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やり直し令嬢の生き残り計画  作者: 紫月 由良
淑女科1年編

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05. 新たな友人

「今日の料理は何かしら?」


 午前の授業が終わると同時に、三人で連れ立って食堂に向かう。

 魔法科では自分で好きな料理を選んで運び、食べ終わった後の片づけは自分たちで行う。

 でも淑女科では客席係に誘導されて着席すると、料理が運ばれてくる。終わった後も同じように退席すると食器が片付けられる仕組み。


 淑女たるもの出された食事は好き嫌いなく綺麗に食べるのも、必要なマナーなのだ。好きな物を食べて嫌いなものは食べないというのは、招かれた席では大変失礼なことだから。嫌いな料理が出てきても、美味しそうに食べられるくらいでないと、無作法だと誹られる。

 そういうわけで食堂のメニューは一種類しかない。


 一応、食べたら体調を崩すような生徒は、事前申告しておくことで別メニューを用意してくれるけれど、配慮はそれだけ。


『魚が美味しいって聞いているわ』

『ソースが何かで変わるかもしれないけど……』

 今の私たちの会話はフェム語で。昼食時は毎日、違う言葉で会話しようとあらかじめ決めていた。


 ほかの人に聞かれたくないからではなく、使ってないと上達しないから。選択授業を取ったけれど、それだけでは足りないと思っている。

 特に聞かれて困ることは話さないつもりだけれど、この国では話者が少ない言葉だから、結果的に内緒話のようになる。フェム神聖国は隣国だけれど、政治的に重要ではないから興味を持たない人が多い。観光などで向こうに行くことがあっても、ルスゥール語を話せる人が多くて困らないのも理由の一つ。


 リディは王子妃教育の一環で教わっている。ユージェニーも嫌いな婚約者のために仕方なく学ぶ幼馴染を気遣って、同じように学んでいる。

 そんな二人は私と親しくなった後、観光で行きたいからとさらに追加学習しているから、そろそろ日常会話に困らない程度になってきた。


『この時期のフェム神聖国ははきっと、街中に溢れて素敵でしょうね』

『寒い時期でも魔法で花を咲かせるくらいだもの、年中綺麗だと思うわ』


 身分にかかわらず国民は足繁く神殿に通う。捧げるための花を持って。平民は道端に咲く花であったり、野で摘んだ花を。貴族は自宅の庭で咲かせた花を。観光客や巡礼者は、露天で花を買って神殿に足を運ぶ。国名の通り信仰が根付いている。

 私も訪れたときは、露天を巡るよりも先に神殿に行った。


『お隣、よろしいかしら?』


 声をかけてきたのは同級生のフローラさま、アボット伯爵家の令嬢だ。お父さまは外交官をしていらっしゃる。前世では学園を卒業してから知り合った。理知的な雰囲気は子供時代かららしい。すごく流暢な発音だから、習っただけではなく現地に住んでいたのかも。


『私たちは歓迎するけれど、でも一緒にいるとエイトリンさまから敵認定されてしまうわよ?』


 本当は同級生と親しくなりたいけれど、派閥争いに巻き込みたくなくて三人だけで行動するしかなかった。挨拶くらいはするけれど、雑談はしないような冷えた関係以上にならないように気を付けて。


『面倒臭い人と同級生になってしまったのね……』

 フローラさまはほぅと溜息を一つ吐く。


『敵を作るのは嫌だわ。でもフェム語で話せる機会を逃したくないの』

 言い方からすると私たち同様、習得した言語を忘れたくないのかもしれない。


『学園に政治を持ち込むのは禁止とはいえ、所詮は貴族の子女が通うのだから仕方がないのかしら? 親同士の派閥が生徒たちに影響するのは』


 苦笑交じりなのは本心から面倒だと思っているのか、それとも上手く同級生たちと付き合うのが大変そうだと思ったからなのか。


『でも……フェム語を話す機会を失いたくないわ。話せる人が少ないでしょう?』

『確かにそうね。私たちフェム神聖国に行ってみたくて覚えたの。町に花が溢れていて素敵な所だって聞いたから』

 私たちの方は代表してリディが話す。好意的かつ、将来の王子妃に侍りたいという相手でなければ歓迎しそうだ。

『確かにきれいな国だったわ。お父さまの仕事についていく形で、家族そろって住んでいたことがあるの。また行ってみたい……、できれば住みたいくらい良い国だったわ』


 思った通り住んでいたことがあるらしい。

 言葉を忘れたくないのは、習得した言語を覚え続けたいからというよりも、また訪れたいからなのかも。


『私ね、家族と色々な言葉で話をするのだけれど、同じように友人ともおしゃべりしたいと思っているの。でもお付き合いしてくださる方がいなくて……。仲良くしてくださると嬉しいわ』


『こちらこそ、政治的な話なく仲良くしてくれるなら歓迎するわ』

 リディが微笑む。


 クリスティアナさまが着席するのと同時に、お互い自己紹介する。顔と名前はわかっていても、初めて直接話をするときは、正式に名乗るものなのだ。


『改めまして。リディアーヌ・デュヴィヴィエよ。婚約者は第二王子のエリク殿下だけれど、忖度されたくないの』

『ユージェニー・フォスフォフィヨン、姉妹の長女だから婿を取る必要があるの。選択授業は高等科の講義を多めに取る予定だけれど、同じ授業ではよろしくね』


『マリス・アングラートです。一人娘だから学園を卒業と同時に家を継ぐの。領主としての仕事はリディのお父さまに教わっているから、高等科の授業を受ける予定はないわ』

 本当は既に当主の座に着いているけれど、極秘情報だから表向きの理由を口にする。


『ご紹介ありがとう。私はフローラ・アボット。既にお伝えしたけれどお父さまが外交官で物心ついてからずっと国外だったの。学園入学の少し前に任期が終わって帰国したところだから、国内に友人がいないわ。だから仲良くしてくれると嬉しいの。お友達になってください』


 外交官は数年置きに国を移動する場合と、骨を埋めるつもりで腰を落ち着けてじっくり活動する人と二通りあったはず。フローラさまのお父さまは確か前者だった。

 条約締結の初めや、外交の糸口を作るのが上手なため、短期の赴任が続いていたのではなかったかしら。

 前世では長女のフローラさまが入学するくらいに、仕事が認められて帰国。以来ずっと国内で他国の大使をもてなすような仕事に携わっていたと思う。


 自己紹介が終わったところで料理が運ばれてきた。

 食事中の話題はフェム神聖国のこと。四季を通じて花が多いのはすごいだとか、人々の穏やかな気質なんかだ。


『マリス、学園在学中に行ってみたいのだけれど、どうにかならない?』

『ほとんど馬車から下りない強行軍だったら何とかなるけれど……。不味い回復ポーションを飲み続けるし、食事も基本的に馬車の中だったわ。だからおすすめしない』


 魔法科在学中の旅行の日程を思い出す。一ヶ月しか休暇はない、本来だったら無理だった。

 でも馬を魔法で回復しつつ、人はポーションで体力を回復するような、強行軍ならギリギリ行けるような日程を組んだ。

 方向は違うけど、同じく在学中に対応したスタンピードのときも、同じくらいの距離を移動したから大変だった。こちらはフェム神聖国に行ったときと違って、夜間の移動もあったから、もっと大変だった。言わないけど。


『護衛をお願いした魔法騎士が、学園の講師だったの。休暇中なら雇われても問題ないというから頑張ったのだけれど、もう二度としたくないわ』


『聞いただけで疲れそう……。マリスさんって無茶をするのね』

『あんなに大変だって知らなかったからできたの。二度としないわ』


 心の底から二度と嫌だって思ってる。

 でも……必要ならするしかない。


 既に公爵家の当主だというだけでなく、スタンピードの対応を経験した魔法師として役立つ場面があれば。

 あの時、たかだか入学二年目の魔法科生徒だったけれど戦力だった。半人前の魔法師でも数が揃ったから、という理由だったかもしれない。でも卒業した今はきっと、もっと役立てるだろう。


『そもそもの話、やろうなんて考えないと思うけれど』

 溜息交じりに言えば、横からユージェニーに突っ込まれた。


『まだ幼かったのよ。ちょっと我慢できなくて……。後悔しても遅かっただけよ』

 本当は時間が惜しくて卒業まで待てなかっただけ。

 旅行の成果が極秘事項なので、関係者以外に秘匿されて言えないけれど。


『幼いって……。私たちまだ十二歳なのに?』

『当時、七歳だったの』

『子供って無謀ね』

『私たち、今でも子供だけれどね』


 ユージェニーのからかいにリディが乗ってくる。刺繍の時間の、ちょっと怖い二人ではなく普段通りでほっとする。


『仲が良いのね』

『二人は生まれる前からの幼馴染なの。お母さま同士が親友だから。私はつい最近の付き合いよ』

 学園入学前の話だから、アングラート公爵家の事情を知らない人も多い。特に子供世代ではほぼ知られていないといっても過言ではなかった。


『私のお母さまとリディのお父さまが学園時代に交流があったみたいなの。それで我が家に手を差し伸べてくださったのよ』

 当主が急逝したのに、その夫は役立たずどころか幼い一人娘を放置して家に寄り付かない。困った執事が伝手を辿ってデュヴィヴィエ公爵家に後見を求めたというのが、表向きの付き合いのきっかけ。


『それでなのね。アングラート公爵家はどこの派閥にも入らない中立のはずなのに、リディアーヌさんたちと一緒にいるのは』


『お世話になっているけれど、リディやユージェニーが好きだから一緒にいるのよ。おじさまからは気が合えば仲良くしてほしいと言われたけれど、リディの取り巻きになってほしいとは言われていないの』

 誤解を招きそうだったから補足する。二人のことが大好きだから勘違いされたくなかった。


『アングラート公爵家の後ろ盾は将来役に立つと思うけれど、友人付き合いまでは必要ないわ。私もマリスが好きだから仲良くしているの。学園に入る少し前からの付き合いだけど、大切なお友達よ』


 リディがにっこりと微笑みながらクリスティアナさまに言うと『私もよ』とユージェニーも同意する。

 事実、我が家は豊かな所領の公爵家だけれど、社交界への影響は大きくない。政略だけで友人付き合いする利は少ないどころかほぼないのだ。政略だけなら、デュヴィヴィエ公爵が私の後見になり、代わりに王子妃になったリディの後ろ盾になるだけで十分だった。


『素敵ね、権力だとか派閥を気にせずに友達になれるって。私も学園でそういった友人ができるかしら?』

『あら? すでに私たちがいるじゃない』

『そうね……。ありがとう、嬉しいわ』


 すごくいい笑顔のクリスティアナさま。本当に嬉しそう。

 会話を楽しみながら食事をしていたら、いつの間にか昼休みの終わりに近づいていた。

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