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【連載版】廃棄孔―トラッシュラビュリンスー  作者: 黒染
迷宮胎動編

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18/18

幕間


 最近、気づいた事がある。ぼくの今の食生活が、実は結構ヤバいんじゃないかなと。

 何せ、主食、というか今ぼくが唯一食べられる物が、仙桃という果物のみなのだから。

 確かに仙桃は美味しい。それはもう、とんでもなく美味しい。

 

 齧りついて皮を歯で突き破った時の、水の詰まった水風船が破裂する様なパツッと弾ける瑞々しい感触。

 鼻を抜ける幾つもの花を凝縮して、抽出したような濃厚で、豊かな香り。

 シャクシャクとした小気味良い音を奏でる、まるでシャーベットアイスの様なきめ細やかでいて、顎を押し返る噛み応えのある果肉。

 噛めば噛む程溢れてくるトロリとした、それでいてジュースみたいにスルリとした喉越しの清涼感のある蜂蜜の様に甘い果汁。

 程よい柑橘の酸味が爽やかなアクセントになって、ねっとり濃厚な甘みが口いっぱいに広がっても、くどくなく、幾らでも食べられそうな芳醇な味。

 さらには、食べれば病気や怪我も治せて、体力や魔力も回復してくれて、体にも良いのだから、言う事無し……と、言いたい所なんだけれど……。


 贅沢な悩みだとは思うけれど、どれだけ美味しいからといっても、同じ物ばかり食べていたら、栄養バランス的にも悪いし、何よりこんなにも甘いものばかり食べていたら、やっぱり他の物も食べたくなってくる。結局のところ、ぼくの我儘なんだろう。でも、できれば――


「やっぱり、お肉が食べたいなぁ……」

「良いよ、ちょっと待って」

「えっ? ―――わぁっ!? 待て、待って、ちょっと待って!!」


 なんとなしに、ボソッと呟いた言葉をに聞いたティファニアが、ちょっと待ってと言うので、何をするのかと思って彼女の方を見たら、自分の尻尾を切り落とそうと手刀を構えている所だった。

 慌てて彼女の振り上げられた腕を、自分両手で抱え込んで止める。


「? どうしたの、お肉食べたいをでしょ?」


 ティファニアは、どうして止めるの? と言わんばかりに、不思議そうな顔をして首を傾けていたけれど、ぼくは今も尻尾を切り落とそうと力を込めている彼女の腕を、全身に力を込めて振り降ろされないように、止めるのに必死だった。


「食べたいなぁとは言ったけど! 君が! そこまで体を張る事は無い! というか、君にそんな一生残るような傷を付けさせてまで、渡された物を食べる事なんてぼくには、出来ない!!」


 必死すぎて、彼女に尻尾を切るのをやめさせようと上げた声が怒鳴り声になるくらいには、必死だった。……っていうか本当に力が強い! ティファニアの表情から、彼女は今、それ程力を入れていない筈なのに、全身に力を入れないと体ごと持っていかれそうだ。こんな事で、ぼくと彼女の種としての力の差を思い知らせるとは思わなかった。


「大丈夫。また生えてくるから」

「そう言う問題じゃない! ぼくの所為で君が、そんな怪我をするところを見たくないの! 他の方法を考えよう! だから、お願い、尻尾切り落とそうするのはやめて!」

「…………分かった」


 しぶしぶと言った感じにそう言って、ティファニアは力を緩めてくれたので、ぼくも彼女の腕から両手を離す。でも、彼女の声は少し残念そうだった。


「じゃあ、“太母の胎”で産む?」

「だから、そんな体の張り方しなくて良いんだってば! 大体、“太母の胎”って、“十三の獣”と同じ様な使い方じゃないの?!」

「ん、そう。タイキの言う通り」


 ティファニアの提案は、即座に却下する。“十三の獣”と同じだと言うのなら、彼女がまた、お腹を痛めて産むという事になる。選り好みと言われようと、抵抗感が強すぎて、そんな事出来ない。


「………ハァ〜、肉を食べたいとは言ったけど、それは出来ればの話で、仙桃ばっかり食べてると栄養バランスも悪そうだし、仙桃って凄く甘いでしょ? 食べ過ぎると体を壊しそうだから、他の物もバランス良く食べなきゃって思ったんだ。それで、そういえば肉……蛋白質を全然、摂っていないから、ああ、言ったんだよ」


 ティファニアが、とりあえず尻尾を切るのをやめてくれた事に安堵する。ティファニアに、お肉を食べたいと言った理由を説明すると、彼女はふんふんと頷いて何か思いついたようで、立ちか上がってぼくの手を取るとノエルの居る魔晶樹の森の方へ歩き出した。


「そう言う事なら、ノエルとシルヴァディに相談すれば良い。食べられる物なら

、あの二人に言えば、きっとタイキの欲しいものを生み出してくれる。後はクララにも協力して貰えば良い。あの子なら、水棲モンスターを生み出せるから」


 ノエルとシルヴァディ、それにクララか……。仙桃を作ってくれたシルヴァディはともかく、ノエルも?とは思ったけれど……もしかして、昆虫食? えっ、あのデッカイ蟲を食べるの? あっ、いや、でもアミンコみたいに小さい蟲もいたから、そっちかな? ………いやいや、そうじゃない。蟲? た、食べられるかな? でも、この状況で好き嫌いなんかしてる場合じゃないしなぁ。


 植物なら、ちゃんと食べられそうな物は多そうなんだけど。う〜ん、でも、大丈夫かな? 異世界だし食べらるけど、とんでも無い見た目の物も多そうなんだよね。

 あぁ、そうだった。シルヴァディは、体が大きくなって、もう洞窟に入る事が出来なくなっていたんだ。……シルヴァディとは、念話で相談すれば良いか。


 問題はクララか……。自由奔放で天然っぽい彼女が、そう言う事できるのかな? 水棲モンスターって言う事は、魚とか海老、蟹みたいな甲殻類や貝類も生み出せるのかな? それなら、一番食べる事に抵抗はなさそうなんだけど。

 第一、クララは外の水辺で好きに泳ぎ回って遊んでいる上に、念話もいまいち繋がらないから、こういう事を頼めるかどうか分からないんだよなぁ。


 そうして、あれこれ考えている内に、ノエルのいる魔晶樹の森に着く。

 

「ノエル、タイキがお肉……じゃなかった蛋白質を摂りたいんだって。何か、タイキが食べられそうな物って生み出せる?」

「……ええっと、よろしいのですか、お母様? 私が生み出せるのは蟲モンスターだけなのですが。お父様は大丈夫でしょうか?」


 そうだった、モンスターって人間には猛毒なんだったけ? いや、あの時聞いたのはラルヴァの事だけだっけ? 蟲モンスター……というか、モンスター全般が人間にとって危ないのかな?


「なるべく、食べるのに抵抗が無いモンスターが良い。出来れば、普通の虫くらいの大きさ……例えば、イナゴンとかどうかな?」


 違った。見た目が悪いだけで、モンスターによっては普通に食べられるみたいだ。


「確かにイナゴンの幼生でしたら、大きさは普通の虫と然程、変わりはありませんが……」

「ん。幼生の方が柔らかくて食べやすそうだから、それで良い。後はシルヴァディとクララに連絡して……」

「あっ、それなら、ぼくがシルヴァディに連絡するよ」


 シルヴァディへの連絡なら、念話を使えるぼくの方が早く繋がると思って、連絡を買って出る。


「クララの方は繋がるか分からないし、繋がったとしてもこっちに来てくれるかも分からないけど、シルヴァディならトドルッツに運んできてもらえば、今もやってもらってる植樹を中断する事もないだろうし」

「では、私はその間にイナゴンの卵を用意しておきますわ。お父様」

「うん。お願いね、ノエル」


 準備すると言ったノエルが去って行くのを見送って、直ぐ様シルヴァディに念話を使い、連絡を取る。


『…………シルヴァディ、今、ちょっと大丈夫?』

『ん〜? 何〜父ちゃん』

『え〜っと……、シルヴァディさ、食べる物に困らない様にさ、仙桃の木を創ってくれたでしょ』

『あぁ〜、創ったねぇ〜。それが、どうかしたの?』


 せっかく、仙桃を創ってくれたシルヴァディにこう言うのは我儘を言っている自覚があるからちょっと気が引けるけど、他の野菜や果物も食べる事が出来る様にしておかないと、体を壊しそうだし。仙桃で治るのだろうけど……。


『実は、仙桃以外の野菜や果物の種を創って欲しくてさ』

『ん〜、仙桃だけで、殆どの栄養は摂れるんだけどね〜。まあ、甘い物ばっかり食べてたら、流石に飽きてくるよね〜』


 そんな我儘をシルヴァディは、『ずっと同じ物を食べていたら飽きる』と言って同意してくれて、幾つかの野菜や果物の種を創って送ってくれる、と言ってくれた。


『そういえば〜、トドルッツも栄養満点の生きた野菜で、食べられるんだけど、食べないの〜?』


 そして、唐突に告げられた衝撃の事実。モルケット達がよく食べてしまう事があったけど、トドルッツって人間のぼくでも食べられたんだ。


『トドルッツは色とか体形で、味とか食感が変わってて〜、黄色くて丸こっいのはじゃがいもみたいな味と食感で〜、赤っぽくて細長いのは人参、白くて太いのは大根とか蕪〜、茶色くて細長いと牛蒡みたいな感じで〜、他にも色々あるんだ〜』


 シルヴァディがトドルッツの特徴を色々と説明してくれるけど、ちょうど目の前に活性液の入った土器を外へ運ぶ最中のトドルッツが、ちょこちょこ歩いている。ぼく達の言う事を聞いて、健気に一生懸命働いてくれて、呼び掛けるとこちらに近づいて、円な瞳でぼくを見つめてくるこの子達を食べようとは、とてもじゃないが出来そうに無かった。


『あ〜、うん。ちゃんと意思疎通が出来るし、一生懸命働いてくれているトドルッツをちょっと食べるのは無理かも』

『そっか〜、まあ、無理強いはしないけど、いざという時に食べられる様にしておいた方が良いよ〜』


 情が湧いて、トドルッツを食べれないというぼくの心情を肯定はしてくれたけど。


『今はオイラ達が食べる物を生み出せるけど、いつかオイラ達が死んだ時、そういうのしか食べる物がなくなる時が来るかもしれないんだから』


 これから先、戦いの中で皆が死んでしまった時の事も考えなきゃいけない事を突きつけられた。

 【魂の選別】の参加者である落人達は、ぼくより強力な恩寵を持って、タスクを熟してより強く鍛え上げられた強者ばかりなんだ。それだけじゃないこの世界の人間だって、どれくらい強いのか分からない。もしかしたら、強力な恩寵を持った落人ですら勝てないかも知れない人もいるかも知れないんだ。


『うん……。ありがとう、シルヴァディ。ぼく、まだまだ認識が甘かったみたいだ。情に流されすぎない様に気を付けるよ』

『どういたしまして〜。とりあえず、種はトドルッツに持って行かせるね〜』


「―――フゥ……」


 シルヴァディとの念話を切って、ひと息いれ、シルヴァディに言われた事を考える。


 情に流され過ぎ無いようにする為にはどうするか? ……線引きをするべきなんだろう。残すべき命の線引きを。


 生き残る為に命に優先順位を付ける。

 最優先すべきは当然、このダンジョンの要であるティファニアだ。


 次にノエルやシルヴァディ、クララといったダンジョンを支える替えの効かない眷属達。


 そして、ダンジョンの開発に役立ってはいるけれど、彼女達さえいれば幾らでも生み出せるトドルッツ、モルケットといった他のモンスター達。


 替えの効くトドルッツ達には、余り入れ込み過ぎてはいけない。彼らは消耗品と言って良いぐらいには、誕生と死のサイクルが早い。

 優先すべきは替えの効かないティファニアと十三の眷属達。


 それ以外のモンスター達は、言い方は悪いけれど消耗品と割り切って、生き残る為の駒として扱うべきなんだろう。

 出来るかな? でも、やるしかないんだろうな。


「タイキ……?」

「……あっ、えっと、大丈夫。シルヴァディが幾つか種を見繕って、トドルッツ達に持って行かせてくれるって」


 心配そうに見つめてくるティファニアに何でもない様に振る舞いながら答えたつもりだったけど。


「………シルヴァディと何かあった?」


 何て事もないみたいにあっさりと見抜かれた。鋭い。いや、ぼくが顔に出やすいだけかも知れない。


「う〜ん、まぁ、シルヴァディにね。トドルッツの事を色々と教えてもらったんだけど。その時にさ、意思疎通が出来て、愛嬌のあるトドルッツ達を食べるのは、ちょっと無理かなって言ったんだ」


 シルヴァディと念話で話した内容を、途切れ途切れに話す。


「それでさ、シルヴァディに言われたんだ。“いつか食べ物を作れる自分達が死んだ時、そういう物しか食べる物が無くなる時が来るかも知れない”って」


 ティファニアは何も言わない。ただ静かに時折、相槌を打ちながら聞いていた。


「これから先、【魂の選別】って言う戦いに挑むって事は、生き残る為に命の奪い合いをするって事で。それってつまりさ、皆が殺される可能性を考えなきゃいけない事なんだって、今更思い至ったんだ」


「だから、思ったんだ。ぼくはダンジョンマスターで、直接戦う事は少ないと思うけど、ぼく自身が弱いままじゃいけない、強くならなくちゃいけないって」


「それなのに、トドルッツの事食べられないって言った。つまりはさ、トドルッツに情が湧いちゃたっていう事なんだよ。生き残る為に何でもするって言ったのに、情に流されてさ」


「線引きをしなきゃいけないって思ったんだ。その為には、甘さを捨てて「ねぇ、タイキ」……えっと、何? ティファニア」


 ずっと静かにぼくの話を聞いてくれていたティファニアに名前を呼ばれて、唐突に話を遮られる。


「タイキ、無理して無い?」

「そんな事は……無い、と思う」


 無理はしていない。していない筈だ、そう思うけど、ティファニアの瞳にじっと見つめられていると自信が無くなってくる。


「シルヴァディの言ってる事も間違いじゃない、もしもに備えるのも大切だけど、タイキが自分を無理に変える必要は無いんだよ」


 ティファニアには、ぼくが無理して自分を変えようとしている様にしか見えないらしい。


「言ったでしょ。タイキの事は私達で支えるって。今、急に自分を変えようとしなくて良い。ちょっとずつ、色んな事に慣れていけば良い」


 それで、良いんだろうか。もうダンジョンは解放されて、【魂の選別】の戦いは始まっているのに。


「直ぐに強くなんてなれない。大切なのは毎日、積み重ねて行く事。それが、一番早い強くなる事への近道。それに甘さを捨てる必要なんて無い。甘さは、捉えようによっては優しさでもあるんだから。使い所さえ間違えなければ良いだけ」


 甘さの使い所……。考えてみても、今のぼくにはまだ、分からなかった。


「きっとタイキのその優しさが、タイキを助けてくれる時が来るよ。だから、無理に厳しくなろうとしなくても良いんだよ」


 なんだか、ティファニアにそう言われた事で、心が少し軽くなった気がする。これって自分で思っていたよりも、無理してたって事なのかな。


「お父様、お母様〜! 準備できました〜!」


 ノエルが手を振りながら、片腕いっぱいに細長い卵の様な物を抱えて戻ってきた。


「これが、イナゴンとかいう蟲モンスターの卵?」

「はい! イナゴンは繁殖力、機動力共に高いので、余り数が多すぎるますとあっと言う間に増えて、草木を食べ尽くしてしまうので、卵の数は少し少なめにしましたの」

「少なめって……」


 ノエルが片手で目一杯抱えるくらいの数はあるのに少なめ?


「では、ひとつずつ孵して行きましょう。一度に孵して逃げられると、厄介ですので」


 そう言って、ノエルは持っていた卵をひとつずつ間隔を空けて地面に置いていく。それから、ノエルは卵に活性液を垂らしていく。


 活性液を掛けられた卵は、時を置かずに殻にヒビが入り、中からバッタの成虫と同じ大きさの蟲モンスター、イナゴンが飛び出してきた。


「うわっ!」


 飛び出したイナゴンは、真っ直ぐにぼくの顔目掛けて突っ込んできた。思わず声を上げて、避けようと後ろに仰け反ってしまい、その時に足を滑らせて、そのまま後ろに倒れそうになる。


「んっ」

「おわっと、と」


 倒れそうになるも、ティファニアが尻尾を使ってお腹を掴んで支えてくれた事で転ばずに済んだ。同時に、飛んできたイナゴンを素早く掴んで捕まえくれていた。


「タイキ、大丈夫?」

「あ、ありがとう、ティファニア。助かったよ」

「ん。どういたしまして」


 ティファニアはそのまま、流れる様に捕まえたイナゴンの羽と足を毟り取り、頭と胴体だけにすると、何時の間に持っていた尖った枝に突き刺す。


「ノエル、どんどん孵化させて」

「はい、了解です。お母様」


 その後も、ノエルが孵化させて飛び出したイナゴンをティファニアが捕まえては、羽と足を毟り枝に刺していく。

 全ての卵を孵して、全てのイナゴンを枝に刺し終わると、結構な数のイナゴン串ができた。そして、今度はティファニアは木の枝を集めて地面に重ねて置き始める。


「これで良し。ねぇ、タイキ。クララから覚えた水操作を使ってこの枝から水分を抜ける?」


 クララが生まれた事で、【万象生命の盃】の力でぼくは、クララの水操作の力を使える様になった。ティファニアはそれを使って、枝から水分を抜いて、枝を乾燥させてほしいと言う。


「ちょっと待って。今、やってみる」


 枝にティファニアに教わったやり方で魔力を纏わせる。自分の体から見えない、でもそこにあると感じる靄の様な物が出て、枝を覆っていく。枝に魔力が行き渡ると水操作を使い、ぼくの魔力に触れた水分を雑巾から水を絞る様な感覚で、枝から程良く抜いていく。


「……フゥ、良かった。出来た」

「ん。これくらいなら良いかな。いくよ」


 ティファニアが、ボッと炎を吹き出して枝に火を点ける。これは、ティファニアの持つ竜属性の基礎能力のひとつで、彼女は火を出す事ができるらしい。


 火を点けた焚き火の周りにさっき作ったイナゴンの枝串を地面に突き刺していく。


 イナゴンは、火と熱でジワジワと炙られて、ポタポタと余分な水分が蒸発していき、表面がこんがりと焦げて香ばしい匂いを辺りに漂わせていく。

 その匂いは、醤油が焦げる様な香ばしい匂いで、嗅いでいて思わずゴクリと喉がなった。


「ん。もうそろそろ、良いかな」


 ティファニアが、イナゴン串のひとつを手に取って焼き加減を確認しとそう言うと、焼きたてのイナゴン串を差し出してきた。


「はい、どうぞ」

「う、うん」


 差し出されたイナゴン串を受け取って、じっと見つめる。見た目は蝗の串焼きだけど蟲モンスターなんだと思うと、やっぱり少し食べるのに躊躇したけど、意を決して齧りつく。


「………頂きます。――ッ!!」


 齧りつくとサクサクとした揚げたての海老みたいな軽やかな口触りとジュワッと口の中に味付けなどしていないのに濃厚な醤油の味と風味が広がり、焦げた醤油の様な香ばしい香りが鼻を抜ける。


「ハグ、ハグハグ。あむ、ハグ、ゴク。はむ」


 気づくと無我夢中で、イナゴン串を食べていた。ティファニアが焼けた端から渡してきてくれるイナゴン串を食べ続ける。ティファニアも食べてはいるみたいだけど、殆どのイナゴン串はぼくに渡してくれていた。


「………ハァ。美味しかった」


 結構な数があったイナゴン串を全て平らげて、自然と口を衝いたのはそんな言葉だった。久しぶりに食べた蛋白質というのもあって、満足感が凄かった。


「フフッ、良かった。満足してくれて」


 満腹になって呆けているぼくをティファニアは楽しそうに見ながら、使い終わった串を焚き火に放り込んで処理していく。


「強くなるなら、まずは沢山食べて栄養を摂らなくちゃ。それから身体を鍛えて、力の使い方を覚える。毎日、少しずつ積み重ねていくのが大切。だからね、タイキ。タイキが強くなりたいって言うなら私達も協力するからね」


 急激に強くなる為には、それなりの代償が要求される。求める力が大きければ大きい程に、代償は大きくなる。それにそうやって得た力は、制御しきれずに暴走する危険が極めて高い。

 だからこそ、毎日少しずつ強くなる為の努力を積み重ねて欲しいのだとティファニアは言う。


「これから色んな種類のモンスターや植物を増やしていこう。種類が多ければ、多い程、ダンジョンは強くなって、タイキが強くなる為の糧も増えていくんだから」


 今までは、ダンジョンの開発に集中して、食べる物には力を注いでこなかったけれど、これからは食べられるモンスターや植物にも力を注いでいって、ダンジョンの環境も生態系も厚くして、ぼく自身もいざと言う時、戦える様に強くなる。


 イナゴン串や仙桃みたいに美味しいものを食べられて、ダンジョンもぼく自身も強くなれるんだ。


 無理せず、毎日、コツコツと。

 よし、頑張るぞー!!

 どうも、黒染です。

 幕間も今回で終了。

 次の第二章は絶賛執筆中ですので、この小説を気に入ってくださった皆さんはぜひ、楽しみにお待ちください。

 誤字脱字報告、アドバイス、感想お待ちしています。

 面白かった、気に入ったと言う方は、ぜひ、高評価、ブックマークをよろしくお願いします。

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