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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と誕生日  作者: 橋本 直
第二十三章 『特殊な部隊』と前夜祭
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第58話 階級が変えるもの

「おいカウラ!いいか!」 


「なんだ?西園寺の言うことは予想がつく。手短に済ませろ」 

挿絵(By みてみん)

「このままオメエの車にあるアタシのバックアップの拳銃を持って来てくれないかな?この警察署を襲撃したいんだけど。東都警察の連中、どいつもこいつも気に入らねえ。今すぐにでも全員射殺してやる!アタシの身体と銃が有れば簡単だ!弾が足りなくなったら銃を持ってる警察官から奪えば良い!そんな戦闘をしてきたアタシだ!今すぐ銃を用意しろ!この建物をすぐに『ブラッドバス』に変えてやる!」 


 かなめはいつもの調子で怒りをあらわにしてそう吐き捨てるように言った。かなめは笑わなかった。怒りが、冗談の形をしていただけだ。


「冗談はそのタレ目だけにしろ。貴様なら本当にやりかねないだけにそんなことを聞くことはできない。向こうも仕事でやってるんだ。貴様の様に半分趣味で事件対応をしている訳じゃない。それに東都警察の銃の使用規定は我々よりかなり厳しいのは貴様の知っての通りだ。そのくらいのことは理解しろ。貴様も大人なんだろ?」 


 すでに日は沈んでいた。西の空のあかね色が誠とかなめ、そしてカウラの頬を染めていた。通り魔を捕まえた三人はそのまま所轄の警察署に連れて行かれ、法術特捜の主席捜査官である嵯峨茜警部が来るまでの間、取調室の脇の待機スペースに通されていた。


「はぁー!腹立つ!アイツ等、東都警察のキャリア官僚だった経歴がある茜が来るとまるで手のひら返したみてえに態度を変えやがった!そんなにアタシ等が悪人面に見えるのか?アタシ等が事件を解決してやったんだぞ!茜は何にもしてねえのに元キャリア官僚で警部の肩書を持ったアイツが来るとなると連中はまるで手柄を立てたのは茜だというようおべんちゃらの嵐だ……警察も軍と同じで階級がすべてって話か?この国のキャリア優先主義はどうにかならねえのか?階級がどうこう言うのならアタシも大尉だ。ちゃんと将校らしく扱え。あれじゃあアタシ等がまるで容疑者みたいじゃねえか!」 


 入り口を出て振り返り物騒な言葉を並べ立てる女性を目にして、制服姿の警察官達はいぶかしげに三人を眺めながら忙しそうに出入りを繰り返していた。


「怒ってどうにかなる話じゃないだろ?それにあちらも仕事だ。職務執行中の警察官から拳銃を取り上げて良いと言う職務規定は、同盟司法局には無いからな。我々のしたことは緊急事態とは言え明らかな越権行為だ。茜警部のとりなしで始末書にならなかっただけ感謝すべきだな。それこそキャリア官僚としての人脈とその意向ゆえに私達は今自由を満喫している。感謝こそすれ恨む理由は何一つない」 


 そう言うとそのままカウラは急ぎ足で大通りに向かう道を歩き始めた。置いていかれると思ったのか、愚痴を続けていたかなめも彼女の後を早足で追った。誠はそんな二人を眺めながらただおろおろしながら付いていくだけだった。

挿絵(By みてみん)

「そりゃそうなんだけどさあ。あの時、最善はあれ以外なかったのは事実だろ?機動隊の到着、それどころか法術対策担当班の到着まで待ってたらいつまで時間がかかるか分かんねえぞ?それにあの兄ちゃんも銃の使い方に慣れてくるかもしれねえ。そうなったら本当に人質は死んでたぞ!」 


 かなめの怒りはとどまることを知らなかった。


「だが規則は規則だ。軍も警察もその暴力性ゆえに厳密な規則があり、それに従って行動することが定められているんだ。あちらだって最後には茜に頭を下げてたじゃないか。向こうも組織の手前、口には出せないが我々の行動に感謝しているはずだ。東都警察と言う看板を背負っている手前それが出来ないんだ。貴様も組織人ならそれくらいの事は理解しろ」 


 カウラの言葉にかなめは子供のように頬を膨らませた。誠はなだめようとするが、目の前に銀色の車が飛び出してきたのに驚いて飛びのいた。

挿絵(By みてみん)

「ヤッホー!元気そうじゃない。規則違反で絞られてもっとしおれてるかと思ってたのに」 


 銀色のカウラの愛車『スカイラインGTR』に乗って颯爽と現れたのは他でもないアメリアだった。


「来たよ裏切り者が……肝心なところで全責任をアタシ等に押し付けて消えやがった。全くどんな魔法を使ったんだ?」 


 デパートで人質が救急車に乗せられていくのを三人が見守ったときには、すでに野菜の袋を手にしたアメリアの姿は無かった。面倒なときにはいつも要領よく逃げおおせる。それはアメリアの十八番とも言えた。さすがに東都警察の尋問に疲れていた誠もそのあまりにちゃっかりしたアメリアの態度には怒りを覚えていた。


「だって料理を作ろうにも食材が無いと出来ないじゃない。野菜は新鮮さが命なのよ。誰かがそれを家に運ぶと言うそれはそれは重要なお仕事を引き受けないといけないわけよ。かなめちゃんもおいしいご飯を食べたかったらそう言う気の回る私に感謝してもらいたいものね♪」 


 開き直るようなアメリアの言葉を無視するように、黙ったままカウラは自分の車の助手席のドアを開いて乗り込んだ。そして当然のようにかなめも後部座席に滑り込んだ。さらにかなめの手に引きずられるように誠も助手席の後ろに腰を下ろした。


「帰るぞ。ここに居ても不愉快になるだけだ。まったく無能ぞろいの東都警察の尻拭いはこれ以上沢山だ!」 


 かなめは不機嫌そうにそう言うと腹立ちまぎれにアメリアの後頭部を小突いた。アメリアは参ったと言うような顔をするとそのまま車を発進させた。


「でもまあ今回の殺人及び立てこもり事件は無事解決した。とは行きそうに無いみたいよ実のところ……」 


 アメリアの突然声色が真面目なときの彼女のものに変わった。かなめとカウラの表情はすぐに曇った。


「それが茜ちゃんが容疑者に直接会って聴取したんだけど、犯人にはかなめちゃんに撃たれるまでの記憶が無いんだって。銃も凶器の山刀の入手先も知らないの一点張り。しかもそう言う病気かと思って調べてみたら、精神科医の診療記録も無い。脳を調べても何の異常もない。まるで誰かに犯行の時間だけ身体を乗っ取られていたとしか思えないらしいのよ」


 アメリアは情報通らしく東都警察が秘密にしそうな捜査の情報をペラペラとしゃべった。 


「それはあれだけの事件を起こしたんだ。刑が軽くなるためにわざと言い逃れをしようというところじゃないのか?初めのうちは犯行を否定してもしばらく聴取を進めると犯行について詳細に話し出すような輩は世の中に五万といるぞ」 


 そんなカウラの言葉にアメリアは大きく首を横に振った。


「それがそうでもないみたいなのよ。人質に対してただ銃を向けるだけで薬物をやってる人間が良く見せるような異常な行動を取って無かったのは二人も見たでしょ?薬でもない、精神異常でもない、ましてや脳の異常でもない。そうなれば結論は一つに決まってくるわよね?」 


 アメリアの言葉にカウラは黙り込んだ。かなめも難しい表情を浮かべて腕組みを続けていた。


「法術……か?『演操術(えんそうじゅつ)』……確か、そう言う法術があったのは聞いた事が有るぞ」 


 そのかなめの言葉にアメリアは大きくうなずいた。


 アメリアは滞り気味に流れる上を高速道路が走る大通りからハンドルを切り、誠の家の前の路地に車を進めた。そして車を道場の門の手前でいったん止めて話を続けた。

挿絵(By みてみん)

「この前の同盟厚生局の非合法法術研究の際に急に現れた三人の正体不明の正義の味方が都心で大暴れした法術暴走した個体を撃退した時、その個体の動きを制御していた法術を使っていた反応が東都警察の法術武装隊のデータの中にあったのよ。恐らくあの三人の正体不明の法術師の中の一人に演操術の使い手が居る。そう考えて間違いないわね」 


「へー、そうなんだ。そりゃあ初耳だわ」 


 関心が無いように装うかなめの言葉には逆に彼女の関心の色が見えた。アメリアはあきらめたように大きくため息をついた。


「ずいぶんと悠長な態度なのね。西園寺のお姫様。うちはいつ法術犯罪の最前線に立つかもしれないのよ?それくらいの情報は集めていても当たり前のことなんじゃないの?」 


 アメリアの挑発にかなめは乗る様子も無く黙り込む。仕方なくアメリアは、噛み砕くように説明を始めた。


「元々精神波動の異常を脳下垂体の特殊な器官で発生させる法術では、一番初歩的に発動可能な能力が精神介入能力なのよね。炎熱系の法術がマルチタスクが一番難しい法術なのに対して、演操術は高度な法術を展開しつつ相手に対して効果的にダメージを与えるために使用することが簡単にできる。ああ、誠ちゃんに期待してもだめよ。誠ちゃんには演操術の能力はゼロだから」


 アメリアの言葉に自分の可能性を一瞬期待した誠は完全に馬鹿を見る結果となった。 


「なるほど、この街にまだあの三人はいる訳か。隊長が言っていたようにあれがあの三人の法術師を売りつけるためのデモンストレーションと考えれば、あの三人を買った人間もまだこの街に潜伏していると考えるのが自然だな……まあ、東都警察にその人物の特定を期待するだけ無駄かもしれねえが」 


 珍しく真剣なかなめの言葉に隣のカウラが静かにうなずいた。


「法術研究の専門家のひよこに言わせると、精神介入能力は一番初歩的でしかも不安定な法術なんだって。他者の意識に介入するんだもの。下手をすれば自分と相手の思考の区別がつかなくなって自我崩壊すら起こしかねないわよ。それに、もしかなめちゃんの言うパトロンのことを法術師が気に入らないと思えばパトロンの意識に介入して自分を解放させるくらいのことは考えるんじゃないの?ねえ、誠ちゃん♪」 


 アメリアの言葉に誠ははじめてのシュツルム・パンツァーでの実戦を経験した『近藤事件』を思い出した。死んでいく敵兵の意識が誠の脳裏に張り付いたあの瞬間。誠はその嫌な感覚を思い出してうつむいた。


「つまりあの事件から今日までの間で十分(しつけ)を施してから今回の悪趣味な実験を行ったって言うわけだな?そして、その演操術の使い手は完全に買い手の手駒になった。そしてその牙は次にどこに向くかは買い手が決める事か」 


 自分の言葉を一語一語確かめるようにしてカウラはつぶやいた。彼女の言葉に大きく頷いた後、アメリアは再び車を動かした。ゆっくりと道場の門をくぐった。その中庭には一台のマイクロバスが停まっていた。


「そうか。結局今、三人の覚醒した法術師をお買い上げになった金持ちの話をしても仕方がないわけだ。で、あのバスは?」

挿絵(By みてみん)

 かなめの怪訝な表情を浮かべながらそうたずねた。アメリアは満面の笑みを浮かべて誠の実家の剣道場の敷地の中に停められたマイクロバスの隣に車を停めた。


 タイヤの泥が新しいことを確認すると誠は何かまた面倒なことが起きるのではないかとうんざりとした気持ちになった。



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