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星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
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1-31 突発戦闘

 

 初動こそマナに後れを取ったが、何が来るのか分かればクロガネにも対処できる。

 咄嗟に左手を構え、地面を凝視し──僅かに地面が盛り上がった瞬間を狙う。


「ショット!」


 飛び上がってきたグランドアリゲーターにショットが直撃し、勢いよく吹っ飛んでいく。が、すぐに起き上がっている。思ったよりも皮膚が硬い。

 マナの倒した個体に視線を向ければ、身体中がびっしりと鱗で包まれており、見るからに硬そうだ。


 というか、地面の中を移動するような奴だ。表皮側が固いのは当たり前か。


 周囲を見れば、新人冒険者たちは今だ狼狽えていて対応しきれていないようだ


 シユウとセスタは流石だ。前衛職である剣士と槍士は伊達ではなく、不規則に飛び上がってくるグランドアリゲーターを的確に斬り伏せる。

 それを支援するククリも、遠くから様子を窺う個体を的確に撃ち抜いている。


 気が付けばナリィも移動し、バルトの隣に陣取って魔法を即座に放てる体勢を取っていた。


 負けじとクロガネも赫灼剣を引き抜こうとして──「ん?」

 ……抜けなかった。


「そんなのあり?」


 武器屋では普通に抜けたのだから、こんなにもすぐに抜けなくなるといったことは考えにくい。

 のだが、本当にびくともしない。少しは遊びがあるとかそういうレベルでもなく、本当に鞘と一体化してしまったかの如く微動だにしない。


「マジかよ」


 そんなクロガネに、モンスターは手加減などしてくれるわけもない。

 勢いよく飛び掛かってきたグランドアリゲーターめがけて、赫灼剣を鞘のまま叩きつける。見た目通りワニだというなら、狙うなら背中側ではなく腹側だ。


 一式揃えた装備による強化もあって、クロガネはグランドアリゲーターの動きを十分に見極められている。

 宙を飛んでくるその側面に身体を回し、下から赫灼剣を叩きつける。

 想定通り、腹側には硬度の高い鱗は生えていないが、それでもなお──。


「——っ、重……!」


 流石に重い。吹き飛ばすには至らなかった。

 だが、鱗の生えていない腹側の痛みに驚いたのか、地面に落下したグランドアリゲーターは慌てた様子で地面に潜り、どこかへ消えてしまった。


 クロガネは赫灼剣を片手に左手を構え、距離のある位置にいるモンスターにショットを放ちながら、新人たちの前に移動していく。


 ──と、その時だ。


 クロガネの真横をマナが通り過ぎ、一人で突っ込んでいく。

 マジか!? クロガネはそう声を上げそうになったが、その戦闘を目の当たりにしたことで自然と引っ込んだ。


「せぇい」


 特段、力も籠っていないような声と共に振り下ろされたマナの踵は、硬いはずの地面を易々と砕いた。

 ビシッ、と地面がひび割れ、マナを中心にして放射状に破砕する。


 突然の衝撃に逆らうことも出来ないまま宙に浮かび上がったグランドアリゲーターを視認したのち、マナの姿が掻き消える。

 マナが時折見せていた瞬間移動したかのようなあれは、一切の誇張でもなく、ただただ速かった、ということなのだろう。


「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ」


 いちいち掛け声で力が抜けそうだが、それに反してマナは己の姿を視認することすら許さないといった速度で駆け抜け、そして同時にグランドアリゲーターを斬って、斬って、斬りまくる。


 マナの姿がようやく確認できた頃には、十数匹のグランドアリゲーターが地面に倒れ、微動だにしなくなっていた。


「……」


 キリッとしたマナの横顔。普段のどこか力の抜けたような雰囲気とは一変してクールな横顔で、ギャップも相まってかなりかっこいい。

 が、周囲にグランドアリゲーターの気配がなくなったと分かるや否やその表情から力が抜け、普段の雰囲気に戻る。


 そして。


「いえーい。ぶい」


 左手は腰に、右手は目元で横ピース。

 あまりにも余裕そうだ。


 マナがS級だったこともその実力も知らなかったが、クロガネの想像よりも遥かにマナは戦えるらしい。普段のマナからは想像できない戦闘だ。

 というかあの余裕っぷり、普通に全力ではないのだろう。


「……ひと段落かな」と周囲を見渡してシユウは言った。「怪我してる人は?」


 怪我人はいなかった。

 結局、戦闘に参加したのは前衛の面々だけで後方にまで被害が及ばなかったようだ。バルトとナリィが何もせぬまま戦いが終わったのだから、その更に後方にいた新人たちに被害は当然、ない。


「……いなさそうだね。それじゃあ、再開しよう」


 そして何事もなかったとばかりにシユウが進んでいくのを見て、新人たちが僅かにざわついたのをクロガネは確かに見た。

 油断していれば、初撃で誰かが死んでいたかもしれない。

 そんな明確な命のやり取りを再認識し、お互いに顔を見合わせながらも、どこか覚悟を決めたような表情でシユウの背中を追いかける。


 突然の戦闘ではあったが、さして被害も出ず、かつ新人の意識を変えるきっかけとなったのならば……悪い戦いではなかったのだろう。

 クロガネはそう思いながら、最後尾を歩いていく。


 相変わらず赫灼剣は微動だにしない。

 ……かちゃ。

 だが、今でもまだ赫灼剣は僅かに動いている。まるで、意思があるかのようで少し不気味だった。





 その後は戦闘もなく平和だった。

 というか、マナ曰くこれほど街の目前までモンスターがやってくること自体がかなり珍しいのだという。

 グランドアリゲーターに関しても、本来の生息域はもっと街から離れた位置であり、カルファレステ街近郊で見かけたのはマナもこれが初めてだと言った。


 西から北へ一行は歩く。北の門まであと半分といったところで、クロガネの記憶にも新しい赤竜との戦闘痕が見えてくる。


 新人たちが思わず「おお……」と声を漏らす。

 あの戦闘痕に直接関わったクロガネも同じく「うわ」と言った。あの戦闘は夜間であったため、その被害の大きさをまじまじと眺めたのは何気にこれが初めてだ。


 それはまるで隕石でも降ってきたかのようなクレーターだった。だがそうではないと分かるのは、クレーターの形状が円形ではなく歪だからだ。

 よく見れば、冒険者たちがいたカルファレステ街の方角や、恐らくクロガネが移動していた地点付近だけ中心点からより遠くまで地面が抉れている。

 単純な爆発ではなく、衝撃に指向性を持たせていたということだろうか。


 と、そんなことをクロガネは考えながら眺めていると、隣を歩いていたナリィが少し驚いた表情でクロガネを見ていた。


「……クロガネさんが驚いてるの、なんか変な感じです」

「お前、赤竜の一番近くに居ただろって?」

「えっと、まぁ……はい」

「それ自分でも思った。でも、日中に見ると全然印象違うね。思ったより数倍やばい景色になってる……」

「あれ?」とナリィが少し考える素振りを見せて、ああ、と閃いた表情を見せた。「なるほど、旧都跡の森からカルファレステ街に戻る時は東の街道まで迂回していましたからね。あの時は見えなかったんですね」


 ん? とクロガネは首を傾げた。

 ナリィが言うのは、ミナやダリルたちを救助してタングリア旧都跡を出た際の話なのは明らかだが、クロガネの記憶ではそこにナリィの姿は見えなかった気がした。


「あれ? あの時ってナリィさんいたんでしたっけ」

「実はこっそり。まぁ、森の外でシユウたちを待っているだけでしたから顔は合わせませんでしたね」

「ああ、そういう」


 というかあの日、何気に東の街道を通っていたというのは初耳だった。

 なんか見たことない道を通っていたという朧げな記憶はあるが、あの時はそれを深く考えるだけの気力は皆無だった。


 そんなことを話していると、前方で新人冒険者の何人かがクロガネを振り返って見ていた。

 見るからに分かりやすい、話しかけたいな〰〰、という視線。

 ナリィと顔を合わせると、二人してくすっと笑った。


 クロガネが手招きをすると、三人ほどが駆け寄ってくる。獣人の女子と、エルフの男子と女子。

 何気に亜人種とこうして話すのは初めてだ。


 それにしても凄い。本当に獣人の耳は動物らしくぴこぴこと動いているし、エルフの耳は長い。

 遠目から見て身体的特徴は把握していたものの、間近で見るとなんというか、ちょっと感動した。


 ただ、耳を触ってもいいかと聞くのはご法度だ。

 プロポーズと勘違いされやすい、らしい。ヤタガラス情報だ。


「あ、あの、あの!」元気いっぱいそうな獣人の女子はやや興奮したような表情だ。「あんなクレーターを作るような赤竜と戦ったんですよね……ど、どうでしたか? 怖かったですか?」

「そりゃね。普通に何度か死んだと思ったよ」

「逃げようとは思わなかったんですか?」

「んー、そういえば必死すぎて考えもしなかったな……」

「え、ええ!?」

「あはは」


 それからというもの、話しかけても安心だと思われたからなのか分からないが、ひっきりなしに新人が来ては、様々なインタビューにクロガネは答え続けた。


 そうこうしている内に、あっという間に一行は北の門へ辿り着く。

 ここはクロガネにも見覚えのある景色だ。振り返れば巨大なクレーター。この位置から見ると、一層あの日の戦闘が明瞭に思い起こされる気がした。


 行きと同じく鉄扉をくぐって街の中へと入っていく。

 最後尾にいたクロガネとマナ以外が扉の向こうに行ったのを確認してからクロガネも通ろうとして、ふと誰かの視線を感じて立ち止まる。


「……?」


 違和感は感じるものの、その正体は分からない。まるで幽霊にでも見られているかのような、拭い切れない漠然とした不安。

 それを知ってか、マナがゆっくりとクロガネに近付いて、耳元で小さく呟いた。


「気付いてた? ずっと見られてる」

「え……」


 気付いていた──という程でもなかったが、クロガネの感じていた違和感が勘違いではなかったということはマナの表情を見ればすぐに分かった。


「何となく嫌な感じだけど、今は気にせず街に戻ろう」

「……分かった」


 そうしてクロガネはマナに促されるまま、振り返りたい気持ちを抑えて鉄扉をくぐり、街の中に入った。


 その後は全員で冒険者協会に向かい、依頼の完了を報告して解散。

 本当にそこまでなんということもなく、これまで通り一日が終わるのだと思っていた。



 だが、クロガネやマナの感じていた違和感——嫌な予感は、最悪の形で現実となってしまうこととなる。



 その次の日、シユウのパーティメンバーであるセスタとククリが、宿の一室で殺されていた。






 


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