その4
その4日後も妖人には遭遇せずに、美希も相変わらずだった。
そして、更に4日後の事だった。
その日も妖人に遭遇せずにこのまま作戦終了かと思い始めた時だった。
「近くにいるかもしれないのです」
4人の一番後ろにいる美希がポツリと呟いたが、他の3人にははっきりと聞こえた。
行動がおかしいと感じた美緖は美希を一番後ろに付けていたのだった。
とは言え、美希はほとんどいつも一番後ろにいるのだが……。
先頭は勿論美紅で、美佳、美緖、美希の順で行動していた。
「本当かな?」
美紅は疑いながら笑顔で美希の言葉に反応した。
美緖と美佳はどう反応していいのか分からなかった。
そして、小隊が十字路に差し掛かろうとした時に、突然目の前に大きな影が現れた。
勿論、その正体は妖人である。
妖人の方も待ち構えていた訳ではなかったので、再び偶発的な出来事だった。
そういう状態だったので、お互いがギョッとした感じで睨み合い、動きが完全に硬直してしまった。
「美希ちゃん、凄いのだ!」
この中で一番早く行動を開始したのは美紅だった。
美紅は突進しながら刀を抜くと、妖人に一撃を加えた。
妖人は慌てて爪で刀を防いだ。
刀と爪がぶつかり合う綺麗な金属音が響き渡った。
妖人は空いている方の爪で美紅を狙ったが、美紅はいち早く妖人から離れてかわした。
「また、こいつなのだ!」
美紅は刀を構え直しながらそう言った。
美紅には既に相手が誰なのか分かっているようだった。
「117Aより117Hへ。
妖人と遭遇、戦闘状態に突入」
美緖は中隊本部へ連絡した。
「117H、了解。
妖人の照会の結果、TK334と判明」
千香からはそう返信が入った。
美紅が思っていたとおりの妖人だった。
またしてもランクBかという、あまり良い状況ではないと言う認識だ。
「はぃ、美紅ちゃん、1人でやらないで下さいねぇ」
美佳は再び突撃しようとする美紅の肩を掴んで行動を制した。
「美佳ちゃん、邪魔しないで欲しいのだ」
美紅はジタバタしながら美佳に抗議するように言った。
「そんな事言ってぇ、1人で倒せるんですかぁ?」
普通は強い口調で言う所なんだろうが、美佳はいつものホワホワした口調だった。
口調こそ、そんな感じだったが、がっちりと掴まれた上にド正論を言われたので美紅としては従う他なかった。
「分かったのだ、手伝って欲しいのだ」
美紅は美佳に手助けを求めた。
「了解しましたぁ」
美佳はそう言うと、
「やぁぁぁ」
と迫力のない叫び声で先手必勝とばかりに美紅より先に仕掛けた。
「えっ!?美佳ちゃん、ずるいのだ」
美紅は驚いたが先に美佳が動いたので、それを援護する側に回る他なかった。
美佳は、美紅が好き勝手に動き回ってフォローができなくなる前に自分が先に動く方がいいと判断していた。
迫力のない叫び声とは裏腹に、鋭い突きがTK334を襲った。
TK334の方も虚を衝かれたようで、慌ててその攻撃を撥ね除けた。
そして、反撃に出ようとして逆の手で美佳を横から切りつけようとした。
しかし、美佳は撥ね除けられた刀をそのまま振り下ろした。
その為、TK334は慌てて攻撃を止めて振り下ろされる刀を爪で受け止める事となった。
地下空間に鈍い金属音が鳴り響いていた。
戦闘は美佳が常に先手を取っていたので、有利に事を運べていた。
だが、決定打もなかった。
そんな攻防の中、一瞬間が明いてしまった。
美佳は無理すれば攻撃できたが、それはせずに一旦後退した。
後退した美佳を追おうと、TK334は前に出ようとしたが、そこに美紅がタイミングよく突撃してきた。
TK334は再び虚を衝かれた格好になり、美紅の攻撃に対して防戦一方となった。
美佳と美紅のコンビネーションは有効だった。
だが、決定打にはなっておらず、戦闘は次第に五分五分になり、膠着状態に陥っていた。
「忌々しい妖人なのです」
美希はいつの間にやら美佳と美紅のすぐ後ろに立っていた。
「えっ!?」
先程まで自分の後ろにいた美希がいつの間にか自分の前に来ているのに美緖は驚いた。
そして、とっても嫌な予感がした。
「さっさと片付けて、パターン分析を行うのです」
美希はそう言うと、ゆらゆらと更に前進を続けて、美佳と美紅の間に割って入っていった。
どうやら美緖の悪い予感が的中した。
「ちょっと、美希ちゃん、邪魔なのだ!」
急に入ってきた美希に驚いた美紅がそう叫んだ。
ただでさえ、狭い場所に無理矢理入ってきたので並んだ3人はバランスが悪かった。
それを見逃してくれるほどTK334は甘くはなかった。
一番態勢を崩した美佳に向かって猛然と攻撃を仕掛けてきた。
美佳は第一撃を何とか刀で受け止めたが、膝を付いてしまった。
そして、間髪入れずにトドメの一撃が入ろうとしていた。
しかし、悲鳴を上げたのはTK334の方だった。
TK334は全く警戒していなかった美希から攻撃を受け、右足を負傷していた。
TK334はそのまま倒れ込んでいた。
美希はそれを凍り付くような冷たい眼差しで見ていたが、
「すぐにパターン分析をするのです」
という謎の言葉を吐くだけで何もしようとせずに仁王立ちのままだった。
TK334は美希の攻撃を受け止める為に身構えていたが、いつまで経っても攻撃がなかった。
そして、攻撃がないと見ると、起き上がって、一目散に逃げ出した。
「美希ちゃん、邪魔なのだ!」
美紅はTK334を追おうと駆け出そうとしたが、美希と交錯して一緒に倒れ込んでしまった。
美緖はそんな3人の様子を後ろで見ていて呆然としていた。
「折角のチャンスを逃すなんて……」
美緖はポツリとそう言ったが、しばらくして、
「まあ、私達らしいか……」
と言って、気を取り直した。
「117Aより117Hへ。
TK334の逃走を確認。
以後の指示を乞う」
美緖は中隊本部へ連絡した。
「117Hより117Aへ。
旅団司令部から撤退の命令が出ている。
近くのマンホールから速やかに帰投せよ」
千香からそう返信があった。
「117A、了解」
美緖はそう言うと、無様に倒れている3人の元に向かった。