その2
美希は戦術情報ルームに入ると、一心不乱に端末を操作し始めた。
話し掛けても反応がない美希が何をやっているのか美緖には分からなかった。
その必死さに鬼気迫るものがあり、美緖は段々話し掛けづらくなっていった。
そんな様子だから部屋にいた他の職員達もその姿を遠巻きにしながら眺めてはいたが、近付こうとはしなかった。
1時間ほど、そうしていたが、美緖はついに諦めたように一旦部屋を出て行った。
部屋を出ると、溜息が出てきた。
「どうしたの?浮かない顔をして。
今回も地下でランクBを撃退したって言うじゃないの」
偶然通り掛かった104A小隊のリーダーの初音が美緖に声を掛けてきた。
「しかも、小隊は全くの無傷だそうですよ、初音お姉様。
ちょっと凄すぎですね」
こちらも逆側から偶然通り掛かった109A小隊のリーダーである春菜が一呼吸遅れて声を掛けてきた。
2人は美緖を挟み込むような感じで近付いてきた。
「そんなに凄い物ではありませんよ、お姉様方」
美緖は少し溜息交じりにそう答えた。
別々の方向から2人が近付いてきたのでどちらに視線を向けたものかと迷いながらキョロキョロしていた。
「広い空間ならともかく、あんな中途半端に狭い空間だと、明らかにこちらが不利だと思うけどね」
キョロキョロしている美緖には気にも留めずに、初音は近付いてきた。
「ランクCでさえ、苦戦しますものね」
春菜の方もキョロキョロしている美緖には気にも留めずに、真っ直ぐ近付いてきた。
そして、2人は美緖を挟んで初音、春菜の順で立ち止まった。
「からかわないで下さい、お姉様方」
美緖はそういう自覚があったのでそう抗議した。
「からかうなんてとんでもない。
呆れて……じゃなかった、褒めているのよ」
美緖は初音の言葉に今本音が出たと敏感に察した。
「そうよ、もてあ……じゃなく、褒めているのだから」
美緖は再び春菜の言葉に敏感に反応した。
初音と春菜は満面の笑みを浮かべていた。
それを見た美緖は一際大きな溜息をついた。
これで何度目の溜息だろうか?
「それはともかく、こんな所で何をしているの?」
初音はそう言って思いっ切り話題を変えた。
これ以上美緖をいじくり回すのを止める意味もあった。
当然、珍しい所に美緖がいたのでその理由が知りたかった。
「中に美希がいるんですけど……」
美緖の反応は初音の予想外すぎた。
自分がいじっている時以上に深刻そうな表情になったからだ。
「あのオタクちゃんが?
何をしているの?」
春菜は意外な事を聞いたという反応をした。
ただ何で美希の事をオタクと言ったのかは美緖には理由が分からなかった。
「さあ……何をやっているのだか……。
話し掛けても全く反応したいのです」
美緖は益々深刻そうな表情になっていった。
その表情を見た初音と春菜は互いに顔を見合わせた。
どう反応したものか?と言った具合だった。
一呼吸置いて、初音と春菜は同時に美緖を励まそうと何か言おうとした瞬間、部屋の扉が急に開いた。
「データが足りないのです。
これでは分析ができないのです」
美希が部屋から出てくると、珍しく叫ぶようにそう言った。
美緖・初音・春菜の3人は美希の奇怪な行動にびっくりしていた。
「データが揃うのを待つしかないのです」
美希は廊下にいた3人には目もくれずに歩き出した。
「ちょっと待った。
部屋に帰る前に検診を受けないと」
美緖は美希に慌ててそう声を掛けた。
しかし、美希には全く耳に入っていないらしく、どんどん自分達の部屋の方向へと歩いて行った。
美緖は慌てて追い掛けて、美希の前に回り込んだ。
美希は美緖を避けて更に前に進もうとしたが、美緖が無理矢理方向転換させた。
そして、美緖は美希の手を引いて診察室の方向へ歩き出した。
「すみません、お姉様方。
検診がありますので、これにて失礼させて頂きます」
美緖は初音と春菜の前を通り過ぎる時にそう言って軽く礼をすると、そのまま通り過ぎた。
美希は美希で何やらブツブツ言いながら美緖に無理矢理引っ張られていった。
その様子を残された初音と春菜は唖然として見送った。
「特戦隊員って、よく変わっていると言われるけど……」
初音は美緖と美希が歩いているのを見詰めながらそう言った。
「ええ、私達はあそこまでではないですね」
春菜も2人の後ろ姿を見詰めながら初音の言いたい言葉を続けた。