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息子に告白 


 白髪もいっぱい増えた。

もうすぐショートになる長い髪、もうすぐ一つなくなる胸。


 毎日のように病院のアポイントメントがある。終わった後はあちこちにでかけた。手術まではせめて親子3人でハワイを楽しみたかった。

青い空の下のショッピングも楽しかった。 それがたとえ手術後の胸のない状態を考えながらの洋服の買い物でも。 

またこうやって買い物を楽しみたい。3年後も10年後も。そう考えていた。


 手術後のことを考えて脱ぎ着が簡単な洋服、胸を締め付けないもの。コットン製のブラジャー。入院用の足が楽なサンダルなど買った。

手術後は寝ている日が多いのだからとかわいいパジャマを買った。あのバースデーの時に作ったキャラクターのものを。スポンジ君の顔がこれでもかと付いている。息子はそれを見て


「わあ!ママがこれを着るの?」と喜んでいる。

「そうだよ、なははは」とキャラクターの真似をすると、息子は大笑いしている。

息子にもあれこれゲームなどを買った。

こんな時でも、いや、こんな時だからこそ、買い物は楽しかった。


 手術予定日は17日になった。3日に来ているので2週間後だ。

2週間の間、出かけたり買い物をしたりした。病院でいるもの、退院してからいるもの。待っている間の2週間は長かった。その間に癌が大きくなっていくような気がしたからだ。

命があれば良いと思うけれど、胸がなくなるのはやはりとても辛かった。


 手術の前に息子に説明をした。

小学生2年生だった息子に本来なら詳しく説明したくはなった。だがこのまま長期滞在となるとそうはいかなくなる。 毎日のように病院に一緒に行っていたし、なにか変だともちろん感じていただろう。


 「あのね、よく聞いてね。ママは身体の中に悪いものが出来たの。だからそれを取っちゃうね。先生が手術をするからね」と言うと、

「え~手術?やだ、こわいよ~」とわんわん泣きだした。

「手術をしないと、うんと悪くなっちゃうの。 ママが元気な方が良いよね?またいっぱい遊べるよ。だから悪いところ取っちゃうんだよ。それから時間もかかるから、ハワイに長くいるかもしれないの」

「いやだ~」と大泣きの息子を見て涙が溢れそうになる。 

夫が「ちょっとこっちでダッドとも話をしょうか」と連れて行く。

夫の静かな声としゃくりあげる声が聞こえてくる。

私は家族にこんなにつらい思いをさせていると思うと、また涙がこぼれた。



挿絵(By みてみん)



 手術前日


 手術直前に基地の中の施設へ移れることになった。

キッチンがついていて、寝室が分かれている部屋はありがたい。


 手術は18日に決まった。

前日8時に麻酔医とのアポイントメントがあった。この日の血圧は上が98下が77。血液検査もする。

手術に関しての注意なども聞く。真夜中過ぎから何も食べてはいけない。飲み物もだめだった。水さえも。 朝歯磨きをしてうがいをした水は残さず吐き出すこと、と言われた。

アメリカらしいと思ったのはボディーピアスは全部外すことと書いてあったことだ。へそピアスが流行っていたので。他の部分にしている人もかなりいるのだろうと思った。

夜、1人で万が一に備えて夫と息子に手紙を書く。


夫には

「いつもサポートしてくれてどれだけ心強かったか、あなたがいなければ乗りきれなかった。本当にありがとう」と書いた。

息子には

「生まれてきてくれて本当に嬉しい。おとうさんのいうことをよく聞いてね、強く生きてね」と書いた。

どちらにも

「心の底から愛していて、どれほど大事に思っているかわからない」と書いた。


 封をして机の引き出しの奥の方へいれておいた。

この時ばかりは耐えられず号泣した。



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