策略謀略調略…え~と他には?
「はが!」
「ふ!」
5人の賊は燃え盛る炎に酸素を奪われ、空気を欲するも一緒に炎も吸い込んでしまい肺を焼かれ、悲鳴すらもろくろく上げられずに炎上しながらバタバタと倒れていく。後方はあっと言う間に、黒焦げの骸だらけになった。
――すっげぇ! 軍の火炎放射器並みかそれ以上じゃんよ! ゲームじゃ火炎魔法も定番だけど生きたまま焼かれるって、現実は半端ねぇわ……
賊までの距離は20m程度であろうか? 業火はほぼ一直線に伸びて一瞬で賊どもを屠った。
雷撃に炎撃。転移チートとは言え、凄まじい限りである。
願わくばこの半分でも自分に回してほしかったな~と、女神さまに愚痴りたいと染み染み思う勉くんである。
「転がっとるのは全部で11人か。もしかして、また1人取り逃がしたか?」
「襲撃失敗、報告されちまうかな?」
「人数もどんどん増えとる。まあ、まだまだ余裕じゃけどな!」
「相変わらずお見事ですね、ツトムさん、ライトさん。敵は全滅です!」
「なぁに、軽いもんよ。はっはっは!」
「とは言え、死体が転がってる所で朝を待つってのも……」
「ま、もっともじゃの。ちょっと移動するか」
「そうですね、けっこう臭ってきますし」
「やっぱのざらしかい? ヤクザ者とは言ってもなんだかな」
「なんじゃ主? 良心の呵責でも騒ついとんのか?」
「気にする事じゃありませんわツトムさん。連中も負ければこうなると覚悟しての所業ですから」
「やはり日本人の性分かの? 死んだらみな仏ってヤツだな」
「う~ん、やっぱそうなのかなぁ。ニーナさんたちをこれだけ苦しめてる連中だし、情けなんかかける必要はないって思ってるのも間違いないんだけどな」
当初は命のやり取りに抵抗感を感じていた勉であったが、フェラーレロ一派の度重なる謀略に怒りテンションMax。自分の付与能力を使い、ニーナの行く手を阻む悪党どもと対峙する覚悟はできていた。かつてない怒りが、迷いを吹っ切ったのである。
シャンタ脱出戦でも躊躇は無かった。予想通りに待ち構えていた族どもの姿を見るや、またまた怒りが沸き上がってきた。法も倫理も欲のために平気で踏み躙って笑っている奴らに心底腹が立つのだ。
だからあの時、勉は情け容赦なくHK416の引鉄を引いた。
だが、賊を放置してそのまま走り去ったせいだろうか? その時は、そんな感情を引き摺る事はなかった。
しかし今回は目前に死体が転がっている。
ほぼ、ライトの獲物であるが平和な平均的日本人としては覚悟を決めて立ち向かった結果だとしても、一朝一夕で吹っ切れるものでも無いだろう。
そして更に引っ掛るのは……この先、近いうちに訪れるであろう、それを吹っ切ってしまう未来の自分……
いや、この世界で生きていこうとすればそれは必要不可欠な変化である。仮に日本への帰還方法が見つかるにしても、それまでは何としても生き延びなければならない。この世界の流儀で。
「確かにどんな悪党でも、死んでもうたらもう悪さはせんからな。主の思いも分からんでは無いが、しばらくこの世界にいる以上、メンタルの上書きは必須じゃろ」
「……だよな。甘いこと言ってるとあっと言う間に足を掬われちまう。荷台の商品、しっかり納品するまで気を抜けないからな!」
「それでは主、荷台を連結してくれ。さっさと移動して体を休めよまい」
「おし!」
気を取り直した勉は荷台を再度連結すべく、バックモニターを見ながらフックを目指して慎重にライトを操作した。
♦
「それにしても集めたな。60人は居るか? 翼竜でも相手出来そうだな」
「冗談言ってる場合じゃありませんよ大番頭。それだけの相手なんすから!」
「そうは言ってもな~。なんやかんやで都合100人も雇うことになってしまったからなぁ。マルティネーゼ商会を乗っ取れたとしても、今回の出費を回収するのには何年もかかりそうだしの。頭の痛い話だて」
ここは皇国領の都市アルボニー市――フェラーレロ商事の本拠地所在地まで、馬車で半日の距離にある山峡の街道。左右が崖肌のちょっとした峡谷になっており、待ち伏せには有利で緩く曲がる街道は前後の目撃者の目を妨げていた。
「まあ不首尾を隠すために、敵を誇張して言い触らすのは珍しくはねぇけど、やり方としちゃバクチだぜ? フカシがバレたら笑いもん、で済むレベルじゃねぇからなぁ」
中肉中背で50代後半戦の、消えることの無い眉間のシワがまるで溝のように癖がつくほど眼つきの悪い初老男、フェラーレロ商事の大番頭プラチド・アレッシ。
その隣で北叟笑むのは、今回の待ち伏せ隊の実質的指揮者でスパーダ盗賊団頭目リーノ・スパーダ。名の響いた盗賊団の中でも指折りであり、傘下のグループや同類に呼びかけてこの人数を集めたようだ。
盗賊ではあるが、最近ではフェラーレロのようなヤバ目の商人の隊商護衛などにも食い込み、やがてはギルドか、なんであれば反社のアングラ組織でも立ち上げて都市暮らしを目論んでいると専らだと言う。身長が2m近くあり、松の根っこのような筋肉質の巨体のスパーダが鎧以外の服を着て都会の街を歩くなど、何かのギャグかと思う部下たちは多そうだが。
「そりゃスパーダの旦那はアレを見て無いからだ、と言わせてもらいやすよ。ホント、命からがらだったんですぜ? 第一、シャンタでも街道の夜襲でも、首尾は失敗したんでしょうが」
そう愚痴る男は、森でニーナを襲撃した強姦男だった。逃げた後、アルボニーまで駆け込み、雇用主であるプラチドに事の次第を報告したのだ。
「まあ落ち着け。まるっきり信じて無いなら、これほどの人数は集めてねぇよ。ここまでたどり着いたってんだから全ての襲撃を撃退してんのは疑いねぇし、得体の知れねぇ手合いだってのは間違ぇねぇ。そういうのは物量で一気に叩きのめすに限る」
「左右の崖の出っ張り――岩棚や麓の岩陰には弓手と魔導士を配置して火球や氷槍で援護する中、前からの剣士や槍持ちが殺到して槍衾で止めを刺す。精鋭騎士団一個小隊でも屠れような」
「始まったら大番頭は後ろの岩陰にでも隠れてくんな。雇い主にケガしてもらっちゃ手間賃値切られる口実にされちまうからな」
「おう、そうさせて貰うわい」
「来やしたぜ―――!」
岩棚の弓手が叫んだ。
「ようし、全員配置に付け! 合図したら一斉にかかるんだ!」
おお―――――!
スパーダの檄に全員が呼応した。
♦
戦略を立てるための一丁目一番地は情報である。彼を知り己を知れば――は紀元前からの基本だ。
残念ながら彼の兵力は知る由も無いが、地形情報に関してはニーナの記憶を頼りに掌握出来ている。
予想される襲撃――殊に奇襲に適した場所は先ず先ず限られてくる。
「やはり一番の予想通り、この曲がり峡谷がアタリだったな」
一行は峡谷入りして最徐行で走行しながら周辺を窺っていた。そして勉の双眼鏡を借りて哨戒していたニーナは、岩棚に潜む弓手の影を認めて車は一旦停止した。
「嬢ちゃん、何人くらいだ?」
「それが……ここまで進んだところで隠れられちゃいまして……最低でも片側4~5人は居る筈ですが……」
「全ての人数が分からんのはもどかしいのぅ。ドローンでも有れば一目瞭然だったんだがな~」
「実は車内の収納に置き忘れてあって……なんて調子良くは行かんよな。でもまあ、あそこに潜んでいるのが弓手や戦闘魔法使いだったら援護・牽制組だよな。主力はこの道を曲がったところの正面か」
「どうせ夜盗・盗賊団等のヤクザもんやろし、そんな何百人も控えとるとは思えんがの」
「ライト? 何人までなら相手できる?」
「配置しだいやが……正面と左右の飛び道具を同時となるとキツイのぅ。特にワイは側面の攻撃は薄いでな。主の鉄砲も左右どちらかしか対応できんし」
「主力の規模は何とか把握したいところだよな、う~ん。……ねぇニーナさん? こっちの降伏旗とか停戦申し込みの使者の印とかって、どんなデザインか知ってる?」
「降伏旗、ですか? 大昔から白い旗です。どこにも属さないと言う意思表示ですから色も模様もナシ、と言う事らしいですけど……なぜそんな事?」
ニーナとしてもこの期に及んで降伏などあり得ないし、勉らがそれを勧めるとは思ってはいない。となると何らかの計略があると言うわけだが。




