16 腹ペコサーバーと左手のアイテムボックス
「いただきますっ、ひゃあ肉だあ!」
俺はキリル姉の置き土産、黒コゲガーガーにしがみつく。
俺が「食う」と言ったとき、それは2種類ある。
「経口摂取」と「融合吸収」だ。
融合管の生成や、ダメージ回復を繰り返した後は、口から食べるなんてコスパが悪い。
なので迷いなく、体ごと当たっての融合吸収だった。
ガーガーと融合して、アミノ酸レベルまで分解する。
俺の能力の前では、硬い外皮など関係ない。
なにも残さず、俺のカロリーにしてやるのだった。
融合した部分を吸収すると、ガーガーの体躯に、マッシュポテトをスプーンで掬ったようなカジり痕がつく。
それを繰り返して、あっという間にぺろりと平らげた。
けれどまだ足りない。2匹目に取りかかる。
この世界にチュートリアルが無いから、確かなことは言えないけれど。
多分、俺の体は、ガルド13の能力を維持するための「サーバー」になってると思う。
前世での「VRMMODGAWFSABTULS時代」は、ゲームサーバーがシステムを計算し維持していたけれど、この世界にはそれが無い。
なのでこの俺自身が、その代わりなのだろう。
だからすげえ腹が減る。
俺は計算する代わりに、カロリーを消費しているわけだ。
2匹目も完食して、3匹目、4匹目へ。
「ああやばい。カロリー摂取してる時が、一番幸せぇ……」
俺はうっとりしながら、夕方までかけて森に転がっている二十数匹を全て平らげた。
ちょっと食い過ぎた。
「うっぷ……体が重い……」
そして激烈に眠い。
腹がくちた代わりに、猛烈な睡魔という「シャットダウン」が始まった。
「だ……駄目だ。昨日から寝てねえから、気絶する……
このまま森に寝転がると、何かのエサになっちまう」
俺はよたよた歩いて、すり鉢まで戻ると、そのフチから巣穴へダイブした。
砂地の斜面を転がり落ちて、仰向けになる。
日がすっかり落ちて、夜空に星が瞬いていた。
転がった振動を感知して、アリジ・ゴートが顔を覗かせる。
ゴートの体内に「融合管」を一本残しておいたから、ゴートが俺を見て、がっかりしているのが伝わってきた。
エサじゃなくてごめん。
「悪いけど……ここで寝かせて。何かあったら、起こ……し……て……」すや~。
「ゥメエエッ」
次の日。
目覚めると、アリジ・ゴートが、崩れたすり鉢を蛇腹の角でつついて修繕していた。
なんか姉が覚醒しちゃって、ごめん。
俺はあくびを噛み殺しながら、伸びをする。
「ちょっと寝すぎたか? 村に行かなきゃ……ふああ、あふん」
*
「ファー姉、なじみ過ぎだろ!?」
俺がゴブリン村に着くと、丁度ファー姉がアクセル・カメオにまたがって、釣りに出かけて行くところだった。
「ファー姉は一番優しくて好きだけど、どっか得体の知れないところが、あるんだよなあ」
俺は掘っ立て小屋の陰から、その背を見送ったあと、村の一匹に声をかけた。
「なあ、あとの2人はどこ?」
「ギャブ、ガサチン、ガヴッ(あ、ガサチン、こっちだよ)」
俺は小屋に寝かされる、姉たちの枕元に座り込む。
その寝顔をまじまじと覗いて、頬杖をついた。
「まさかあそこで、レベルが跳ね上がるとはなあ」
予想外だった。
調子に乗って、アリジ・ゴートを操り追い込んでいたら、ニュース姉とキリル姉が覚醒した。
本気で驚かされた。
そして何だろう? この気持ち。
なんて言うか――そう、わくわくしている。
「ちょっと嬉しいかも?」
俺が思ってた以上に、ニュース姉たちってポテンシャルが高いのかなあ。
このまま育てたら、どうなるんだろう?
結構、いいとこまで行くじゃないの?
「やってみる? いや、面倒くさいか」
ステータス画面とか、見れたらいいのに。
どこか押したら出ないかな?
俺はキリル姉の眉毛を引っ張る。
「こら、だせ。よくも毎日、指を切ってくれたな、こら」
「う、う~ん……」
「おっと、いけね」
俺はそっと小屋を出る。
*
「ギャウッ」
「そうでもない」
「ガガウッ?」
「水があれば無敵」
ファー姉が、大量に川魚を釣って帰ってきた。
そんな特技あんのかよ!?
俺は小屋の陰で、こっそり突っ込みを入れる。
それといつの間に、ゴブリンとコミュ取れるようになってんの!?
すでに、子ゴブリン2匹を手懐けているんだが?
「ファー姉、本当に恐ろしい子っ」
ゴブリン共が思念波を飛ばし、村をあげての歓迎会を開くと言ってきた。
俺は慌てて止める。
そんなゴブリンがどこにいる!?
俺は、ゴブリン村長と思念波で揉めた。
(そんなこと、しなくていいから! 普通でいいから!)
「ガブブッ、ギャブ!(しかし、ゴブリンの指が!)」
(大丈夫だって、俺以外の指は切らねえからっ)
「ガウンッ?(本当に?)」
ゴブリンは「森のごはん」と呼ばれているだけに、他種族からの脅威に敏感だった。
「ギャブウッ!?(じゃあ、どうすれば!?)」
(何もしなくていいからっ。何かあったら向こうから声かけてくるって。
それまでは無視!)
「ガガウッ、ガブッ!?(それで、ゴブリンの命は助かるのか!?)」
(だから助かるって!)
おっとニュース姉たちが、村長のところへやってきた。
「ギャウッ!(きた!)」
(そりゃくるでしょ、いいから自然に!)
*
「むむむっ」
ニュース姉、キリル姉、ファー姉が、広場で村長と接触し、身振り手振りで話し込んでいる。
村長の声は思念波で聞こえるけれど、姉たちの声が聞こえない。
小屋の陰から出てもっと近づきたいけれど、村ってのは森を開墾して平地にしているので、隠れるポイントが意外に少ない。
どうしたものか。
「あ、そうだ」
俺は「左手」に意識を集中する。
一度左手を後ろへ振って、視界の外へ出したあと、勢い良く前に突き出した。
「でたっ」
突き出した左手に握られていたのは、「ニッパー」だった。
俺はガルド13の能力と共に、当時所持していたアイテム類も、こっちの世界に持ち込んでいた。
代表的なのが、ハンドガンの「キラービー」だ。
キラービーは「右手」を視界外へ振って、前に突き出すと出現する。
ゲーム時代と同じで、「右手」は銃火器。
「左手」は、その他諸々の所持品を出現させることができた。
「うん、ニッパーじゃない」
俺は左手を後方へ振って、見えないチェストボックスに、ニッパーをしまい込む。
もう一度、左手を前に突き出すと、今度は「発煙筒」が握られていた。
「これでもない」
俺は小屋の陰で、何度も左手をスイングさせ、しまっては出すを繰り返す。
*バイクのスペアタイヤ (つるつる)
*缶詰 (さば)
*ピッキングツール (得意技)
*青いビー玉 (きれい)
*赤いビー玉 (きれい)
*虹色のビー玉 (もっときれい)
「むっ」
俺のビー玉コレクションが続く。
泣きたくなった。
「くっそ、リザルト画面が見れれば、セレクトできるのにっ」
俺は20回以上繰り返して、やっと目当てのモノを出現させる。
「でた集音マイク!」 テッテレ、テッテテ~♪
こいつは『虚空の鼓膜』といって、量子共鳴型の集音マイクだった。
たしか物理的な「音」を拾うのではなく、空気中の分子の動きをレーザーで読み取るって、ゲームの設定だったはずだ。
目に見えない低出力レーザーを、対象者の周囲の空気に照射。
声によって震える、空気分子の「微細な揺れ」を量子演算で解析し、リアルタイムで音声に復元する。
という、SF感ましましのアイテムだった。
銃のスコープのような形状をしていて、対象を覗きながらボタンを押す。
すると付属のヘッドホンを通して、ニュース姉の声が聞えた。
『ザザ……ザッ……と言うことで、私たち暫くここに住むから』
「ギャワ?(何て?)」
ゴブリン村長が戸惑って、何度も振りかえり俺の方を見る。
村長とは融合管で繋がっているから、隠れている俺の位置が分かるのだ。
「ギャワ、ガサチン……」
(こっち見んなっ)




