24 近衛兵団vs家出娘、開戦
娘の激怒に、気分を良くしたハーモニアは近衛に命じた。
「ニュースたちを捕縛しなさい。
コゲても、手足を切り落としても構わないわ。
後で回復させます」
近衛兵たちは、そう言われても困ってしまう。
目的は、家出捜しではなかったのか?
闇の森での護衛として、自分たちがいるのではないのか?
幼い頃から知っている、御息女たちの手足を切り飛ばすなど聞いていない。
近衛の長がランバートに問う。
「あの、よろしいので?」
ランバートは、額に手を当てて肯定した。
声を張り上げ指示を出す。
「ガラム、ゾードっ。拘束後、すぐさま魔法で回復させよ。
私にあまり血を見せるな」
「「はっ!」」
「と言うことだバルカス、後は頼む」
「……承知いたしました」
総勢30名の赤揃えが、ニュースらへ迫る。
一体ニュースたちは、父直属の近衛にどう立ち向かうのか?
父の生え抜きだけあって、近衛は一人一人が手練れの兵士だった。
剣技、魔法、魔力量、人数。
全てにおいて、近衛たちの方が上だった。
この圧倒的な力量差の前に、何ができるというのか?
近衛たちは、アリゲーター・ガーガーで逃げるのだけは勘弁なと、胸中で呟く。
だが娘たちには、それしか手が無いだろうとも思っていた。
これは追いかけっこの長期戦になる。
そう近衛たちが思ったとき、主の愛娘たちが動いた。
踵を返して逃走かと思いきや、意外、その逆!
ニュースたちは「◇形」の紡錘陣形をとり、突っ込んできた。
その選択に驚きはしたものの、近衛兵は動じない。
命のまま捕縛するだけだ。
まずはアリゲーター・ガーガー。
相手の機動力を奪う。
複数の近衛が呪を唱え、火球を飛ばした。
狙いはガーガーの向う脛。
その細い脚を、消し炭にする腹づもりだった。
しかしっ。
娘たちの、紡錘陣形の最後部。
デス・オクトパスの幼体から、黒い液体が流れ出て、火球の軌道上に膜を形成した。
液体が薄く伸びて、向こう側のガーガーたちが灰色に透けて見えた。
そこへ4つの火球が直撃。
爆発と共に、膨大な水蒸気が発生する。
恐らく、膜状に広がった液体が蒸発したのだろう。
その立ち込める蒸気の中から、無傷のアリゲーター・ガーガーたちが飛び出しきた。
「なにっ」
4羽のガーガーが菱形陣形のまま、近衛の間をこじ開けるようにしてすり抜けた。
そのすれ違いざま、ガーガーに乗るニュースたちから、紫電、火炎、水撃の魔法が放たれる。
それぞれ3点射された魔法攻撃が、近衛兵の横っ面へ襲いかかった。
近衛たちは剣や盾でガードするが、紫電だけはアーマーを透過して装着者にダメージを負わせた。
だが深手までには至らない。
紫電を受けた近衛は、アーマーのすき間から蒸気を上げながら、平然と立っていた。
近衛兵は「対御息女」として、雷撃、水撃のダメージを軽減する、マジックアイテムの装着していたのだ。
そこに抜かりはない。
しかし、ただ一点。
予想外の衝撃が、彼らを吹き飛ばす。
魔法攻撃に気を取られた数人が、その直後に襲いかかるアリゲーター・ガーガーの翼による「薙ぎ払いを」受け、盾ごと吹き飛んでしまった。
ある近衛は、咄嗟にブロードソードをガーガーの翼に打ち込むが、ガノイン質の超高度な翼に弾き返され吹き飛んだ。
近衛の間をすり抜けたガーガーたちは、急旋回して再び近衛たちへ突っ込んでくる。
近衛たちは舌を巻く。
デス・オクトパスの水魔法、3点射撃、紡錘陣形による一撃離脱。
この複合攻撃で、近衛たちとの圧倒的な実力差を、埋めるどころか越えようとしていた。
近衛たちは「これは侮れぬ」と、剣を握り直す。
「おみごと」
赤揃えの誰かが、そう呟いた。
*
「なんだよ! 私の炎、全然効かねえんだけど!」
ガーガーの急旋回で振り落されぬよう、羽毛にしがみ付きながら、キリルが不満を述べる。
「当たり前、お父様の兵はみんな火属性。
キリル姉の火じゃムリ。水は効く」ニンマリ
「ファーてめえ、後で覚えてろ!」
「キリル大丈夫っ、ちゃんと目くらましになってる。それでガーガーの翼チョップが入るからっ」
「私はただの目くらましかよ、ニュース姉!」
「キリル、ファー、もう一度突っ込むよ!」




