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ゆるふわニーナちゃんの雑貨屋~商いしていただけなのに、人類に敵認定されちゃいました~  作者: なすちー


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25 リザードマンとサハギンの湖問題 後編

 モノさんが言うには、この湖は深すぎて、エリアを分けるための仕切りを作るのは難しいみたいだ。


 うーん、どうしよう。どうやったらみんなが納得できるかな?


 私はパフェの最後の一口を飲み込んで、うーん、うーんと(うな)った。


 その時、ふと良いことを思いついた。


 もしかしたら……あれならできるかもしれない。でも、その前にちょっと確認しておかないと。


 私は、サハギンさんに声をかけた。


「ねえねえサハギンさん。ちょっと聞いてもいい? サハギンさんって、やっぱりお水の中が大好きなの?」


「?? 急にどうしたんだ、何が聞きたいのかさっぱりわからんぞ」


 サハギンさんは戸惑ったように、大きな目をキョロキョロと動かした。


「だが、そうだな。我らサハギンは水の中が基本好きというか、落ち着くんだ。陸よりだんぜん水だな」


 パフェを食べたおかげか、サハギンさんは意外と素直に答えてくれた。


「ふんふん。なるほど。やっぱりそうだよね」


 私は満足そうにうなずいた。


 サハギンさんが深いところを好むなら、この湖が深いことは、むしろチャンスになるかもしれない。


「ありがとねー!」

とお礼を言って、私は今度はリザードマンさんに話を聞きに行った。



「ねえねえ、リザードマンさん。リザードマンさんは、お水の中って好きなの?」


「?? どういう意味だ?」


 リザードマンさんは腕を組んで、不思議そうに鼻を鳴らした。


「まあ、どちらでもない、といったところだな。我らリザードマンは泳ぐこともできるが、ずっと水の中にいられるわけではない。生活の拠点はあくまで陸だ。だが……我らは植物や動物をあまり食べないからな。魚や貝が主食なのだ。だからこそ、サハギンどもに好き勝手されるのは困るのだよ」


 ふんふん。なるほど、なるほど。


 よし、これでだいたいのことは分かった。


「ねえねえ、ウンディーネさん。ウンディーネさんなら、お水のことなら何でもお任せ! ……なんだよね?」


 私はちょっとだけ自信満々に、謎の確認をウンディーネさんにとってみた。


「?? うん、大丈夫。まかせて」


 ウンディーネさんもたぶん、私の言いたいことをよく分かっていないみたい。

でも、できるって言ってくれたし、大精霊さまだもん、きっと大丈夫だよね。


 じゃんじゃかじゃーん!

「よーし、発表しまーす!」


 私が意気揚々と声を上げると、モノさんが不思議そうにこちらを見た。


「お、何か名案でも思いついたんスか?」


 私は両手を腰に当てて、少しだけ得意げなすまし顔で宣言した。


「湖分断作戦、決行しちゃいまーす!」


……。

……。


 あたりに、妙な静寂(せいじゃく)が流れる。


「……あの、ニーナさん。アッシの言ったこと、ちゃんと聞いてたっスか? 湖が深すぎて、左右にエリアを分けるのは難しいって言ったはずっスよ」


 モノさんが、心配そうに私の顔をのぞき込んできた。まんまるの水色の玉だけれどね、でも私は自信たっぷりにうなずいた。


「うん、分かってるよ、モノさん。左右が無理なら……上下に分断しちゃおう作戦だよ!」


「……」


 モノさんはしばらくの間、ポカンとして固まっていた。

けれど、少しの沈黙のあとに、感心したようにぽつりと漏らした。


「……なるほどっス。正直、その発想はなかったっス」


 私はそのまま言葉を続けた。


「サハギンさんは湖の深い、底に近い場所を生活エリアにするの。リザードマンさんは、上の浅い場所でお魚を取ったり、水を汲んだりしてもらう。ちなみに私も、その浅い所のお水を使わせてもらうね。……どうかな?」


 リザードマンさんとサハギンさんは、顔を見合わせて低く唸った。


「むう。完全にすみわけができるのであれば、それでも構わんが……」


「ギョギョッ。我らサハギンはそれでいいぞ。深いところのほうが落ち着くからな」


 うん、感触は悪くない。二人の表情も、さっきまでのトゲトゲしさが消えて、少しだけ穏やかになった気がする。


「それで、具体的にどうやってやるんスか、ニーナさん。お店の道具に、何か良いものでもあったりするんスか?」


 モノさんが不思議そうに尋ねてきた。

でも私は、ふふん、と鼻を鳴らした。

私には、お店の道具よりも強力な、とっておきの「魔法の言葉」があるのだ。


「ウンディーネさーん! そんな感じで、湖をさっきのパフェの層みたいに分けて、浅いところと深いところが混ざらないようにお願いしまーす!!」


 私は九十度、腰を深く曲げてウンディーネさんに精一杯お願いした。


「……やったことない。でも、ニーナのお願い。がんばる」


 ウンディーネさんはそう答えると、ゆっくりと水面から立ち上がった。

やったことないのに引き受けてくれるなんて、やっぱりウンディーネさんは優しい精霊さんだ。


 ウンディーネさんは湖の中央に立ち、なにやら神秘的な淡い光を放ち始めた。


 そして……。


「できた。たぶん、大丈夫」


 それは、本当に一瞬のことだった。


 もっとこう、水がバシャーンとはねたり、ドゴーンと地響きがしたりするような、すごい演出があるのかと思っていたけれど。


「湖の浅いところと深いところに、混じり合わない境界線をつくった。これで上下の水は混ざらない。あと、浄化の魔法付き」


 ウンディーネさんは、無表情ながらもどこか誇らしげな顔で私を見ている。


「ありがとう、ウンディーネさん! さすが大精霊さまだね!」


 私は手放しで彼女を褒め称えた。それから、岸辺で様子を伺っていたみんなに向かって手を振る。


「サハギンさんもリザードマンさんも、中に入って確認してみてー!」


 さて、みんなが納得している間に、私もお仕事を済ませちゃおう。


 カバンの中から空の瓶を取り出すと、私はさっそく湖の水を汲み始めた。


 見れば、サハギンさんたちは湖の底の方でゆったりと泳ぎ始めている。

たまに境界線のあたりまで浮き上がってきて、ぷかぷかと跳ねるようにして遊んでいるみたいだ。


 リザードマンさんたちも、深くは潜らずに浅いところで魚を捕ったりして、それぞれ思い思いに過ごしている。


「……ニーナさん、結局はウンディーネさんの力業ちからわざだったんスね」


 モノさんの言葉に、私は少しだけ言葉に詰まった。


「……うぐ。でもいいじゃない、みんなが仲良く満足できたんだから。結果オーライだよ」


「まあ、それもそうっスね」


 モノさんは納得したように浮かんでいたけれど、ふと思い出したように話し始めた。


「でもアレっスね……」


「うん?」


「サハギンさんの、あの……生活排水的なアレ。これからずっと、底の方に溜まっていくわけっスよね?」


……。

……。


 うん、考えないようにしよう。


 私は浅い、ごく浅い、水面の表面部分しかすくわないことに決めた。


 うん、絶対に、そうする。


 気がつけば、空はきれいなオレンジ色に染まっていた。


 もうすぐ日が沈んでしまう。そろそろ私たちも、お店に戻らないといけない時間だ。


 私は最後に、今日いろいろとお話をしたリザードマンさんとサハギンさんに、お別れの挨拶をすることにした。


「ニーナ、名前、覚えたぞ。人間の名前を覚えたのは初めてだ。感謝するがいい」


 腕組みをしたサハギンさんが、相変わらずどこか偉そうに言ってきた。

でも、さっきよりはずっとトゲがなくなった気がする。


「うん、ちゃんと覚えておいてね。また遊びに来るし、雑貨屋さんにも絶対に来てよね」


 私が笑って返すと、隣にいたリザードマンさんも、重々しく深く頭を下げた。


「ニーナ、我らリザードマンも感謝する。折を見て、雑貨屋にも行かせてもらおう」


「うん、よろしくね。リザードマンさんのことも、お店で待ってるからね」


 新しい常連さん候補が二人もできて、私は心の中で小さくガッツポーズをした。


 最後は、湖の真ん中にたたずむウンディーネさんだ。


「ニーナ、もういく?」


「そうだね。お水、ありがとう。またデザートを持って遊びに来るからね」


 ウンディーネさんは相変わらずの無表情だけど、その瞳はどこか寂しげに揺れている。

 そんな彼女を見て、私は次はもっと豪華なデザートを持ってこようと、こっそり心に決めるのだった。


「みんなー、ばいばーい!」


 私は、大きくちぎれるくらいに手をぶんぶんと振った。


 モノさんと空飛ぶ長椅子のアスモくんに乗って、大空へと舞い上がる。

下に見えるみんなが豆粒くらいに小さくなるまで、私はずっと手を振り続けた。


 お家へ帰る道すがら、私はふと話しかけた。

「どうだった、モノさん?」


「ん? そうっスね……。アッシ、公国にいた頃はいろいろな情報を詰め込まれてたんで、頭の中では分かってるつもりだったんス。でも、実際に見てみるのとでは、やっぱり全然違うんスね」


「そうなんだね」

 私はモノさんの言葉に、のんびりと相槌(あいづち)を打つ。


「そうっスよ。公国の情報だと、サハギンもリザードマンも残忍で、人間を見ると襲いかかってくる、話は一切通じない、絶対に関わるなって話だったんスから」


「ほへー、そうだったんだ」

 うーん、魔族の人だって、話せばわかる人が多いんだけどな。


「……それに、公国にいた頃は、外には出してもらえなかったっスからね」


「そっかー」

 そうなんだぁ。モノさん、ずっと引きこもりだったのかな。お日様の光はちゃんと浴びないとだめだよね。


「よーし、じゃあ今度は、森の中へピクニックに行こうね。そろそろエンペラービーっていう蜂さんのハチミツがほしいなって思ってたんだ」


「ハチミツっスか……。ニーナさんらしいというか、なんというか。……でも、分かったっス。お供するっスよ」


 私たちはそんな和やかな会話をしながら、夕暮れの空をゆっくりと進んでいった。


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