
それが終わり、皆はホッと息をついた。
これが、小説に書かれていた、真実のエンディングだったからだ。
「…やり遂げたわ。」炎嘉が、言った。「真に悪い者などよう調べねば分からぬもの。知っておったはずなのに、我らはたかがゲームと侮って後悔することになった。此度は良かった。これで気が済んだわ。」
焔は、コントローラーを投げ出して言った。
「もう無理ぞ。我一人では無理であった。というか、維心と炎嘉が居らねばもっと死んでおった。主らはゲームの中でも優秀であるな。実戦で勝てぬのも分かった気がする。」
蒼は、頷いた。
「ここへ来るという勘と、回避する方向に間違いがないんですよね、お二人は。そういうのは、持って生まれた戦いの勘というものですかね。」
維心は、言った。
「無意識であるから分からぬが、恐らくそうであろうな。だが、我一人の事ではないのよ。いつなり炎嘉が我を庇ったり、囮になったりと動いてくれるゆえ我は生き残るのだ。志心や箔炎の補佐もあった。我を庇って何度も倒れた。これは戦場で、何を優先すべきなのか皆が役割を弁えておるからなのだ。実戦でも同じことよ。真に命が懸かっておる場で、これらは同じように動いて戦って生き残った同志なのだ。今も絆が強いのは当然の事と思い出したわ。」
志心は、苦笑した。
「勝つためには己が生き残るよりも、何より維心を生かして戦わせることが最優先なのは誰もが分かっておることなのだ。仮に最後に残ったのが己であった事を考えると、我では勝てなんだ。そういうことなのだ。とはいえ、単騎であそこまで手強い敵などこれまで居た試しはないがの。」
炎嘉が、ハッハと笑った。
「誠にな。何しろ維心があり得ないほど力を持っておるから、回りから味方を廃してこやつに気を吐かせて一気に始末した方が速かった。我らは取りこぼされた奴らを始末するだけ。実戦の方が楽であったわ。」
維心は、言った。
「どちらにしろ、終わった。」と、コントローラーを置いた。「蒼、陸は何と言って来た。」
蒼は、いきなり現実に引き戻されて目をパチパチさせたが、答えた。
「ええっと…はい、こちらに確認に参ると。なので皆様がお帰りになった後の明後日に指定しております。」
維心は、頷いた。
「ならば良い。その日は義心を来させるゆえ、秘かにどこかで様子を見させて欲しい。様子を知りたいからの。」
「何なら明日にすればどうか?」焔が言った。「帰る前に潜んで実際に見たら良いではないか。どうせ朝なのだろう。」
志心が、頷いた。
「良い考えよ。もう帰るから明日来いと申せ。我らは軍神を先に返すゆえ、問題ない。そんなに多く連れて来ておらぬし。」
蒼は、え、え、と皆を代わる代わる見た。
「え、どうします?明日にしますか?」
維心が、頷いた。
「ならばそれで。問題ないわ、陸には本気で潜んだ我らを気取れぬよ。」
蒼は、いきなり変更であっちは大丈夫かなと思いながら、慌ててコントローラーを置いた。
「じゃあ、書状を送ります。明日の朝来いと。」
炎嘉が、頷く。
「そうせよ。面倒は早く済ませたいしな。我らだっていろいろ考えることがあるゆえ、暇ではないのだ。」
ここで四日も遊んでるけど。
蒼は思ったが、仕方なく急いでそこを出て廊下を走って行ったのだった。
その日はおっとりと、これまで飲めなかった酒を飲みながら、維心達は楽しんで、早めに休んだ。
その間、蒼は陸からの書状をやり取りをして席を外していたので、ほとんどその場に居なかったが、最後に控えの間へと引き揚げる前に、やっと合流して来て、言った。
「やっと、陸との調整が付きました。こちらが言った通り、明日の朝こちらへ来てくれるそうです。迅と昌士にもその時間に宮へ上がっておくように言ってありますので、二人一緒に対面という事になります。こちらからは昌士一人を対面させようと思っていたのですが、あちらから、どうしても迅とも面会したいとのことで。」
炎嘉が、言った。
「恐らく迅には謝罪せねばならぬからの。何しろあれは、迅に庇われて何とか残っておるわけで、本来正月明けにさっさと見限っても良かったのだ。他の宮との対応の違いがあるゆえ。陸は本来気の良いヤツなのは確かなので、我に返ってさすがに己がやった事が身につまされたのだろうの。」
維心は、頷いた。
「ならば良いが。陸にはこれから試練が連続して起こるだろう。それに伴って、いろいろ宮も動き出す。我が気にしておるのは、今は反抗の芽もないはずなのに、どうも不穏な気を感じる気がするからぞ。なんであろうな…分からぬが、どうも陸周辺が落ち着かぬ。義心にも、しっかり見ておくようには言うておる。だが、あれにも限界があって、表立って何かしておったら目につくだろうが、そうでなければ分からぬのだ。潜在する何かがあるのか、それとも愛羅が帰らぬのを何となく陸が気取っておるからそうなのか、我にも分からぬ。しかし、とにかく落ち着かぬ空気を感じるのだ。」
それには、志心も言った。
「主もか?我も気のせいかと思うたが、どうも順調に宮の改革を進めて、まだ妃が帰らぬ事実を知らぬはずの陸の宮が、不穏な気がしてならぬのよ。臣下が知っておって懸念しておるからその念であるかとも思うたが…分からぬ。」
維心は、志心を見た。
「主もか。ならばますますそれは誠に何かあるの。陸自身ではない事は確か。あれは何も知らぬから。ならば主が言うように、やはり臣下が何か…。」
維心は、考えるように視線を落とす。
炎嘉が、言った。
「なるようになるしかない。外から見て分かることなど限られておる。まして義心は宮の中まで偵察して来るのに、まだ何も気取れていないのだろう?ならば仕方のないことよ。下位の宮一つ、何とでもなる。最悪消してしまえば良いのだ。」
志心は、顔をしかめた。
「確かにそうだが、涼弥の妃の事もあるだろう。面倒は起こる前に潰した方が良いのよ。引き続き見張っておくに越したことはない。」
祟り神の気ではない。
そんな雰囲気ではないからだ。
だが、何やら得体のしれない不穏な様子を感じるのはなぜだろう。
維心は、ため息をついた。
「とにかく、明日陸を見ることができるゆえ。あれが来たら気を探って様子を見よう。あれに何もなければ、恐らく臣下達の懸念か何かだろうて。何事も、一歩一歩進むしかないのよ。」
そうは言っても、蒼は気になった。
蒼も、何やら胸騒ぎがするのだ。
迅と涼夏、昌士をあの宮へとやるのが、たまらなく不安な気がする。
涼夏も、分かっているし自分で決めた事なのに、月の宮から出るのが無性に不安に感じる時がある、と言っていた。
蒼も、あの三人を出すことが、あの時志心を見送った時のような、不安と伴って落ち着かなかった。
それでも、正体の分からない何かを恐れていては、先へは進まないのだ。
なので、蒼は何も言わずに、そんな会話を聞いていたのだった。




