第20話 ティーチャードクター④
「私ね、先生になりたいんだ。」
と百合が呟く。突然のことに、秀は少しの間考えていた。そして言った。
「それは無理だ。」
応援してもらえると思っていた百合は、意外な答えに面食らった。
「なんで?さっきは応援してくれるって言ってたのに。」
「いいか。理想と現実は違う。この前のテスト、横から覗いたが散々だったようだな。」
「なっ、勝手に…」
「35点。あんな成績で人にものを教えられると本気で思っているのか?」
「それはこれから勉強して…」
「ずっと勉強してこれだろ?休日は一日中勉強してるのに全く成績は上がらない。この前図書館で勉強を見ていてわかったが、お前は極端に要領が悪い。問題の要点を把握することが苦手なんだ。そんなやつが、生徒のわからないところをちゃんと教えてやれると思うか?」
「それは……。」
「なら訊くが、お前はどうして教師になりたいんだ?」
「私はずっと親に勉強を強制されてきた。したくもない勉強を無理やりやらされて、全く楽しくなかった。だから、子供たちには勉強の本当の楽しさを教えてあげたい。そして、学ぶことを好きになってほしい。」
「そんな曖昧な理由じゃ続かないな。勉強の楽しさを教える立場の人間が勉強を楽しんでいない。そんな状況で生徒がついてきてくれるわけがないだろ。教師っていうのは、教える以外にもいろんな仕事がある。残業も多く、とてもハードな業種だ。そんな難しい仕事をお前みたいな曖昧なままのやつがこなせるほど甘くない。教えられる生徒も迷惑だ。」
「どうしてそんなに先生のことを悪く言うの?」
「俺は教師という職を否定しているんじゃない。それになるに相応しい人物でなければなる資格がないと言っているんだ。」
と、秀が捲し立てる。
百合は、いつもと違う秀の様子に戸惑いながらも、教師になるという夢を諦めることはできなかった。
互いに一気に喋りすぎ、呼吸を置く。狭い観覧車の中に、2人の呼吸音が響く。少し経って、再び百合が口を開いた。
「じゃあさ、松浦が勉強を教えてよ。私、全力で頑張るからさ。」
「絶対に嫌だね。俺もそこまで暇じゃないんだ。」
そこまで言って、二人はまた黙り込んでしまった。観覧車内に険悪な空気が立ち込める。
百合には、なぜ秀がこれほどまでに強く反対するのかがわからなかった。これまでは百合の夢を応援すると言っていた秀が、どうして突然教師になるという夢に反対したのか。しかし、今の百合にはそんなことを深く考える気力はなく、ただ悲しみだけに包まれていた。
観覧車は下りに差し掛かる。それ以上二人が話すことはなかった。




