第四十四話 お見通し
閑話的な感じだと思っていただければ。数話ほど続きます。
結局、体力に自信がある可憐に捕まってしまい、目下こっぴどく絞られている最中だ。
「優様が友達や幼馴染を大切にするのは私の望むところですが、恋人でもないのに破廉恥なことをするのは見過ごせません! 私だけにしてください!!」
「アレは偶然って言うか、事故って言うか……。わざとじゃないしさ」
「偶然とか、故意とか関係ありません。優様は恋人がいるという自覚をもって気を付けるべきだと言っているのです。もしさやかさんではなく他人だったらどうするのですか? 取り返しのつかないことになりかねません」
「ご、ごめん……」
――はぁ……。これいつまで続くんだろう。
「あれ? 優君じゃない。こんなところでなにしてるの?」
公園の入り口の方から女性の声が聞こえた。可憐もその声の方向へと意識を向ける。
小さな公園なので外からでも十分に聞こえた。
「あ、お久しぶりです」
言って会釈をする。
「誰ですの?」
「さやかのお母さんだよ」
大橋桃子さん。母さんとも年が近く、仲がいい。母さんほど忙しいというわけではなさそうだが、主婦でありながら仕事をしているので、母さんの良き理解者でもある。俺とさやかの交流も二人の関係に起因するところが大きい。
子供の頃はお互いの母親を「さやかママ」「ゆうくんママ」と呼び合うほどだったが今はどちらも「おばさん」呼びとなっている。
問いに答えると、可憐も「なるほど」と納得していた。
「さやかもいるじゃない」
「あ、お母さん」
彼女は俺やさやかだけでなく可憐や東山の存在も認めたようだった。俺とさやかだけならまだしも他に知らない二人がいることにも驚きを見せない。
「お二人は?」
「こっちが東山七瀬ちゃん。こっちが花澤可憐ちゃん。ゆうくんと同じ学校の子」
おばさんが聞いてきてさやかが答える。
紹介された二人が同時に軽く会釈をする。それぞれ再度自分の名前を伝えた。
「なるほどね~」
何がなるほどなのかは分からないが、おばさんはなぜか苦笑していた。
「優君さ、良かったら、久々にうちで夕飯食べていかない?」
よく見るとおばさんの両手には大きなビニール袋があった。
言われて、今朝「夕飯は買って食べてください」という置手紙があったことを思い出した。今日は作り置きする時間が無かったようだ。
「もちろん、お二人もご一緒に」
言葉を追加される。
母さんの作り置きが無いので、正直さやか宅で夕飯をごちそうになるのはやぶさかではいが、さらに二人増えるとなると流石に図々しくはないか。
「いいんですか?」
遠慮気味に聞き返してみる。
「いいもなにも。今日お父さんが出張中だから寂しいのよ。さやかもいいでしょ?」
「お母さんがいいなら別にいいけど……」
「ほら、さやかもこう言ってるし」
どうもおばさんは俺たちを夕飯に招待したいらしい。
となると、あとは二人の回答次第だ。
「可憐はどうする?」
「優様が承知されるなら、私もお供します」
可憐はオーケーと。東山はどうだろうか。
「わたくしだけお邪魔しないのも、この状況では変でしょう」
俺が質問するのを東山は先回りした。さっきと変わらず仏頂面でずっと腕を組んでいる。行くなら行くって素直に言えばいいのに。
「じゃあ決まりね! 今から作るから少し時間かかるけど、どうする?」
聞かれて俺たちは互いに目を合わせる。
少し時間を潰してからお邪魔するか、それとも今からお邪魔して待つか。
三人の表情から選択の余地はないことが察せられた。このまま時間を潰す方法など思いつかない。
「今からうかがって、待たせてもらいます」
そう伝えて、四人で彼女のいる公園の入り口に向かった。
おばさんは少し気合が入っているようだった。
公園からさやか宅までは目と鼻の先。そもそもこの公園が帰り道で家の前にあるからおばさんが俺たちに気付いたのかもしれない。
「持ちますよ」
おばさんの近くに寄ってビニール袋を渡すよう促す。
「優君も男らしくなったわね~」
「ええ。まあ少しはそうなっていてくれてることを願います」
苦笑しながら答える。
みんなで暗くなった通りを歩き始めた。
おばさんの左隣に俺、その隣に可憐。俺とおばさんのちょうど後ろ辺りにさやか。その斜め後ろを東山という構図だ。
「あんな場所で何してたの?」
おばさんがそう言うのも無理はない。あの公園は俺とさやかが子供の頃よく遊んでいた公園だからだ。高校生となった今、来る場所ではない。
「少し、子供の頃が懐かしくなって。思い出の振り返りってやつですかね」
自分でもよく分からない言葉だったが、まぁ部分的には合っている。
さやかの目の前で今日あったことを言うわけにもいかない。本人の立ちどころがなくなりそうだ。
「振り返りね~。優君はそんなタイプじゃなかったでしょ」
ふふと声を漏らしながらおばさんは笑った。
「今もそのつもりです」
全て見透かされているような気がしたが、気にしないことにした。
「そういえば優君の学校ってすっごい大きな私立だったわよね」
「そうです。すっげえお金持ち学校で、まだ慣れませんね。未だに場違いな感じがしてます」
「そんなことないですわ。優様は我が校の立派な生徒です」
可憐が答える。
後ろでさやかが東山に笑顔で何かを話しかけている。それに東山は機嫌悪そうにしていたので、おそらくさっきのバテバテの様子を小馬鹿にされたのだろう。
「となると、花澤さんはお嬢さんってこと?」
「お母さん、そんなこと聞いたら困るでしょ」
「はいはい。まぁお金が全てじゃないから……。さやかもまだ諦めるのは早いわよ」
後ろからさやかに指摘されるも、言い返していた。
「お母さん!!」
さやかは顔を赤くしておばさんを咎めた。
可憐はあははと愛想笑いをしていた。
俺はどういう反応をしていいか分からずあわあわしていた。
「だとすると、お二人の口に合う料理をお出しできるかだわね……」
可憐はともかく、東山は何を言い出すか。まぁ、来ることに決めた時点でそういう心配は無用か。
「七瀬ちゃんは何か食べたいものある?」
さやかが東山に話を逸らす。
「……別に、招待された身でそのような図々しいことを言うつもりはないです」
東山も丸くなったということらしい。
そうこうしているうちにさやか宅にはすぐに到着した。
おばさんは「じゃあ、さやかの部屋で待ってて」と残して早々に奥へと入っていった。
言われた通り、さやかの部屋へ向かおうとすると。
「ちょ、ちょっと待って!!」
さやかが後ろから回り込んできて俺の前に立ちはだかる。
「え? なんで?」
言って階段を上がろうとする。さやかの部屋は二階だ。久々にお邪魔するがそれくらいは覚えている。
「ちょちょちょ!! もう……ほんとにデリカシーが無いんだから……」
さやかに押し返されて、今上がった階段を後ろ向きに降りらされる。
同時に東山に二の腕をつねられた。どういうこと?
デリカシーを発揮する場所なんてあったか?
「さやかさん。優様は押さえておきますから大丈夫ですよ」
言いながら腕を取ってくる可憐。
「うん。よろしく。七瀬ちゃんも」
「そんなことを言っている暇があったら早く片付けてきなさい」
母親に叱られた子供の様に、さやかはどどどと階段を上がる音を響かせて、二階へと姿を消したのだった。
「ぁああ! もうっ!! ほんとっ……」
「だ、大丈夫か?」
「うるさい!!! 絶対来ないでよ!!」
上から聞こえてくるさやかの声はなんかめちゃくちゃ怒ってた。
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