5 彼女に会いに行ってみた
「あら、こんにちはディエゴ君。一体なにをしにいらっしゃったのかしら」
出迎えてくれたのは、エルヴィラの母であるナタリー=ルビエールだ。
そこはかとなく冷たい雰囲気が漂っているのは、おそらくディエゴの気のせいではないだろう。
「こんにちは、ナタリーさん。その……エルヴィラはいますか?」
結局ディエゴは、結論が出ないまま、エルヴィラの住むルビエール辺境伯邸にやってきたのだ。
とりあえず花束を持ってきてはみたものの、なんとも座りが悪く、眉尻が下がってしまう。
花を手に、へしょげた様子のディエゴに、ナタリーは不思議に思ったのか、ふうとため息をついた後、ディエゴに向き直った。
「一体どうしたの?」
「僕が悪いんです」
「……なにがあったのかは、聞いているけれど。婚約者候補を降りるなら、あの子に正式な婚約者が決まるまで、もうここには来ないでほしいのよ」
「それなんですが……」
顔を真っ赤にして俯くディエゴに、ナタリーは目を丸くした後、困ったような顔をする。
「ディエゴ君。あの子の気持ちはもうわかっているのよね」
「……はい」
「中途半端な気持ちなら、このままあの子から離れてちょうだい。私はこれ以上、あの子を傷つけたくないのよ」
「エルヴィラが好きなんです」
ディエゴは迷いなくそう告げる。
彼がエルヴィラを好きだという気持ちに嘘はないのだ。
そのことだけは、はっきりと見定めてこの場に来ている。
「僕が、彼女を好きだから、会いに来ました。……いまさらなんですけど……」
「あと数日早く気が付いていたらよかったわねぇ……」
「はい……」
ディエゴは肩を落とす。
年齢や立場、彼女の昔抱いていた夢。
そういったものを理由に、自分の気持ちから目を背けていた結果がこれである。
ただ今でも、十四歳にして十一歳の彼女に落ちてしまった自分に、それはさすがにどうなのかと己の倫理観に揺れることもある……。
ナタリーにそう伝えると、彼女は遠い目をして呟いた。
「四つ差なんて、小さいものよ……」
「え?」
「いえ。今あの子、あなたよりも年上の男の人とデートに行ってしまっているものだから、ついね」
男の人とデートに行ってしまっている。
固まるディエゴに、ナタリーはため息をつく。
「まったく、あの子ったらとんでもないことを言い出すんだから」
「あ、あの、エルヴィラは誰と出かけて」
「誰と一緒だと思う?」
にっこり笑ったナタリーが棚から取り出してきたのは、封筒の数々だ。
様々な家紋の蝋で封をされたものと、金の封筒に入っているものが複数。
前者はエタノール王国の貴族の家からのものだろう。
そして後者は、草原の民の間で、見合いの申し込みをするために使用されるものである。
「えっ、あの、それは……」
「ここ五年、婚約申し込みがひっきりなしでね。ほらあの子、王国カタログに掲載されて有名人になったじゃない」
エタノール王国の流行の服を掲載した王国カタログ。
王妃が監修するそのカタログに、聖女リーディアとともに掲載されたことにより、エルヴィラ=ルビエールはエタノール王国にて一躍有名になった。
聖女の再従姉であり第一王子イーゼルとも友人関係にあるが、本人は王族というわけではない侯爵令嬢。
草原の民とも親しくしており、ルビエール辺境伯家を継ぐ予定はなく、なにより本人が気立てのいい金髪碧眼の美少女である。
「なんていうか、あの子……どの角度から見ても、ちょうどいいみたいなのよね」
「ちょうどいい」
「上位貴族から見ても中位貴族からみても草原の民から見ても、声掛けしやすいみたいなのよ。一応、ディエゴ君がいたからすべて保留にしてきたんだけれど。ちなみに今見せたのは今月の分よ」
「エ、エルヴィラはどこに」
「本当に、エルヴィラが今どこにいるか知りたいの?」
真剣な顔をしているナタリーに、ディエゴは背筋を正す。
「——知りたいです。教えてください、ナタリーさん」
真っすぐに向き合うディエゴに、ナタリーはふわりと表情を和らげて、行き先を教えてくれた。
その意外な行き先に、目を丸くするディエゴに、くすくす笑いながら。








