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光勇者と闇勇者  作者: 神宮杞憂子葉
一章 はじまりの勇者
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第八話「お互いを知るために」

同じく迷いの森。

三人は無言で歩く。

先程のリィズの自己紹介は「聞かなかったこと」にした。幸せにはならないかもしれないけれど、不幸にはならないギリギリの選択肢。それしか道はなさそうだと三人はなんとなく腑に落とせざるを得なかった。

時折現れてくれる魔物には助かった。重い沈黙を破ってくれるし、魔塊は落としてくれるし、経験値もくれる。

命のやり取りがこんなにも早く慣れるものなのかとハナは思ったが、そんな思考さえも先程の聞いてはいけないことを思い出さないで済むだけありがたいとも思った。リィズがこの辺りでよく野宿しており、迷いの森の土地勘があったため、何体目かのゴブリンを討伐した後、迷いの森はいとも簡単に踏破することが出来た。

ハナたちは迷わずの森を踏破した。


「うわっ眩しぃー」


見渡す限りの広大な草原。青い空。


「ドュリアルド平原。ここを南東に進むとアウブの町があるな。」


グゥーと後ろ足を伸ばしてからシュウはその場に座り続ける。


「…まぁ、なんか色々あったけどよ。ここから冒険スタートってことで三人で頑張っていこうか。」


「シュウにしてはなんかまともなことを言ってる。」


「ハナは全世界非公認勇者だし、俺は喋る猫だし、リィズはアレだし、もうどうとでもなってくれってのが本心だけどな。結局前に進むしかないだろ、こんなん。だからリィズもあまり落ち込んでばかりいないで前向きに行こーぜー。」


「…あぁ、すまない、シュウ。」


それもそうか、とハナは笑い再び三人は歩き始めた。

シュウのおかげか話はポツリポツリと進み、気付けば冗談が飛び交うほどには会話が弾んだ。

一人で魔王に立ち向かうのではない。仲間がいるのだ。ハナはそんなことを思いながら一歩踏み出した。アウブの町はまだ遠い。




ドミナトの町に寄ったユイ達一行だったが、馬車に揺られて三時間ほどですぐ到着してしまった。

物資は少しの水を飲んだくらいか、ほぼ消費していない。

ドミナトの町は首都カイゼリスに近いため経済的に豊かな町だ。

小さい規模ではあるがカイゼリスに倣った建築構造となっている。もちろんコロシアムなどは無いが、道端で談笑する人、露店で叩き売りをしている商人、町の警備隊員が子供達に抱っこやおんぶをせがまれている様を見るに、活き活きとした町だとユイは見渡した。

とりあえず昼食を取るため一行はレストラン【銀狐のかまど】に入り注文を済ませた。

テーブルに地図を広げるとルーエは次の目的地までの到達時間を計算している。

ルーエの予想していた到着時間よりも大幅に早くドミナトの町に到着したのには理由が一つだけ存在した。

ユイ達一行は首都カイゼリスからドミナトの町までの道のりにて、一度として魔物と遭遇していない。

道中やけに疲弊した兵隊と数回すれ違った。昨晩大急ぎで出兵しだした兵をアイシャはカイゼリスの酒場から見たという証言から考えるに、国王の仕業だろう。

魔物は魔塊も抜き取られていないため、おそらくはコロシアムのソレら同様に適度に弱らせたのだろう。

そして、自分よりも弱い捕食者に仕留められたのか、衰弱し力尽きたのかは分からないが「そういう」状態になっていた。

ユイ達はそんな「そういう状態になった」物が米粒程のサイズになるまで馬車からなんとなく見つめていたことを思い出す。

ルーエもおおよそ同じ見解らしくテーブルに肘を当てて頭を抱えた。

飲み物や食事が次々と運ばれてくる。


「考え様によっちゃあ楽出来たんだし、いいんじゃね」


アイシャはカラカラと笑いながらエールの入った木製のジョッキを豪快に傾ける。


「…ドミナトまでの道程でそれぞれの戦い方を確認して今後の戦術・戦略を練って夕食をここで取る予定だったのですが…。」


残念ながら太陽はユイ達の真上で燦々と輝いている。

エリスは苦笑しながら大皿のサラダを小皿に分けみんなの前に並べている。


「宿の予約取って荷物を置いたら外で訓練にしましょう。」


エリスの素早いフォローにユイはウンウンと頷いた。我関せずと言わんばかりに酒のおかわりを注文するアイシャを横目で睨んでからルーエはそうですね、と返事をすると嘆息した。


「予定通り今晩はドミナトで宿を取り、明日出発としましょう。宜しいですか、ユイちゃん?」


「うん、そうしよう。ルーエにばかり負担かけさせちゃってごめんね。本当にありがとう。ルーエが一緒に冒険に出てくれたおかげで凄く助かってるよ。」


「いや、そんなことないですよ、ユイちゃん。性分なので気にしないでください。」


ユイの言葉にルーエはとても嬉しそうに頬を赤らめパンを千切って口に放り込んだ。


ユイは ルーエのきげんのとりかた をおぼえた!


「確かに皆さんがどんな戦闘スタイルなのか気になりますね。ユイもアイシャも剣を使うくらいしか分かっていないですし、ルーエが魔法のスペシャリストなのは知っていますが。」


ルーエはさらに機嫌がよくなった!


「私も思った!というかエリスの戦い方が気になるね。」


私ですか、とパスタをフォークに器用に巻き付けて止めるとユイに視線を向けて微笑む。


「食後に一度手合わせしてみましょう、ユイ。」


「うん!」


アイシャが八杯目のジョッキを空にしておかわりを頼もうとしたところで昼食を終えた三人に制止され、四人は【銀狐のかまど】を後にしてルーエが出発前にリサーチしていた宿へと向かった。


【ホテル 安らぎの止まり木】はドミナトで最も有名な宿だ。

女性オーナーとその娘で切り盛りしており、朝食に出てくる採れたて卵のフレンチトーストはとれたての卵と地元名産の甜菜をふんだんに使用している。その濃厚さと程よい甘味、ふわふわの食感には定評があり、「アースティア食べ歩き旅行記」というアースティアのグルメを紹介する月刊誌では何度も紹介されている、とルーエはあまり表情を変えずにユイに伝えた。

ちなみに【銀狐のかまど】の情報もその雑誌から情報を収集しており、夜のスペシャルメニュー「鴨のコンフィスペシャル」と「季節野菜とアカムラサキダコのアヒージョ」が絶品らしい。

自分は食べたことは無いが、ユイにこの世界の美味しい食べ物を食べてほしいがためにルーエは本当に様々な書籍を読み耽ったようだ。

宿を取り荷物を置き、武器屋で木剣を調達すると四人は町の外へと向かった。

ドミナトの町へ続く街道から少し道をそれた野原。


「よーし、このアイシャ様がまとめてボコボコにしてやろぉー」


アイシャは上機嫌で木剣を振り回していた。


「パラライト」


背後からルーエが小さく詠唱すると、アイシャは大口を開けたまま動けなくなり、その場に前のめりに倒れ込んだ。


「このように私は魔法を状況に応じて使い分けます。火、水、風、土、氷、雷、麻痺、毒、強化、弱体化、幻惑などなど属性を問わず使用が可能です。またランクの低い魔法であれば無詠唱での発現も可能です。光属性はユイの足元にも及ばないのですが、少々使うことは出来ます。」


麻痺の影響かアーアーと間の抜けた声を上げるアイシャの尻に杖を押し付けながらルーエは淡々と伝えた。

アイシャに若干の同情を覚えたが酔った状態では危険なのではと判断し、ユイは「アイシャは酔いが覚めたら手合わせしようね」と言い、エリスの方を向く。


「では、始めましょう、ユイ。」


ヒラヒラとローブをたなびかせて両手を前に伸ばした。


「サモン・ソードレベル1。」


エリスの言葉と同時に左手に剣が顕現した。

ローブもそうだが、召喚した剣もまるで本物のようだ。


「【己の魔力を以て空気中の魔素を練り直し、武具とする】。これがウェポンサマナーの基本です。」


「凄いね、エリス!カッコいい!」


「ありがとうございます。では、始めましょうか。」


エリスは右下段に剣を構えると表情から笑顔が消えていった。その様子を見てユイも木剣を握り絞め正眼に構えた。

ローブで見え隠れする手元は、相手にどんな初手を撃つのか隠す効果もあるかもしれない。

ユイはエリスのユラユラと揺れるローブの先端を目で追いながらそんなことを考える。

その様子を見てからルーエが咳払いを一つ。


「このアーアー言ってるアイシャの麻痺が解けるのが3分後。先に1本を取るか、アイシャがアーアー言わなくなった時点で手合わせ終了です。では、始め。」


己の剣術がこの世界でどれほど通用するのか。

ユイには不安もあったが、楽しみでもあった。

剣道の試合で負ける度に悔し泣き、更に鍛練を重ねていき、気付けば大会では常勝を誇っていたユイだ。

心臓が強く脈動して、喉の奥が乾いていくような感覚を覚えユイは木剣を握り直した。

2人の距離はおよそ2メートル。

エリスが腰を落とし低く構えるとすぐさま距離を詰め、ユイ目掛けて切り払うがユイはスッと重心はそのままに後ろに下がる。

ユイはエリスの初撃はどんな攻撃であろうと避けることを第一に考えていた。それほど手元が見えないという状態はユイに警戒心を植え付けていた。

エリスの剣が空を斬る。

ユイは無防備になったエリスの腹部目掛けて正眼に構えた剣先を押し上げて突き放つ。

エリスの腹部に木剣が突き立てられる前にエリスは右手に短剣を召喚しその突きを払うと後ろに素早く下がりユイとの距離を取った。


「冷や汗ものです。」


「こっちもだよ、確実に一本取れたとか油断してたから、あの後反撃されてたら私の方こそ危なかった。」


「では、今度はウェポンサマナーとしての戦闘をお見せ致します。」


【勇者護衛及び対魔王討伐メンバー募集武闘大会】では、決勝戦までほぼ先程の切り払いかフェイントを挟んだ突きで勝ち抜いてきた。

相手がユイだからといって手を抜いた一撃でもなかった。単純にユイの戦闘能力が高いのだ。

エリスは自らの闘争本能に火が付いていくのを感じた。


「サモン・スピアレベル1。」


両手にあった剣と短剣が夢か幻であったかのようにスッと消えると代わりに槍が現れた。

その槍を中段に構えると、エリスは再びユイ目掛けて距離を詰めた。

辺りは一陣の風を受けて草がザサァと音を立てた。向かい合う2人。

アイシャの気の抜けた声さえ響いてなければとても美しい光景だな、と思いながらルーエはアイシャの背中に腰掛けた。


相手が剣でないだけでここまで戦い難いのか。

ユイは避け捌くだけで手一杯だった。

突きを捌き剣先が届く距離まで詰めようとするとエリスは示し合わせたかのように身を引きながら突きを放ち更に距離を取る。

ユイが通う道場の師範の言葉を思い出していた。


「剣道三倍段とか言うけどな、槍だの矢だのが飛んできたら正直お手上げだよなぁ。ゲームじゃあねぇんだし。」


道場を地元の小学生に剣道教室として開放しているが、剣道は最強なのかとかそんな問いを師範にしていたときのものだ。

剣を投げちゃえば良いとか、矢を叩き落とせば良いとか、槍をへし折ったら良いとか子供達が色々な案を出していた。そんな話を聞いて笑っていたものだが、今この状況において何故かそんな下らない会話のやり取りが脳裏から離れない。

あの時師範は子供達に最後になんて言ったんだったっけ?

この緊張した状況のなかで焦りながらもユイは答えを模索していた。


「ユイは長得物との戦闘は慣れていないようですね。」


ユイはエリスの突きを間一髪で避け、後ろに大きく飛び退いてから苦笑混じりに頷いた。

エリスは容赦はしませんよ、と小さく放つと間合いを一気に詰めて再び突きを繰り出した。


放たれる突きの連撃。

ユイの頬の近く槍が空を切り裂いた瞬間、ユイは思い出した。

師範は顎を手で擦りながらニカッと笑い答えを言っていた。

どうしようもないほど簡単で、それでいて簡単には出来ないこと。

ユイは襲い来る一撃を紙一重で避け、師範があの時笑いながら子供達に伝えた言葉を同じように笑いながら呟いた。


「死ぬ覚悟がありゃあなんとかならぁ、だね。」


姿勢を低く構え力強く前に踏み込むと同時にエリスの脇腹目掛けて木剣をなぎ払う。


「そこまで!」


ルーエの声が強く響いた。

エリスの脇腹に寸止めされたユイの木剣。

ユイのうなじに当てられたエリスの槍だったはずの大鎌。

ユイが飛び込んでくることを想定していたエリスは咄嗟に槍を大鎌に変えていた。


「…これがウェポンサマナーの戦い方です。」


ユイはその場で尻餅を付いてそのまま草場に仰向けに大の字に寝転んで叫ぶ。


「負けたーーーーっ!」


しばらくして起き上がるとエリスに向けて手を伸ばす。

玉の汗を額に滲ませてニッコリと微笑むユイ。


「エリス強いね!またお手合わせお願いします!」


「こちらこそ。先の決勝戦とは比べ物にならないほどユイは強いです。私も精進しなくてはなりませんね。」


差し伸べられた手を握るエリス。

お互いニコリと微笑んだ。


「ユイがセイクリッドハイ使ってたら勝敗は変わってたかもなぁ。」


今まで無様な声を挙げていたアイシャが背中にルーエを乗せたまま言う。

ルーエはアイシャを一瞥すると立ち上がり、続いてアイシャも立ち上がると膝や胸に付いた草を払いニカッと笑い白い歯を見せた。


「ユイとエリスの実力は分かった。んじゃ次はオレの番だなー。」


屈伸をしてから落ちている木剣を拾い上げると剣先をユイとエリスに向けた。


「どっちがオレとやる?」


ユイが直ぐ様木剣を構えて元気に声を挙げた。


「ユイはセイクリッドハイを使っていいぞ。」


「え?」


「正直オレとやりあうならそのくらいしないと歯が立たねぇと思うよ?」


「そこまで言うー?」


「オレはホントのことしか言わねぇよ?」


挑発的に笑って見せたアイシャにユイは木剣を握り直すと正眼に構えた。

読んでいただいてありがとうごさいます!

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