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RAIN~レイン  作者: 潜水艦7号
9/12

神の慈悲は地上に届くこともなく

「な‥‥何を言ってるんですか‥‥?」

村人たちが、僅かに引いた。


「まさか、そんな‥‥司祭様が本物の『魔女』だと‥‥?」

とても信じられない、という顔をしている。


ああ、そうだろうとも。

『私』が『この身体』を選んだのも、まさにそれこそが理由だからだ。


ジュゼッペとして死の床にあった『私』は考えた。

「如何にすれば疑われずに済むだろうか」と。


そうして、悩んだ末に辿り着いたのが。

司祭(このからだ)』に乗り移ることだった。


司祭であれば。司祭の身ならば最も疑われずに済むであろう。それほどに『司祭』という人種は多くの敬意を集めている。『それ』を、『私』は誰よりも実感しているのだ。


それに、司祭とはもう5年もの付き合いがあって、彼の事はある程度知っている。以前のような『ヘマ』を起こす危険性は、それだけ低いと言えるのだ。


そして『私』を慕って心配してくれたエイラに、『私』は頼んだ。

「司祭様を呼んで欲しい。死にゆく此の身に、神の祝福をお願いしたいのだ」と‥‥


そう、偶然でも何でもない。『私』が司祭を呼び寄せたのだ。


結果として、エイラと同席した2人の娘には悪いことをしたと思っている。

そのせいで、3人には怖い思いをさせてしまった。


だが‥‥っ!

もう、『私』の心は固まったのだ。


心配はいらない。

『私』が、あなた達を守ってみせる!そう、必ず‥‥だ!


「しょ‥‥正気ですかっ!司祭様!」


「正気?ああ、正気だとも!彼女たちは無関係なんだ!」


はぁ‥‥はぁ‥‥

息が大きく上がる。


「ほ‥‥本当なのか‥‥か?本当に司祭様が‥‥?」

村人たちが狼狽し、互いに顔を見合わせている。


「いや、待て!」

誰かが声を上げる。


「さっき、エイラが自分を『魔女だ』と告白しただろうがっ!エイラが先だったんだ!司祭様は‥‥エイラを庇う気なんだ!」


「ちっ‥‥違うぞ‥‥!」

慌てて『私』が否定する。


「まさか‥‥エイラが『操っている』のか‥‥?或いはすでに『魔女』がエイラから司祭様に『乗り移っている』とか‥‥」


「いや‥‥それは無い!魔女が『出ていった身体』はそのまま死んじまうんだ!だが、エイラはまだ生きている!だったら‥‥『魔女』はまだ、エイラに残ったままに違いねぇ!」


何という事だ‥‥

このままではエイラの身が危ない‥!


一瞬、気を抜いたその瞬間。


「御免なすって!」

突然、『司祭(わたし)』に、誰かが飛び掛かってきた。


「うわっ!」

もんどりを打って、『私』は地面に叩きつけられた。


2、3人の男達が『私』の上に伸し掛かる。


「抑えたぞ!早く、早く『魔女』を討てぇ!」


雨が、次第にその強さを増していく。

ザァ‥‥と雨音が土を叩く音がする。


「いけぇぇぇ!」

雄叫びが聞こえる。


「きゃぁぁぁ!お母さぁぁぁん!」

エリザベートの絶叫が聞こえてくる。


「お願いっ!お願い、この娘たちだけは!この娘たちの命だけはっ‥‥!」


悲痛な叫び声を掻き消すように、ズブリ‥‥と何かを刺すような音がした。



『あの音』には聞き覚えがある‥‥

そう、『槍』が身体に突き刺さる音だ。



ああ、そうだ‥‥『それ』も思い出した。


そうなんだよ、『(アレ)』は痛いんだ。とても痛いんだ!

とても痛くて、怖くて、熱くて、そして何より辛いんだ。悲しいんだ。

殺されるほどに憎まれる事が、どれほどに悲しい事か『私』は知ってるんだよ!


嗚呼、神よ。

どうしてなのだ?何故、あなたはエイラをお救いいただけないのか?!


またしても‥‥またしても『私』は無関係な人間を見殺しにしてしまうだなんて‥‥!


せめて‥‥っ!この身体さえ、この身体さえ動いてくれたなら!


だが、『私』の上に乗っている男たちの力は強く、容易に退かせる事は出来そうになかった。


いや‥‥待て。

『あれ』が出来るのなら。


まだだ‥‥まだ終わった訳ではないっ!

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