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044作品目  作者: Nora_
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01話

「え、お姉ちゃんまだ帰ってきていないの?」

「だな。ただ、あいつにとっては珍しいことじゃないからな」

「呑気なことを言っている場合じゃないよ、この場合はまた迷子になっているってことでしょ?」


 学力とか運動能力とかは本当に素晴らしいのにどうして方向音痴なんだろう。

 しかも自分の家にすら帰れないって重症だ、仕方がないから外に出て探しに行く。

 二十時を過ぎているから当然暗くて寂しい夜道を歩く羽目になったけど、それよりは重要じゃない。


「なにをしているの? こんな夜遅くに出歩いたら危ないじゃない」

「す、すみませ――って、それはこっちのセリフだよ……」


 割と家の近くで姉と遭遇した。

 こっちは一応心配で出てきたというのに姉の方は真顔、これじゃまるで自分が迷子になっていたみたいじゃないかと複雑になる。


「新しくできたお店があるってクラスメイトから聞いたから行ってみたのよ、いいお店だったわ」

「で、迷子?」

「……そこはノーコメントで。帰るわよ」

「なんか釈然としないけど……分かった」


 まあ、姉が無事ならそれでいいか。

 で、家に帰ってからもそのお店の話を聞かせてくれた。

 どうやら雑貨屋さんらしい、今度一緒に行こうとも誘ってくれた。

 ただ、どこかへ行く時はちゃんと言ってからにしてと伝えておく。

 それで毎回心配で飛び出したうえに真顔で先程のようなことを言われるのは耐えられないからだ。


「早くお風呂に入りなよ」

「まだ今日買ってきた本が読みたいの」

「先に入ったら後が楽でしょ!」

「はぁ……あなたは私のお母さんなの? 先に読ませてくれてもいいじゃない」

「駄目! そう言って夜中まで本を読んで風邪を引いた時だってあったんだから! お母さんは……いないんだから私が代わりなの」


 とはいえ、別に亡くなったわけじゃない、私達がまだ小学生の頃に離婚をしてしまったというだけのことだった、それからはお父さんには働くことに集中してもらって私達で家事とかはしてきたというわけ。

 お買い物とかだってそう、でも、私達の姉妹バランスはそのままというわけじゃない。

 先程も言ったけど姉は文武両道で綺麗だ、友達は沢山いるけどそれ以外は基本的にズボラでこうして指摘してあげないと駄目なのだ。

 本当ならできれば学校での姉みたいな感じでいてほしい。


「まあほら仁美ひとみはお姉ちゃんなんだからもみじを困らせない」

「放っておいてくれればいいじゃない、別にお風呂くらい後で入るわよ」


 はぁ……駄目だこりゃ。

 家では絶対にあんな格好いい姉にはなってくれない。

 学校で頑張っているからこその態度なのかもしれないけどさあ……。


「私、寝るね」

「おう、おやすみ」

「おやすみなさい」


 まあ、まだ姉妹関係が悪くないだけマシと言えるだろうか。

 それでもたまにでいいから家でも見せてほしいなと願いつつ、私はすやすやと寝たのだった。




 翌朝、案の定ソファで寝ていた姉を発見した。

 寝起きは悪いし、指摘したところで文句を言われるだけだからなにも言わずに準備を済ます。

 既に洗濯してあるものを干して、それが終わったら朝ごはんの準備。


「椛、俺はもう行くぞ」

「え、朝ごはんは?」

「コンビニで買うからいい。朝から負担かけられないからな」

「別にいいのに……結局あの人の分まで作るんだからさ」


 あの人とは当然家ではズボラな姉のことだ。

 せっかく大好きなのに……全然聞いてくれないんだから。


「仁美に美味いの作ってやってくれ。あ、お金は机の上に置いてあるから買い物とか頼む」

「分かった、行ってらっしゃい」

「おう! 今日も頑張って稼いでくるぜ!」


 とにかくごはん作りを優先、朝からなにも食べていないと一日元気に過ごせないから駄目だ。


「ふぅ、できた」


 目玉焼きとウインナーとレタス、簡単だけどちゃんとごはんも食べれば朝から空腹感に襲われることはないだろう。


「ん……あれ、いま何時?」


 そのタイミングで姉が起床、午前七時前だと伝えたらお腹に掛けてあった毛布を引っ剥がして慌てて立ち上がった。


「はっ!? な、なんで起こしてくれないのよ!」

「知らないよ、だから夜ふかしをするなって言ったのに」

「はぁ……着替えたらもう行くわ」

「え、ごはんは?」

「いい! そんなの食べている時間はないから!」

「……そっか、じゃあ気をつけてね」


 そんなのって……いやそりゃ他所様に比べたら普通以下かもしれないけどさ。

 ……捨てるわけにもいかないから無理やり流し込んだ、おかげで朝から食べすぎて胃もたれして、重い足取りで学校に向かう羽目になった。


「……着いた」

「遅かったな」

「あ、ひびきちゃん」

「どうした? 朝からそんなに疲れた顔をして」

「もうやだぁ……あの人のために家事をしたくないぃ!」


 彼女に抱きついて泣きわめく。

 もうやだ、なにが嫌ってやめられないことだ。

 なんか自分の分だけ作っていたら仲間外れみたいで嫌なんだ。

 だから作るけど、ああいうことがほとんど常だから最悪だった。


「あの人……ああ、仁美のことか」

「……だってごはんを作っても食べてくれないんだもん、お弁当だって結局持っていかなかったし」

「後で持っていってやるよ」

「うん……もうお姉ちゃんは響ちゃんがもらって」

「いらねえよ、家ではぐーたらだからな」


 学校では普通なのが問題、もうずっと問題のある人の方が気が楽な気がする、姉を持て囃す人は姉の本当のところを知らないから盛り上がれているわけだ。


「朝倉椛はいるかしら」

「あ、はい、あそこにいますよ」


 ああ……朝の慌てようはなんだったのかってぐらい真顔の姉到来。


「椛、お弁当」

「……はい」

「ありがとう」


 朝はごめんねとかないのか!

 でも、周りの子は「あの仁美先輩にお弁当を作ってあげられて羨ましい!」とか思っているんだろうな。

 なんであんな人が人気なんだろう、言うことだって聞かないし、それどころか文句しか言わないのにさ。


「響ちゃん……もう私をもらっておくれ」

「嫌だよ、そんなことしたら仁美がセットで付いてくるからな」

「ないよ、仲がいいのかどうかも今日で分からなくなったもん」

「無理だ、席に座って休憩でもしていろ」


 あ、しかも結局お金を忘れてきた……お買い物に行かなければならないのは確実だから二度手間に……。

 一回家に帰らなければならない、面倒くさい、だけどしょうがない。


「もうやだぁ……」

「ワガママ言うな」


 朝から憂鬱だった、しかしぼけっとして過ごしていたらあっという間に放課後になった。

 おかげでなにも授業内容を覚えてないけど、怒られなかったから良しとしよう。


「帰ろうぜ」

「ごめん……お買い物に行かなきゃいけないんだ」

「なら持ってやるよ」

「いいよ、お礼だってできないし」

「気にすんな、行こうぜ」


 今日買う物は十キロのお米やお醤油や料理酒とかキャベツとか重いのばかりだから助かる。

 けれど、だからこそ罪悪感も出てくるわけで、お父さんには悪いけど響ちゃんにだけケーキを買うことにした。

 ちなみに「いらねえよ」とか言っておきながら即受け取ってくれました。


「つっかれたぁ……お前、よくできんなこんなの」

「しょうがないよ、私がやらなきゃ誰もやらないもん」


 父に迷惑はかけたくないからしょうがない。

 あの人に任せたって迷子になって遅くなって、結局それでも私がごはんを作ることになって負担が増すだけだ。

 だったら最初から全部自分でやった方がいい、期待はしない。


「仁美にやらせればいいだろ? 長女なんだから」

「無理だよ。とにかくありがと、いつもお世話になっています」

「気にすんな、それじゃあな」

「あ、待って! 食べていってよ」

「いいのか? じゃあ食べさせてもらうかな」


 とは言っても結局市販のシチューだから手料理とは言えないのがなんとももやるところ。


「どうぞ」

「ありがと、いただきます」


 今回も一応姉の分まで作ってある、冷めちゃうけどその都度作るなんて嫌だから諦めてほしい。


「うん、椛はいいお嫁さんになるな」

「無理だよ、男の子と普通に会話もできないもん」

「別に女の嫁でもいいだろ?」


 それだったら確かに気楽そうだ。

 あ、でもそれが姉みたいなタイプだったら? 心労が果てしなさすぎて離婚は必至……というかそもそも同性婚ってできたっけ? そういう国に行かないとできなかった気がするけど。


「ただいま」

「……おかえり」

「え、なんで響がいるの?」

「なんでもなにも、手伝いをした対価だこれは」


 そうだよ、なにかしてくれれば私だってその人のために作ってあげたいってなるんだ、姉みたいにしてもらって当然、文句を言われたら無視をするタイプなんかには作りたくなくなって普通なんだ。


「食べたら帰りなさい」

「元からそのつもりだから待ってろ」

「ふんっ、あなたはいつも生意気ね」

「手伝いもしないで『仁美様ー』なんて学校では持て囃されて満足している人間と比べればマシだぞ」

「あなたねえ!」

「やめてっ、響ちゃんはなにも悪くない!」

「年上に敬語も使えない子が悪くないの? あなたは甘すぎるんじゃない?」


 ぐっと堪えて食べ終わった響ちゃんと外に出る。


「ごめん、嫌な気分にさせたよね」


 こんなことがしたくて家に呼んだわけじゃない、手伝ってもらった後にこんなことをしてしまったらとんだ罰当たりだ。


「気にすんなよ、それより椛の方は大丈夫なのか?」

「うん平気、昔からこうだったもん、もう慣れちゃったよ」


 嘘をついた。

 結局ここで助けを求めてもなんにも変わらないことを知っているからこその選択、そりゃそうだよねという話だ、面倒事に自分から巻き込まれたいと考える人間はいない。


「ここでいい」

「え、家まで送るよ?」

「さっさと帰って飯食って風呂入って寝ろ」

「うん……それじゃあね、今日はありがと」

 

 ああいうことが何度も続くと出て行きたくなることもある、でもだからって「世話してあげる」なんて言う人は当然いないだろうから我慢をして生活を続けることなるのだ、お金もないのだから当然のことだ、それでも弱い心がどうしても……という話だった。


「あれ、珍しいな」

「あ、お父さん、お疲れ様」

「いつも椛もお疲れさん、嫌なら溜めておいてくれてもいいんだぞ?」

「そういうわけにはいかないよ、汚れたまま放置とか嫌だもん」


 頼りすぎな状況になるのも姉になったみたいで嫌だ。

 できることは自分でする、それに父は外で頑張ってくれているんだからそれでいい。

 だからちょっとぐらいの嫌で放棄はできないぞ、文句を言うなと自分に言っておいた。


「そうだ」

「ん?」

「父さんな、再婚するかもしれない。いや、もう決定してるんだ」


 再婚か、お母さんができるなら全然いいな。

 あ、ただゴチャゴチャ文句を言う人ならやめてもらいたいけど。

 だってあれも違うこれも違うって、ごはんを作る時とかに文句を言ってきたら嫌だし。

 別にそれをしないのであれば協力していきたいと思う。


「どんな人なの?」

「先に言っておくと、その人にも娘さんがいるんだ」

「へえ、私と同い年?」

「そうだな」


 同級生でも義理の妹か姉ができるということか。

 元気な子や、礼儀正しい子だったらこれ以上疲れなくて済むかもしれない。

 でも、姉みたいな子だったら……考えるのはやめよう、悪い方に考えると実際にそうなる。


「どこの人?」

「元々は東京、いまはこの県の隣の市の人って言うべきか」

「ということは派手すぎるってことはないね、いつ会わせてくれるの?」

「今週の土曜日」


 あまりにも都会の人だったりすると価値観が合わなかったりするから助かった。

 土曜日か、割と急だ、私達がただ知らされていなかっただけなんだろうけども。

 父なりに言いにくさとかもあったのかもしれない。


「分かった、どうせ暇だから家で待っているね」

「……いいのか?」

「うん。でもなあ、優しい人以外だとちょっとなあ」

「それは大丈夫だ、あいつには悪いがあいつより優しい」


 そりゃ大抵の人が元母より優しくなるでしょうよという話。

 なぜなら平気で私達のことを嫌いとか言ってきていた人だ。

 それより酷い人って、逆に見つける方が大変な気がする。


「仁美と仲良くできてるか?」

「うん、大丈夫だよ、色々と衝突することはあるけどね」

「そうか、ならいいんだ」


 どうか新しい子が新たな悩みのタネになりませんように!

 あと、早く土曜日がきて、なんてことはなく終わりますように!


「帰ってくるのが遅いのよ」

「響ちゃんを送ってきたの、私はお風呂に入って部屋に戻るから」

「あなたはまだ食べていないんでしょう?」

「朝食べるから置いておいて」


 まだ朝のが残っていて食欲がない。

 私を疲れさせることに関しては姉が最強だ、褒めてあげたい。


「はぁ……」

「ため息をついていると幸せが逃げるわよ」

「なんでここにいるの?」

「なんでってお風呂に入るからに決まっているじゃない」

「……じゃあ後で入る」


 暴君かこの人は!

 部屋に戻ってもベッドには転びたくないから椅子に深く座り込んだ。


「はぁ……」

「だからしない方がいいわよ」

「な、なんでここに?」

「あなたと一緒に入ろうとしたのに逃げるからじゃない」

「だったら素直にそう言ってくれればいいのに……あと、響ちゃんを悪く言わないでよ、あの子だけが私の友達でいてくれているんだから」


 言葉遣いは男の子っぽいし、大抵は無理で片付けられちゃうけど、好きな子だった、なのに姉が冷たくすることで距離を置かれたりしたら学校すらも嫌いになってしまう。


「お姉ちゃん聞いた? お父さん再婚するんだって」

「聞いたわよ、どうでもいいけれどね」

「どうでもいいって……家族になるんだよ?」

「私的には椛さえいればいいもの」

「はいはい……なんでもやってくれるんだもんね、そりゃ必要だよね」


 便利屋扱いとは虚しいなあ、あんな態度を取っていて私がいればいいってそういう意味でしか捉えられない。


「真剣に言っているわ」

「嘘つき……今朝だって私が作ったごはんをそんなの扱いして食べなかったくせに……」

「朝はその……ごめんなさい」


 あ、姉が謝っただとぅ!? もうこれだけでごはんを三杯は食べられそう。


「一緒にごはんを食べましょう」

「先にお風呂に行こうよ、しょうがないから一緒に入ってあげる」


 あ、チョロい人間が誕生してしまったようだった。

 だけど姉が嬉しそうに笑っていたので、それすらもどうでも良くなってしまったのは言うまでもない。

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