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Episode36:お嬢さまとお茶漬け

昼休みの時間も半分過ぎたころ、ひな子は食堂へと入ってきた。

小太郎と愛奈は先に席についてすでに食事をしている。


ひな子は愛奈のとなりに座り、テーブルに設置されているパネルの上に学生証を置くとお茶漬けを注文した。

悠長に食事をする時間がないときにはこれが一番。

というより、どうして学生食堂のメニューにお茶漬けがあるのだろう?


さっき楢井先生に小ばかにされた愛奈は、大盛のカツカレーを親の敵のようにガツガツと殺気丸出しで食らいついている。

対面に座る小太郎は、ふつうのシーフードカレーを淡々と口へ運んでいた。


――わたくしがいない間に、何かありまして?


なんて気軽に聞ける雰囲気ではない。



微妙な空気の中、ひな子のお茶漬けが届く。

お茶漬け茶碗のフタを開ければ、――そこには。


「まあ、鯛茶漬け」


ひな子の顔がパァッと明るくなる。


さっそく個別に用意されていただし汁入りの容器を手に取り、ぐるりと茶碗に円を描くように鯛茶漬けにそれを注ぎ込む。


そして箸を手にして、まず最初にお茶漬け茶碗の上に盛られていた鯛の薄切りを口にした。

口の中に広がる鯛の淡泊な味わいと、上品なだし汁が見事にマッチした美味しさ。


もうお茶漬けの域を通りこした至高の一品だとひな子がニコニコ顔で食事をしていると、お腹も満たされて落ち着いた愛奈がスプーンを置いて思い出したようにあることを口にする。


「――黒鳥先輩たちが、週明けから戦技研の部活に参加することになるから気を付けて」


「あれからひと月経ったのか……」


その言葉に小太郎は嫌なことを思い出してうつむく。


三年の黒鳥たちは何かにつけて冒険会のメンバーをからかって、そしてケガまでさせてしまい、一か月の部活停止を戦技研の部長である田原から言い渡されていた。


学園は小学部から大学部まで、よほど成績が悪くない限りエスカレーター式の持ち上がりになる。

外部に受験する者以外は三年も卒業ギリギリまで部活に参加しているそうで、三年最後のバトルフィールド・コンベンションを迎えても引退する者はいなかった。


「いっそ部活停止より引退勧告でもしてくれたらよかったのに……。また何か問題を起こしそうで面倒だわ」


「そう言っても、黒鳥先輩たちは戦技研の大会試合も観に来るほどクローンモード競技が好きなんだろ?卒業まであと半年もないんだから気にするなよ」


「ん、もう。他人事だと思って!」


愛奈の愚痴を聞きながら空になったカレー皿をよこに置いて、小太郎は制服のポケットから情報端末を取りだして片手で操作し始める。

本気で話を聞いてくれない小太郎に腹を立てた愛奈も、情報端末を手に取り眉間にしわを寄せて画面を観る。


ひな子は美味しいお茶漬けを食べ終えてお茶をいただいていると、黒い仔猫がテーブルに座っていた。


「ヒナタ?」


アシストロボットの黒猫ヒナタは、ひな子の肩に飛び乗ると小声でささやきかけてきたのだ。


《学校のセキュリティシステムが今、外部から広範囲の攻撃を受けてる。こっちで対応するけど、……気を付けてね》


「分かりましたわ」


ヒナタはひな子のほほに頭をこすりつけたあと、あっという間に消え去っていった。

それに気づいた正面の小太郎が目を見開いて残念そうな顔をしている。


「ひな子さん。ヒナタを作ったのって、あのヒナさんなんだよね?」


「……大きな声では言えませんが、そうですわ」


「AOIのデータを作ったのも――」


「……(コクリ)」


あれだけ本人が『天才プログラマー』とか言ってたのだから、そう簡単に隠しきれるワケない。


「小太郎さん、このことはどうか内密に……」


「企業秘密、なんだよね」


「――ですわ」


枕詞に『企業秘密』と言えば、まあ大半のお子さまには誤魔化せる。


(それなりに頭の回転の良い方には無理でしょうけど……)


ほうっとひな子が安堵のため息をつくと、今度はとなりの席に座っていた愛奈が真顔でこちらを向いていた。


「ヒナって、誰?女……よねぇ??」


低いドスの効いた声を放ってくる。


そういえば愛奈はヒナタもヒナのことも知らない。

ひな子が嫌な汗をかきながら、にこりとほほ笑む。


「うちの企業に勤めてます優秀なプログラマーのことですわ」


大きなウソはついてない。

寧ろ『自分専用の研究室をもって外に出かけることもなく、部屋に住まう猫たちに囲まれて幸せを感じている廃人ゲーマー』などと言った方が胡散臭い。


ホホホホッとひな子が口元に手をあてて、全力でお嬢さま(大昔)のしぐさをしていると、愛奈はつぎに小太郎の方を向く。


「本当、なの?」


「本当だ。ヒナさん自身がそう言ってたぞ」


「会ったことは?」


「たまたま冒険会のメンバーとバーチャルマシンでダイブしたときに一回会っただけだよ」


気がそがれたような顔つきになる小太郎をみて、『そう……』とだけ吐き出しだ愛奈は席を立ち、食堂から出て行ってしまった。


「オレ、変なこといってないよな?」


「ええ、まあ……」


ブツクサと文句を言いながら小太郎も席を立つ。


一人残されたひな子は、ちょっとしたことですぐに壊れる小太郎と愛奈の関係に悩まされ、『もう好きにして』と叫びそうなのを我慢しつつ、お茶のおかわりをもらって気持ちを落ち着けようとする。


(幼なじみだからといって、みんながみんな異性として好きになるワケではありませんけど、企業同士のつながりもあるのですから、もっとお二人には大人になっていただきませんと)


ひな子は頭の中で悶々と、見合い大好きな世話人のオバサン思考をくり広げるのでした。

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