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温泉巡りの湯本さん  作者: みけめがね


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2/12

心までポカポカするのはあなたが隣にいるから

「じゃ、ここらでいいか?」


雪代さんのお父さんは村の大きなバスターミナルの駐車場に車を停めた。


「だいじょーぶ! 柚ちゃんはあたしがキチンとエスコートするであります!」


雪代さんはビシッと敬礼をした。

割とノリがいいのも陽キャって感じだ。


雪代家の車が遠くなっていく。


「じゃあ、行こっか!」


雪代さんに手を引かれて、私たちは歩き出した。


(雪代さんの手あったかいな……)


「あたしの手、あったかいでしょ?」


雪代さんは人の心を読むのが得意らしい。

その一言で私の冷えた手も少しだけ熱を帯びた気がした。


「わぁ……ここが温泉街の中心」


お土産屋さんの飴色のランプの光がキラキラと光って、雪が固まった足跡をほんのりと色づける。

粉雪がちらちらと舞う中、大きなリュックを背負った観光客が狭い温泉街の道をぞろぞろと歩いていて

私と雪代さんもその観光客の流れに沿って温泉街を歩く。


「菜花温泉は冬が一番観光の人が多いんだよ~まぁこの村の観光資源はスキー場だし、そりゃそうか」


「……雪代さんはスキーとかできるの?」


「ん? 去年あたしインターハイ出たよ」


なんでもないような顔で雪代さんは言うがさらっと出てきたインターハイ出場経験の経歴に私は言葉が出なかった。


「柚ちゃんはスキーしたことあるの?」


「えっ……と修学旅行で二回くらい……?」


「ええぇ!? 修学旅行でスキー場!? うそぉ……」


雪代さんは口に手を当てて本気で驚いている。


(……まさかこの村、スキーできないと人権がない!?)


「じゃあ、今度あたしがスキー、一から教えてあげる! この村のスキー場は格別なんだから!」


私はさっき会ったばかりの女の子にスキーも教えてもらうことになったのでした。


「まぁ、菜花温泉初心者の柚ちゃんにはここがいいかな!」


しばらく歩いた先、温泉街の中に木造のお堂のような建物がそびえたっていた。


「え? ここが温泉? なんか賽銭箱とかあるけど?」

「そう! ここが温泉! しかも基本無料で入れるし、ここの温泉の中では比較的ぬるいお湯だから初心者の柚ちゃんでも安心!」


雪代さんはふんっと謎のドヤ顔を見せながら説明してくれた。


「ささっ、入りましょっ!」


雪代さんに背中をズイズイ押されながら私たちは女湯のすりガラスの扉を開けた。


扉を開けた瞬間、むわっとした湿気が漂ってきた。

趣のあるヒノキの壁と、脱衣所のロッカーの目の前に仕切りも壁もなく温泉の湯舟が二つ見える。

シャワーやシャンプーなどはない。湯舟のみの狭い空間。


「え、狭い……! ってかこのスペースで脱ぐんですか!?」

「あはは、最初の反応はみんな大体そんな感じだし、私も初めて来たときもおんなじこと思ったもん」


そういうと雪代さんは制服の上に来ていたダウンジャケットを脱ぎ、制服のネクタイをほどいた。


(同世代の子との温泉なんて中学の修学旅行以来だよ……)


「あれ? まだ脱がないの?」


私がドギマギしているうちに雪代さんは裸になっていた。

冬のスポーツをしているのに色黒のきめ細かい肌が眩しい。


「あわわわ……ちょっと、こっ、心の準備がっ……!」


私は慌てて洋服のボタンを外そうとするが動揺してうまく外せない。


「ゆっくりでいいよ~あたし先入ってるね!」


(雪代さん、少し不思議だけど優しい人だな……)


三分くらいしてようやく心の準備を済ませ、服を脱いだ。

試しに右手を湯舟に浸けてみる。


「あちちっ!」


指先がお湯に触れた瞬間、感じたことのない熱さが身体を伝った。


「あ!!! ごめん柚ちゃん! こっちの湯舟に入った方がいいかも!」


「こっち……?」


「ここの温泉はぬるいお湯の湯舟と熱いお湯の湯舟で分かれてるから、こっちのぬるいお湯に入った方が気持ちいいかも」


私は雪代さんが入っている温泉に恐る恐る手を浸けてみた。


「!」

「これ、使いなよ」

 

雪代さんは黄色い桶を差し出した。

私は足早にかけ湯を済ませる。

身体はお湯の温かさを求めるように一気に肩まで浸かってしまった。


「はぁあ……」


身体に染み渡る気持ちよさに思わず声が漏れる。


「ね? 気持ちいいでしょ!」


「こんなに温泉で感動したの初めてかも」


そこから温泉に浸かりながら私たちは雑談を楽しんだ。

都会のことだったり、お互いの学校のことだったり。

色々話しているうちに若干のぼせてきているのに気づいて急いで二人で湯船から上がった。


「あれ、そういえばタオルない!」


私はキャリーバックの中を見て今更気づいた。


「あ、それならあたしのタオル貸そうか? 運動部だからタオル何枚か持ってるよ」


「ありがとう……」


私は少し申し訳なさを感じつつタオルで身体を拭いて、お泊り用に持ってきた服に着替えた。

温泉の外に出ると不思議と寒さが和らいでいる気がした。

特に足先や指先はまるで魔法がかけられたように暖かい。

雪代さんは無料で温泉に入れるって言ってたけど、

期待以上に温泉が気持ちよかったので入る前に見つけた賽銭箱に百円を入れておいた。

ふーっと吐いた白い息が晴れ間の見え始めた空に吸い込まれていく。


「はぁ~さむさむ……初めての菜花の温泉はどうだった?」


雪代さんが少し遅れて温泉から出てきて私に感想を尋ねる。


「温泉から出てもまだポカポカしてるのが不思議……すごい良かった! なんだろう心までポカポカしてる感じ?」


「本当!? 良かった~!」


雪代さんはピョンピョンと跳ねて全身で喜びを表現している。

そんな姿を見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってきた。

でも、ここまで一人で来ていたらこんなに良い気持ちにならなかったと思う。

心までポカポカしているのは隣に雪代さんがいるからなんだって。

この時の私は知らなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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