第八話 下の名前で
すみません!
4月1日に投稿した分の一つ前に書いていたのをアップするのを忘れていました!!!
なので今日はそれを投稿します。
こちらが第8部です。
「違うのですか?」
「何マジで『は?』みたいな顔してんだよ。んなわけねーだろ!」
俺は東山のマネをしてみせるがその効果は薄い。
「ぎゃあぎゃあ耳障りですわ。正しい日本語を使いなさい。本当はギャラリーがいたほうが盛り上がりますがいいでしょう。わたくしも鬼ではありません。ここで土下座をするなら許してさしあげましょう」
「マジでそう思ってるんなら心の底からお前は鬼だよ! どんだけ頭お花畑なんだ」
「わたくしの胸に触っておいてその言い草は何ですか!」
「お前のしょぼい乳なんて触った内にはいんねーっつーの」
冗談と思うかもしれないが本当にぷっちんと、血管が切れる音が聞こえた。
どうやらこの一言が東山をキレさせてしまったようだ。
東山の顔はみるみるうちに真っ赤に染まり、唇はぷるぷると震えだす。
「流石、貧民街の犬には私の胸の価値が分からないようですわね。そこら辺の女と一緒にしないでください。わたくしを誰だと思っているんです? 東山家の一人娘ですのよ? 本来ならば胸どころか指一本触れれば実刑は免れないところをわたくしの寛大な心で土下座で許してさしあげると言っているのになぜそれが分からないのですか? もしかしてあなたは馬鹿なのですか? そもそもあなたのような薄汚い野良犬が高貴で艶美なわたくしと相対していること自体、あなたにとって奇跡だというのに」
一呼吸、吸い込んだと思えば機関銃のごとく言葉の鉛玉が飛んでくる。
よく噛まないで言えたなぁ。
しかし俺はそれを闘牛士のごとく華麗にスルーし、見事なカウンターをぶち込む。
「でも、お前俺より成績低いじゃん」
その一言に東山の身体はオーバーヒートしてしまい頭のてっぺんから蒸気が出てくる。
「ぬうううううう!!! うっさいわね!!! とにかく謝りなさいよ! この馬鹿!!」
もうお嬢様言葉も壊れてしまって、その豊富なボキャブラリーも消失したようだ。
「まあちょっと落ち着けって。俺もお前の胸を触ったことは本当に申し訳なく思ってる。この通りだ」
俺は深くお辞儀をする。
「分かればいいのよ。猿並みの知能指数でよく理解できたものだわ。無駄な脂肪がついているようなあの女と違ってわたくしのは形もきれいでわたくしの体躯ともバランスが良く非常に美しいというのに」
下手に出れば天狗になりやがって…… こいつ…… 抑えるんだ佐渡優。
「では、わたくしはこれで失礼します。ごきげんよう」
「ちょ、ちょっと待て待て待て。まだ話は終わってねーよ」
あぶねえ。本題を忘れるところだったわ。
今度は東山が俺に謝る番だ。
俺への嫌がらせを絶対にやめさせてやる。
「何をまだ話すことがあるというのですか? わたくしの時間を使うというのがどれほどのことか分かって言っているというのなら聞いてさしあげますわ」
遠回しな言い方だがどことなく素直だな。少し疑問に思ったが構わず切り出す。
「お前――」
「その、わたくしのことを『お前』と呼ぶのはやめていただけますか? ひどく不快です」
「……じゃあ何て言えばいいんだよ」
東山は少し考えてから答える。
「『七瀬』と呼びなさい」
「はぁ? なんでおま、呼び捨てなんだよ? そんな間柄じゃねえだろ」
「わたくしの命令は絶対ですの。黙って従いなさい」
はぁ…… もうこいつに何言っても糠に釘だな。
俺は諦めて東山のことを「七瀬」と呼ぶことにした。
「この約一か月間、学園で俺に嫌がらせしてたの七瀬だよな」
「何のことですの?」
「とぼけても無駄だぜ。しっかり裏は取れてる。他の生徒使って自分の手は汚さないってか。実行犯はもう少し慎重に選ぶべきだったな」
「……っ。使えないっ」
「どうしてあんなことをしたんだ?」
疑問に思っていた動機に関して。
俺がこいつにあんな陰湿な嫌がらせを受けるレベルまで嫌われる理由が分からなかったのだ。
七瀬はそれを聞かれて表情を崩す。
「と、特に理由はありませんわ。あなたが気に入らなかっただけです」
「気に入らないだけであそこまでしないだろ、普通。なあ、なぜなんだ?」
俺はゆっくりと尋ねて七瀬に詰め寄る。
「それを知ったところで何の意味もありません」
「いいや、俺が納得しないと帰れない」
「しつこいですわね……」
「俺、お前に嫌われるようなことしたか?」
「ええ、会った時からずっと嫌いでしたわ」
七瀬は鼻を鳴らして頷く。そこで満足げにされてもどうしようもないのだが。
「正確には会う前から嫌いでしたわね」
会う前から嫌いってどういうことだよ……
それを聞かずして七瀬は自ら理由を教えてくれた。
「わたくしに新入生代表の挨拶の依頼が来たとき、やはりわたくしが首席で入学したのだと安心していました。ですが蓋を開けてみれば入学試験一位の方が挨拶を辞退したというではありませんか。それを聞いてわたくしは怨嗟に身をよじりました。お母さまにはこっぴどく叱られるし……」
「そういうことか」
「屈辱でした。幼少期から常に何事においても『一位』を取り続けていたわたくしより優れた人間がいることに今も動揺が隠せません」
なるほど大体分かった。
七瀬は首席で入学したと思って天狗になっていたところ、実は俺が首席だったということが発覚し、その屈辱と嫉妬があのような嫌がらせにつながってしまったと。
「理由は分かったが、それであんなことするのは幼稚だ」
はっきり言ってやった。
七瀬は俯いてしまい、さっきの機関銃ばりの罵声が嘘のようだ。
「なあ、七瀬」
屈辱を感じるのは自由だがそれをあのような嫌がらせで晴らそうとするのは筋違いもいいとこだ。
そのせいで俺の学園生活がこんなにもつまらないものになってしまっているのだから。
「とにかく、あんなことはもうやめてくれ。結構こたえる……」
「うるさいうるさいうるさい!! わたくしが『一位』になるためには手段は選んでられないの」
わがままなのはお嬢様の特権ってか。
「あんなことをしても、俺の成績は下がらないぞ」
「なっ」
「七瀬があんなことしている間に俺は勉強してたんだからな」
実を言うと七瀬の嫌がらせのせいで勉強にも身が入らなかったというのは嘘ではない。
「だからもうあんなことは辞めろ」
「じゃあどうすれば……」
少なくとも学園二位の成績を持っている者のやることじゃないだろう。
その位置にいる者なら正々堂々と同じ土俵で戦うのがフェアだ。
「俺とゲームをしようか」
「ゲーム?」
「そう。勝った方が負けた方になんでも命令できる」
それを聞いた七瀬は俺の話を聞くことにしたらしい。
「来週の中間テストで勝負だ」
「そ! そんなのあなたが有利――」
「慌てるな。ハンデをやる」
俺は一呼吸おいてからその内容を述べる。
「一科目でもお前の点数が高ければお前の勝ちでいい」
俺が提示したハンデはハンデとも呼べない相当不利になるような提案。
「ずいぶん舐められたものですね」
「お前が勝ったら、土下座だろうが靴舐めだろうが何でもしてやる。退学だって命令してもいいんだぜ」
しかし七瀬も頭の回転が速くこのゲームにおけるアドバンテージをすぐに理解しているようだ。
「……分かったわ」
「ただし一つだけ条件がある」
「条件?」
「簡単なことだ。俺への嫌がらせを辞めるというのがこのゲームを受ける条件だ」
「いいでしょう。その勝負受けて立ちますわ。後で吠え面をかいても知りませんよ」
「望むところだ」
その場で別れて公園を出る。
そこで一つだけ疑問が思い浮かぶ。
「あいつなんで徒歩で……」
東山製作所のお嬢様ともあろうものが車で登下校していないのはなんか変だ……
本日も読んでくださりありがとうございました。
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