第二十一話 ふたつの約束
少し期間が空きましたが、今話から2章的な感じです!!
「よかったよかった。二人が仲直りして、私、ほんとにうれしいよ!!」
「さやかさんのおかげですわ」
さやかに微笑んで応える可憐。
その後、毎朝さやかと学校への道が分かれるまで三人で登校するという日常に戻っている。
「そうだな。今回はほんとにさやかのおかげだ」
言ってから、感謝の気持ちと高校生になってまでもいつまでもさやかに世話を焼かせている情けなさが綯い交ぜになる。
「さやかさんのスマホから長文のメッセージが来たときは私も驚きましたわ」
「ゆうくんがスマホ貸してって言うからさ、私に読まれるの恥ずかしくなかったのかな」
さやかはそう言って、空を見ながら笑う。
自分からスマホを貸して添削までしてくれたくせに……
「ふふ。確かに。さやかさんのスマホですから、さやかさんもあのメッセージは読めますのにね」
さやかに添削された謝罪メッセ―ジは半分くらいしか俺の言葉は残ってなかった気がする。
「それで、その子猫さんの様子はいかがですか?」
「うん。今は動物病院で面倒を見てもらってるから問題ないと思う。今日学校に着いたらあいつに聞いておくよ」
しばらくはこの状態が続くと思うけれど、あいつが猫を引き取るのかどうか、まだ答えを聞いていない。あいつが始めたことで責任はあいつにあるけど、俺もその一端を担っている。
だからどうするか悩んでいるのなら相談に乗ってやるくらいするべきだなというふうに考えていた。
「そんなことより、仲直りのデートとかしないんですか?!」
突然さやかが地方局の新人アナウンサーの様にマイクを握った体でそのこぶしを俺の口元に向けてきた。
「なんだよ。いきなり! どっちにしろ恥ずかしいから言わねーよ!!」
「そうですわね。夏休みに花火大会に行くお約束はしていますよ」
にっこり女神の様に微笑みながら可憐はさやかに教えている。恥ずかしいからそれは言わなくていい。
「花火大会?! いいね~。王道だね~」
「可憐が花火大会行ったことないんだってさ」
「へ? 珍しいね??」
「そうなんです。子供の頃は過保護な親のせいで人が多い所にはあまり連れて行ってもらえなかったのです」
なるほどな。この間その話を聞いたときは理由を聞きそびれていたから妙に納得してしまった。確かに可憐ほどの箱入り娘をむやみに外には出そうとは思わないのだろう。
「お二人は、花火大会に行ったことはありますか?」
「うーん。花火大会っていうか近所のお祭りは行ってたよね?」
さやかが俺に話をふる。
近所のお祭りというのは毎年八月上旬当たりだったかに行われる町内会主催の夏祭りだ。この町に住んでいる子供達なら夏休みの一大イベントと言っても過言ではない。
「お祭りの最後に規模は小さいけど打ち上げ花火があがるんだよ」
「数も時間も少ないけど、すごく印象に残ってるね」
小学生時代はさやかと家族ぐるみでそのお祭りに行った記憶がある。中学になってからは照れくさくてその機会は無くなったけど。
小学生時代の記憶というのは不思議で今も鮮明に覚えているものだ。
なけなしの小遣いでいろいろな屋台を回った。
俺たちと可憐の住んでいる町は違うので可憐がその存在を知らないのも無理はない。
もっとも可憐はそういう経験をしてこなかったみたいだけれど。
「今もそのお祭りは行われているのですか?」
行かなくなってからは全く気にしていなかったがどうなのだろうか。さやかは友達と一緒に行ったりするんだろうか。
「今もやってるよ」
そんなことを考えているとさやかが答えてくれた。
「私、お祭りの屋台というのも経験が無くて」
「じゃあ、今年はみんなで行く?」
するとさやからしいと言えばさやからしい提案がなされた。
その瞬間、ほんのコンマ数秒だけ時が止まる。
「……」
可憐との約束はそれを認めるものではないからだ。可憐の方を見てみるともじもじしていて回答を俺にゆだねるようだった。
「私なんか変なこと言った?」
妙な空気感を感じ取ったさやかがバツが悪そうに尋ねてくる。
「さやか、花火大会は二人きりで行こうって約束してるんだ。だから……」
「――そ、そうだよね?! ごめんごめん。気が使えなくて……」
俺が正直に言うと、分かりやすくさやかは悲しそうな表情をする。ほんと、分かりやすい。
……いや、待てよ。
「やっぱ、お祭りは三人で行こう」
「え?」
「へ?」
俺の発言に二人とも頭の上に疑問符を浮かべる。
「花火大会はもっと大きな規模のものを二人で行くから、今話してた近所のお祭りは三人で行こう」
これなら、約束を守れる。
「いいの?」
「なんか、昔のこと思い出して懐かしくなったからさ」
さやかにそんな顔をさせたくなかったというのが本音である。
「それに、お祭りはみんなで行った方が楽しいだろ? 可憐もそれでいいか?」
可憐に確認すると、快く了解してくれた。
「もちろんですわ! それに縁日の屋台なんてこのままだと経験しないままな気がしたので」
「じゃ、そういうことでな」
二人に了解を得た俺はほっとしてからさやかに話を振る。
「そういえばさやかは金魚すくい得意だったよな」
「へ?」
妙に放心していたらしいさやかは俺の話を聞いていなかった。
「金魚すくい?! なんか夏らしい響きですわね。風情があります」
「あ、ああ。子供の頃はね。最近はやってないからどうかな。はは」
微苦笑を浮かべながらさやかは可憐の隣を離れてこちらに向いた。
タイミング悪く学校への分かれ道が来てしまったようだ。
「じゃあ、楽しみにしてるね! 二人と一緒にお祭り」
胸の前で小さく手を振ってから、さやかは走り去っていった。
気温が上がりきっていないからなのか、さやかの言葉にはいつもの軽快さが無い気がした。
「さやかさん、元気がありませんでしたけど…… 大丈夫でしょうか」
さやかが去って行った直後、可憐がそう発言した。
俺が抱いた感覚よりも鋭く、可憐はその違いをひしと受信したようだ。
あいつは外向きのいい顔をするのは得意なのだが、俺だけには分かる。
そう思っていたが、それは俺の思い上がりだったかもしれない。
「可憐も気づいたのか」
それほどまでに可憐ははっきりと「元気がない」と言ったのだ。
「ええ。いつもより浮かない表情をしていたような」
「なんか悩み事でもあるのかもしれないな」
花火大会もとい夏祭りの件は三人で行くということで了承を得ているのでそこに不満はないはずである。
しかしその話が済んだ後もさやかは浮かない顔をしていた。
「可憐もフォローしてやってくれ」
「はい、もちろんです。私はさやかさんの友達ですから」
そう言ってくれる可憐はさやかにとっても俺にとっても頼もしかった。
学校に着いてから可憐と別れる。
自分の教室に入って自分の席に向かう。
教室のドアを開けた瞬間から目に入ってくる、際立つストレートの金髪。
すでに東山七瀬は俺の一つ後ろの席に着座していた。
ピンと背筋が伸び、絵にかいたような優等生と言ったところだろう。
俺は自分の席に座ってから、九十度身体を回転させて七瀬の方を向く。
「おはよう」
「おはようございます」
その印象のまま東山七瀬は俺に挨拶を返してくる。
「最近、猫はどうだ?」
俺はごく自然に、ごく普通のただ席が近い級友に話しかけるようなトーンで質問した。
「体調はいいみたいですわ」
「よかったな」
「ええ」
なんとなく素っ気ない言葉遣いをする七瀬に俺はほんの少しだけ寂しさを感じた。そんな感情が芽生えること自体おかしいことなのだと自分で分かっておきながら。
目はこっちに向けないながらも七瀬は俺の言葉に返事をしてくる。
だから本題を聞くことにした。
「で、引き取るんだよな。あの猫」
「……」
けどその話題になった途端黙り込む。
猫を動物病院に連れて行った帰りにもその質問に答えなかった。
「何を気にしているんだ? なにかあるのか?」
「別に何もありません」
また同じ回答。
「なんかあるなら相談乗るけど」
「わたくしがあなたに相談することなど一つもありません。あと単純に気持ちが悪いです」
「そこまで言わなくても……」
こいつの毒舌は入学当初から聞いているが未だにそこそこのダメージがある。
「とにかく、放っておいてください」
「そういうわけにはいかん。猫の将来のことがあるからな」
東山七瀬の選択を聞く義務があると俺は思っている。
もうあれから一週間ちょっとは経つ。
ずっと病院に面倒を見てもらうわけにもいかないだろうしな。
「き、決めますから。わたくしが一人で決めますから、放っておいてくだ――」
すると突然教室の扉が開き担任の先生が入ってきた。
それを見て俺は体を正面に向けなおす。
「えー。ホームルームを始める前にお知らせがあります」
聞きなれない文言に教室はざわつき始める。
「では、入ってきてください」
再び教室のドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。
「では、挨拶と自己紹介をよろしくお願いします。」
先生の一言に対して、その男子生徒はさっそうとチョークを取り黒板に氏名を書き始める。
女子の声がどんどん高くなっていっているのは気のせいではない。
それに加えて教室に入ってきた瞬間から纏っているさわやかな空気感。
「神藤儀隆です。今日からよろしく」
にかっとした笑顔で最低限の軽い挨拶をすますと、女子の黄色い歓声もそこそこに制しその男は東山七瀬の机の前に歩いて行ってこう言った。
「七瀬ちゃん。久しぶり」
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