アークの試験⑴
ギンの狂戦士モードが長期に渡ります。
アズサが手練手管を見せ、料理の腕以外は完全無欠のものであることが判明した結果、俺はアズサを公募枠を埋める一人に選定した。
そして、俺はまだ言っていなかった。
「あーずっ!」
「こんな話は聞いてなかったんだが?」
「言ってないからな」
アズサを俺の部屋の係に任命したこと。
「あ、ベッドも好きに使っていいよ。アズはこっちのベッドを使って、俺は基本寝られればなんでもいいし」
「…いたく不思議に思ったんだ、なぜ公募枠全員があっさり埋まっているのにそんなことを言い出せたのか」
ちなみに俺は今現在狂戦士モードである。
「おう言ってみろ」
「ここの世話なんて、最初は人にやらせる気はなかったんだろ」
合ってます。大正解。
「気のおけない友人とお泊りなんかアークではホイホイできないし。アズがアークに入るまでは」
「……さすがギンだよな……」
少なくとも、アズサは今回行われるメンバー試験に参加する事はない。というかさせない。
俺の基準は、
・今現在の新人レベルorそれに匹敵する特殊能力
・三構築魔法の詠唱破棄
・胆力
「採点基準はこれくらいか。アズサはこれを越えさせて期待の新人くらいにはするつもりだけど…正直今のペースだと希代の新人になりそうなんだよね」
既に二構築魔法の詠唱破棄を十秒くらいで行えるようにはなってきたし。ただ、この力が学園内に知られれば、レギオに隠れ蓑になってもらっている意味ないから黙っているよう指示している。
それにレギオも今回のに参加するらしいんだよね。
あれは入れたくないんだけど。
「さて、まず授業で一構築魔法のなっがい溜めの詠唱破棄をどれだけ進化させたか見たいな」
くく、と俺は執務室の机に資料を投げ捨てた。
「これから試験を行うよ!試験官はボククーリ、そして猛々しさと女らしさをうちに秘めたアイル。そして気高き厨二病クローリー、そして最後に我らが…狂戦士!」
一瞬溜めたと見せて言い淀んだのごまかしやがったな。
というかアイルの紹介だけやけに力強く、クローリーのは痛々しい。まあ名前バレしてない俺程ではないんだけど。
「さ、じゃあ狂戦士。一言ちょーだい!」
俺はマイクを受け取りながら短くクーリを睨む。その視線に脂汗を流して体を震わせるクーリ。よかった、昨日の訓練が響いてないと思ってたよ?
「諸君、お集まりいただいて感謝する。これより数日、君達には死んだ方がマシかもしれないと思う訓練を受けてもらう」
ざわりとどよめいた試験者たちに、困惑の色が流れる。それもそうだ、ここにいる人間は腕に自信があり、死ぬ事を考えていた初期の魔物への恐怖など忘れているからだ。
「試験の開始までに怖気づいた者は、いつでも出て行って良い。これは君達に根源的かつ原始的な恐怖を味わってもらうものだ。俺はお前らを試験の間に助ける行為は一切行わない。治療するのは試験と試験の合間だ。その間に死ねばいらないものだったと切り捨てる」
少なくない人数が縮み上がる。既に試験は始まっている。
これは心意気を問う試験だ。
死ぬのが怖い?ーー当たり前だ俺も怖い。アズサが友人になってからもっと怖い。そしてその先アズサが誰を友人と呼び始めるのか、考えただけで恐ろしい。
「さあ逃げるなら今だ。力の足りない者、能力がない者、取り巻きに助けられてアークに入ろうとする者。その全てを俺はへし折ってやろう」
その瞬間俺の殺気が空間内に満ち満ちる。
全員が凍えるような殺気を浴び、ある者は小便を垂れ、あるものは気絶し、ある者は神に祈る。
「さぁ、最終勧告だ」
神のような威厳はないが、その内側に秘められた狂気を垣間見せて俺は笑う。
数百人いたメンバーは綺麗さっぱり二十人にまで減少した。
「ここに残るメンバーは死んでもいいと?」
「し…死ぬのはごめんであります!」
「ほう?」
「ですが自分には守りたいものがあります!」
そうか。ならばこいつは及第点だ。ヴィル・トール、これは大丈夫そうだな。俺は曖昧な笑みを浮かべ、「そうか」と言って興味なさそうに突き放す。
「他の者は?」
「あ、あたしは!孤児で身寄りもありません、でも魔法だけは得意で頑張ってきました!でも、大切なものが欲しいです!!」
カトリーナ・アグネシア。ふむ、これも戦場から生きて帰れそうだ。
「俺は狂戦士にあこがれてここへ来た、死ぬ事など微塵も怖くない」
レギオ。この回答は、不合格だ。
「次は?死んでも良いのか?放りだされたいのか?」
結果振り落としたのはレギオ他四人。十五人か、多かったな。
「なぜだ!?魔法も見ずに、なぜ俺たちは不合格なんかに…!?」
「魔法?」
俺は出る事を告げられた青年とレギオが全力で文句を言うのに聞き返した。
「なら俺に撃ってみろ。無詠唱で、だ」
レギオと他の四人が焦った顔をする。
「一構築魔法でも構わない。撃てるならば多少はお前らを受け入れる余地を残そうと思っていたのに」
残念だよ、と俺は全く残念がる事なく扉を魔法で閉めて無理やり追い出した。
「さて、一次試験合格おめでとう諸君。次の時間は午後になる。ゆっくりしていきたまえ」
「え!?今のは一次試験だったんですか!!」
「本当に危ない訓練でもやるのかと…」
「やるけど?」
全員が絶望的な顔をした。だが死地に赴く顔ではない。生き残る意思が垣間見える。
「そう、生きる意思を持たぬ兵士など俺はいらない。そういうやつは、行動に柔軟性が欠ける。俺が欲しいのは歩く駒ではない」
「要するに、僕らは逃げ帰ってもひっくり返す算段さえつけていれば問題ないと?」
「貴様らの分くらい俺一人で尻拭いは出来る」
「ひ、一人でって言っても、魔法力はみたところ五千くらいっすよね?」
「ほう、魔眼…いや、お前のは呪いの類か?魅入られたとみえる」
少年はササキ・イオリといった。ギンの魔力に異様な質の良さを見ながら、その実際の所を探っていた。
俺はかすかに笑みを浮かべる。
「まあ、細かい所は座って話そうか」
『創生』、五構築魔法の一つを無詠唱で使い、全員が座れるテーブルと椅子を出して、俺はその一つに悠然と腰掛ける。
あれ?変な事した?
「…いやいや、驚いていいからね。ボクたち班長もここまで狂っていることはない!ないからね!?」
クーリはあとでぶっ飛ばされたいようだ。
「あ、あの。それで、なぜ魔力が低いかなんですけど」
「君の目を焦がしてしまっては困るのだ、ササキ・イオリ」
少年は息を呑む。
「ここにいる全員の顔と名前とパーソナルデータは頭に入っている。さて、俺が君の目を焦がさないようにと言ったのは本当だ。魔力が光で見えるということだが、班長たちはどう見える?」
「ええっと、ちょい眩しい…くらいっす」
「…それは、見せられないのも無理ないな。クーリは80000、私は600000、クローリーは730000。ギンは…100万オーバーだっけ?」
「この間回路が壊れたから新しい回路を作ったんだ。現在は500万オーバーだったか」
桁が違うよ桁が、と文句をいいそうな十五人は俺の髪越しの目線にちょっとビクつく。
「あの、じゃあなんで五構築なんてつかえるんでしょーか!」
これは三つ編みメガネの女の子、カトリーナだ。
「これは正式な五構築とは言えないから、だな。三構築『物質変化』と、二構築の『元素展開』を利用している」
だからこの魔法は俺が20mも離れれば自動的に消える。と、そこへお茶を持って来た人物が「偉そうに」と呟いた。
「…って何でいる」アズサ。名前バレは回避しとかないとね。
「ギルドマスターに様子見を、と言われてな。参加者がごっそり数分で消えたらしいが、何したんだ?」
「次回参加者の質を上げるためだ。これで今回受かったとしてもおちおち寝られはしない…」
「やっぱりドSじゃないか。俺の用事はもう一つ」
メイドさんが届けるはずだったティーセットと、お腹をすかせたレムを連れて来ていた。レムは次の試験にいるものだが…。
「きゅー!!!」
めっちゃ怒られてる。その硬い硬い尻尾で俺の顔をべちべち叩き、俺はそれを無視して(普通顔が裂けるが俺はハエたたき程度だ)、首に巻いた。
「他に質問は?」
「…お名前かしらね」
リリアンナ・マグダレン。マグダレン家の四女で、魔法の才がありレフォンで学んでレベルの低さに愕然としてでていったらしい。
うらやまけしからん。
「…ふ、俺の名は受かったら教えてやろう。全員に紅茶が行き渡ったら歓談を自由にしてくれ。班長も……クーリ以外は菓子を食べて自由にしていてくれ」
クーリが絶望に顔を染める。
「意地悪!考えることが子供すぎるんだよ!」
「悪いな。自称いつまでも子供心を忘れたくないヒトなんだ」
「魔力タンク!研究員からプラントって言われてるのに!」
「ああ、自覚済みだ。今更お前の風のような罵詈雑言など気にするまでもない」
「魔王。鬼」
「呼ばれなれたな」
「流石に大人気ないぞ?『狂戦士』様」
ふ く へ い 。
「…次の試験お前も参加してみるか?死ぬけどな」
「な、活水拳!?」
「いや?レムがやるんだ」
レム。忘れることもない。
こいつの正体は、
「ほら、全員でいかないと一太刀も浴びせられないぞ」
「グェェエエエエエエエ!!」
レムが大きく咆哮し、紅茶を片付けたテーブルを紙の如く踏み潰して全員に牙を剥いた。
レム覚醒。全員で戦闘します。




