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祟り神

維心は、塔矢と共に先触れもなくいきなり来た炎嘉を、会合の間へと通していた。

臣下達が居並ぶ中の事だったので、塔矢は緊張気味な顔をしていたが、炎嘉は我関せずで維心に大股に歩み寄った。

「維心、話さねばならぬ。会合の最中なのは知っておるが、こっちの方が先ぞ。」

維心は、頷いた。

「分かっておるわ。いきなり来るぐらいだからの。ここへ呼んだのは、維月が居間に居るからぞ。あれは何かと気にしておるので、聞かせとうないのだ。それで?何があった。」

炎嘉は、塔矢を見た。

「塔矢から話す。塔矢、維心に我に話したことをここで申せ。」

塔矢は頷いて、炎嘉に言った通りの涼弥の宮でのこと、その娘が気取って来たことを掻い摘んで話した。

維心は、じっとそれを聞いていたが、段々に眉が寄って来た。

「…祟り神だと?」

炎嘉は、頷いた。

「そうなのだ。まさかと思うが…何しろ、あんな小さな気の女神が祟り神になったという事は聞かぬから。だが、迅が言うておったという、佳織から夏奈の気がするような気がする、というのが気に掛かる。まさか、何か仙術で、共鳴した神の気を吸収するとか、そんなのがあったのではないのか。蒼に聞けば何か知っておるかの。」

維心は、じっと考える顔をした。

「…仙術など何でもありであるから、恐らく探せばあるやもしれぬが、確かに最初は仙術のような気も感じられたが、今はそれが薄まっておるように思う。問題は、祟り神になろうとしておるかどうかぞ。誠にそうなら、あの辺りは誕生のエネルギーで壊滅的ぞ。志心の結界まで逃げ延びたら助かるだろうが、それでなければ全て消える。まだ無事であるから、祟り神になりかけておったとしても、まだなっては居らぬという事ぞ。困ったものぞ…次の会合の後に主らと見に参ろうと思うておったのに、もう行かねばならぬか。」

炎嘉は、頷いた。

「行こうぞ。どちらにしろ見て来なければ。涼弥の子達が申すように、確かに数百年前に感じたあの面倒な気に似ておる。だが、もしかしたら小さいから気取れなかっただけなのかもしれぬ。」

維心は、頷き返した。

「その通りよ。そもそも祟り神になるのは、大きな気を持つ王レベルの神だと決まっておった。それも、我が最後の祟り神を消してから出現しておらなんだのが、前世の炎託が過去へ行った時に連れて参った奴らがその気に当たって帰って来たゆえ、その折二体が出現しそうになったことがある。その時居った者達しか、恐らく祟り神の気を知っておる奴はおらぬだろうし、それらも我らと同じように、小さな気で気取れなかっただろう。まだ分からぬが、その可能性があるのなら我が参らねばならぬ。」

維心が立ち上がると、鵬が言った。

「お出ましでしょうか。」

維心は、頷く。

「義心は恐らくあの辺りに居るだろう。行って参る。帝羽と明蓮を呼べ。連れて参る。」

鵬は、頭を下げた。

「は!」

そうして、維心は炎嘉と塔矢と共に、会合の間を出た。

そして、ふと居間の方向を探ると、どうやら十六夜が来ているような気配がした。

だが、今はそれどころではないので、維心は出発口へと真っ直ぐに向かって行ったのだった。


志心は、志夕と夕凪、雲居、その他軍神達と共に、高峰の結界の上に到着した。

近付いて見て分かったが、高峰の結界は極弱いものになっており、その内側に安峰が結界を張っている状態だった。

「…どうなっておる。高峰は病か何かか?…やはり安峰は何かを隠しておるな。夏奈の事ばかりではないようぞ。」

夕凪が、何かを堪えるような顔をしながら、頷いた。

「近くで見るとまた何とも言えず…気分の悪くなるような気でありますな。」

志夕も、志心の横で歯を食い縛っているものの、青い顔をしていた。

「昔戦場で感じた気に比べたらマシな方ぞ。」志心が言って、志夕を見た。「主、大丈夫か?また柔になってしもうてからに、最近の神は殊の外こんな気に弱いものよ。我も言えぬが、我の場合は女の怨嗟に弱いのであって、こういう本物の邪悪な気には何ともないわ。つまり、これはただの女の怨嗟の念ではないということであるがの。」

志夕が、驚いたように志心を見る。

「え、という事は…?最初から、おかしなものに?」

志心は、首を振った。

「最初は確かに女の嫉妬のような恨みのような気であったわ。だが、今は違う。変化しておる…これは、安峰を直接問い質すしかない。」と、足を安峰の結界の方へと向けた。「気が進まぬが、中へ入るしかないわ。夕凪、大丈夫か?顔が真っ青だぞ。」

夕凪は、気力を奮い立たせて頷いた。

「は。王がお越しになるのに、我が行かぬわけには。」

志心は、首を振った。

「具合が悪いのに、反って足手まといぞ。雲居が楽そうであるから、雲居を連れて参る。主はここで、他の軍神と待っておれ。」と、雲居を見た。「行くぞ、雲居。志夕、主も来い。これぐらい、慣れればどうでもない。主は王になるのだから、慣れておくのだ。」

志夕は、心底行きたくなさそうだったが、頷いた。

「は。では共に。」

そうして、志心は志夕と共に、雲居を連れて安峰の結界へと降りて行ったのだった。


その頃、安峰は軍神達から報告を受けていた。

「安峰様、志心様が!志心様が軍神数人と結界外に来られておりまする!」

安峰は、顔色を変えた。

最上位の宮の王である志心は、この宮の側近くに大きな宮を構えていて、昔から親交のある王だ。

何かあったらここでは志心に頼むことが多いのだが、志心は曾祖父の代から王であり、その頃から怒らせたらこれほどに怖い王はない、と代々言い伝えられて来ていた。

その志心が、自らここへ来たということは、恐らく昨日の涼弥の宮へ押し掛けた事実が、龍王の耳に入ったのだと思われた。

龍王から志心は筒抜けなので、恐らく志心がやって来たのだと思われた。

「…どうしたら良い。父上はあんなご様子だし、それを気取られるわけには行かぬ。だが今の夏奈を隠し通すなど到底無理だ…。」

重臣の、辰也が言った。

「安峰様、ここは腹を割って正直に申された方がよろしいかと。」安峰が顔色を変えると、辰也は続けた。「どうせ知られることなのです。このままでは、きっと夏奈様の居られる場所にも押し入ろうとなさるだろうし、それを留める術も我らにはありませぬ。せめて全て包み隠さず申し上げて、その上で対応策を共に考えて頂くのが、最善ではないかと。我も、万策尽きた状態なのです。もはや、仮に涼弥様が夏奈様を引き取ってくださったとしても、高峰様と咲奈様が元へ戻られることはありますまい。ここは、すっかり話してご譲位を進めて頂き、後の事は最上位の王達にお任せになるのがよろしいかと。」

安峰は、キッと辰也を睨んだ。

「そのような事をして、我らの宮が無事でいられると思うのか。今は序列を決め直しておる大事な時なのだぞ?!」

辰也は、首を振った。

「もう、どうにもならぬのでございます。」安峰がショックを受けた顔をすると、辰也は続けた。「序列の問題ではないのです。夏奈様を、こちらへ迎えて変化があった時に、処分してしまわれるべきでした。こうなってしまったからには、高峰様のことは夏奈様と共に諦めて頂き、安峰様だけでも生き残られて、無事に永峰様へと繋いで頂かない事には、この宮の未来自体が無くなるのです。しっかりなさってくださいませ!」

辰也に叱責されて、安峰はそこまで来てしまったのか、と愕然とした。

そう、もう手に負えないのだ。

何もかもが、後悔してもし切れないほど後手に回ってしまい、今ではどうすることもできなくなってしまった。

辰也が言う通り、今更涼弥に引き取らせたとしても、父と母は戻らない。

あの、夏奈のおかしな気に飲まれてしまった状態では…!!

「…志心殿をこちらへ。」安峰は、筆頭軍神の輪を見た。「ご案内しろ。全て話すと。」

輪は、膝をついて頭を下げた。

「は!」

そうして、輪は志心を迎えに結界へと出向いたのだった。

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