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怪異さまナー☆TSU・CHI・NO・KO ~口裂け女さんですか?昨日も一緒にお茶しましたよ?~  作者: 御度宇雲(おどぅ~ん)
パートせゔん 突発!カオスな大決戦

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そのヨンジュウハチ 当代

「今日は先代が朝から妙にそわそわしておりまして。めずらしく部屋を散らかしたまま出て行きました。

 ……これはそろそろ、あなたが悪さをしにここに来られる頃合いかと、ね。そう思って僕も、こうして支度をしてお待ちしておりましたよ」

 俊介の挨拶がジェントルだったのは、しかしそこまで。

「だがまったく……馬鹿なことを!思い上がりもいいところだ。()()()()にここで何が出来ると思っている?

 いいだろう、せいぜいやってみるがいい」

 一転。ああおそらく、こんな峻厳傲岸な態度の俊介を、彼の家族はおろか氏子衆もその他近隣知人も、誰も見たことがないだろう。いや彼自身がこんな自分の姿をこれまで、思い描いたこともなかった。謎の女・八掴今日子が社に現れたあの日までは。

 ……だが事ここに及んでは、この僕も断固たるべし!

 彼は自身のその変心に、動揺も躊躇もしていない。深謀遠慮の人俊介にとってはすべては予定通り。ただ来るべき時が来ただけ。

「さあ、どうした?」

 かかってこい、と。そう言わんがばかりの俊介。

「何を!!」

 八ッ神恐子の両眼がまたかっと燃え上がり、その勢いは手にした鬼火の玉に乗り移る。

「私……ごとき……だと!貴様、貴様こそ!貴様のような出来損ないの無能力者ごときに……

 御大神八岐大蛇様に選ばれし、この八ッ神恐子がァァァァァァァァ!!」


 銀のグロゲロたちと四人がズモズモと地面から湧き出したのは、仁美のテレパスナビどおり、土屋家の正面玄関前ジャスト。

「……プハァ!た、助かった、生きてる生きてるよ!」

 さつきがまず大きく一声。続いて。

「んも~さっちゃんさぁ~、大げさ!だから大丈夫って言ったでしょーが!

 ……うん、場所もバッチリ!お利口だねみんな、ありがと!」

「「「「ワーイ、ママ〜♪」」」」

「ウレシイ、ルルルルル〜♪」

 実ににぎやかだ。そしてその騒ぎと妙な歓声を聞きつけたのか、玄関の戸をさっと開けて出て来たのは口裂け女だった。

「何事だい!……うわぁ?!」

 そしてビックリ仰天。あの危険な怪物どもが何故ここにぃ?!

 だが、そこにすかさず早苗がタックル。

「口裂けさんいいの!()()()()()()()()から!」

「み、みか?……ぐふっ!」

 早苗は「た」まで言わせない。口裂け女の胸元にかじりつき、ガッと締めあげ、ガツガツ揺すり!

「とにかくまず落ち着いて!口裂けさん他のみんなは?奥様やニコはどうしてます?お師匠は?先生は?!」

 そして質問のマシンガン。

「まま、待て待て待て!早苗早苗、お前が落ち着け!」

 いや早苗は落ち着いている。怪異の仲間たちがグロゲロに驚くのは予測済み、騒がれては時間が無駄になるし、くどくど説明するヒマもない(し、あんな事情で仲間にできたなど、そもそも口で説明できるはずもない)。有無を言わさず畳み掛けて黙らせるのが最善。

 早苗は地面から自分の顔が湧き出して土屋家の玄関先が見えた瞬間からすでに、マタドールのマントに飛び込む闘牛のように身構えていたのだった。

 出て来た人は誰でも構わない、速攻ガン詰めよ!

 そして早苗の思ったとおり、驚くどころではなくなった口裂け女は目を白黒させながらもスンと静まって。

「……蛍様は今、奥でお休みだ。なぁ早苗、お前も感じるだろ?この辺りに溢れてるおっそろしい霊力……お前の爺さんの術の力が、公園からここまで漏れて届いてるんだ」

 締める手をそっと離し、こくりと頷く早苗。

「そーなの?」仁美が脇でキョトン顔でつぶやくと、さつきがそれを引き受ける。

「ああ、あたしもバリバリ感じてるよ。おかげで頭はキリキリ、喉はヒリヒリ、胸はゼイゼイ、胃はムカムカ、背骨はミシミシ、膝はガクガク!……これが人間の使ってる術なんだって?そりゃとんでもない術者だ」

 ふぅんと、一目。珠雄が連れて来たというその猫又に、チラリと目をやる口裂け女。

 もちろん大いに気になる、とはいえ。

(まぁいい、こいつのことも今は後回しだ)

 とここは流す。でないとまた早苗に絞められるし。

「蛍様は特に繊細でいらっしゃるから。この力にすっかり当てられて、お体を動かせなくなっちまったのさ。ぶっちゃけこのアタシもね、こうして話をしてるだけでもキツイ」

 なるほど、口裂け女の額には脂汗が浮き、話す声にはカチカチと奥歯の音が混ざる。体が震えているのだ。

「あの二口娘がここに来てくれなかったら……」

「ニコは平気なんですか?」

 相変わらずけろりとしてそう問う仁美。

「ああ。アタシらがここに着いた時には、もうあの子が奥の座敷で蛍様を介抱してくれてた。今もみんなを診ててくれてて……くねくねなんぞは着いた途端に目ぇ回しちまったたし、珠雄もみんなを運んで寝かしつけるところまでは頑張ってくれたが、そこでダウンだ。他もどっこい。

 でもあの娘はね……そ言っちゃ可哀想だが妖怪としちゃレベルが低い。先祖に人間の血が大分入ってるんだね。ただ、だからよかったんだ。爺さんのこの術はどうも、強い霊力妖力の持ち主ほど作用がキツイみたいでね。

 妖力も霊感もうんと弱いあの娘だからこそ、ここに一人で来られたんだよ」

 そして、ここで起きている重大事件を、土蜘蛛の危機を皆に知らせてくれた。口裂け女はふっと賛嘆のため息を漏らして。

「まったくあの子はね、今回は大金星さ」

「当然!……だってニコは、よく気がつくデキるコだもん!」

 ニコに対しても仁美はすでに、姉のような心持ち。彼女の活躍を褒められたことが我が事のようにうれしいのだろう。仁美はいよいよ張り切って、

「ヨシ、せっかくのニコの気持ちが無駄にならないうちに!行こうよみんな、公園に!」

 だが口裂け女の顔は渋い。半分は苦痛のため、半分はどうやら不甲斐なさ。

「いや仁美、悪い、それがな……何しろアタシら、ここにいるだけでこんなだろ?……」

 丘の上公園までは、ほんの三十メートルといったところ。だが巌十郎の術はその単なる余波ですでに、怪異たちの接近を完全に妨げているのだと言う。

「情けないがね、丘の上にゃとても上がれないんだ。いや一度試したっていうか……トンカラトンの馬鹿がね?こっちで目を覚まして、止めたんだけどでもムキになって丘の上に一人で突っ込んでって……今十メートルくらい先でぶっ倒れてる。倒れたのが見えたんだけど、それを助けにも行けやしないんだ。

 早苗、お前にも済まない。あんなに頑張ってあたしらをここに送ってくれたのに、こんなに頭数がいるのに何の役にも……」

 そう言って口裂け女がシュンと落とした肩に、さつきがポフと猫の手を乗せる。馴れ馴れしくも慰め顔で。

「ニャハ、うんうんわかるわかる。こりゃダメだよ、まともにやったら。無理して行ってもこの術にかかって途中で全滅だ。

 ……でもな?小人数でいいならな?手はあるぞ♪

 まぁ二、三人までならどうにかなるかな?ニャハハ♪」

 何だかイタズラっぽい調子のさつき。余程の妙案なのだろうか?聞いてたちまち早苗が食いつく。

「いい方法が?あるんですね?……なら急いで、行ける人だけで行きましょう!私と槌の輔様は問題ありません、大丈夫です!」

「うむ。巌十郎殿の術は鴻神流、すなわち蛇神様の御力をお借りしておるもの。蛇神様の眷属たる某と、同じ流の術者である巫女殿には悪影響を及ぼさ……」

 したり顔の槌の輔に「ぬ」まで言わせず、口裂け女もさつきの両肩を掴んで割り込み、

「ホントかい?!どこの猫だか知らないがアンタ、恩に着るよ!だったらアタシも行く、アタシが昴ヶ丘の怪異代表だ、メリーも助けないと!」

「うんうんわかった♪んで、もちろんあたしも行く♪あたしはね、早く土蜘蛛様にお会いしたいんだよ。そんでもって、仁美!

 ……この方法はな?お前がカギ。よろしく頼むぞ♪」

「へ?いやモチ行くけど?あたし全然平気だし。

 でもさっちゃん?あたしが何かしなきゃいけないの?どうしたらいいの?」

「ニャハ♪簡単さ、これからこの三人で電車ゴッコ!」

「「はぁ?」」

 そう言われても?指さし指名された仁美と口裂け女はポカン。その反応にさつきはいよいよ面白げ。

「仁美、お前が先頭の運転手さん。んでもってあんた、この町の口裂け女だね?よろしくな♪ホラ仁美の後ろについてついて、あんたが真ん中だ。ロープ無いから、肩に手を乗っけるスタイルで……そうそう♪そんであたしが後ろの車掌。うん思った通り、いいね!

 ……よし仁美、発車オーライ♪」

「ちょっとさっちゃん?何コレ何コレ?こんなので、何かがどうにかなるの?」

 さっぱりわからない。電車ゴッコの先頭のまま、グキッと首だけ振り返ってツッコむ仁美。口裂けさんもそうだよねわかんないよね、と言いかけたが言えなかった。口裂け女が何かに驚き、目を丸くしていたから。

「いや……仁美、こりゃいける、こいつはいいぞ!お前の後ろに並んだら、急に苦しくなくなった!

 ……猫さん、こりゃ一体どういうこったい?」

 グキッと首だけ、が二人になった。

「ニャハ。仁美はな?ただの人間じゃない。『魂喰らい』ってやつなのさ。それを恭子が今風に言ったのが『マイナス霊能力者』。霊能力がゼロじゃなくて、マイナス。体に常に霊気が足りなくて、だから周りにある霊気霊力を吸い取っちまう。そういう能力ってか、体質って言った方がいいかな。

 今この辺は、爺さんの術がこう、『毒ガスになって広がってる』みたいなモン。でも仁美は、今も知らず知らずに、自分の周りの術の霊気をバリバリ食ってる。だからその側にへばり着いてれば……」

「そこだけ『毒ガス』が無い、息がつける!そういうことかい?こりゃ驚いた!」

「今調べ調べ試してみたけど、安全地帯はやっぱりこの電車ゴッコ二人分でちょうどくらい。あたしの後ろはそろそろヤバい、背筋ゾワゾワだ。仁美の前にも横にも安地はあるはずだけど、前に進むんだし。こうして仁美を盾にして、あたしらは後ろにつくのがベスト。

 仁美、口裂けちゃん、オーケーかい?」

「……ああオーケーだ!ゴキゲンだよ、いい電車旅行トリップになりそうだね!」

 即答の口裂け女。さつきに対する警戒感も今は消え、見えてきた光明に笑みを浮かべる。

 一方、

「ややややや、ちょっとさっちゃん、情報量!なんかショーゲキの事実ガンガンなんだけどぉ?!負霊能力者?あたしが?タマグライ?なんかそれ語感イメージグロくない?」

 普段は豪胆な仁美も、流石にこの説明には慌て出す。

 この十七年の人生で、自分が普通の人間であることを疑ったことなど、彼女は一度もない。そして同じく年来の親友である早苗が実は不思議な力の持ち主と最近知って、彼女はそれを密かに羨ましがっていた。自分にもあったら、と。

 その願望は、妙な形で叶ったらしい……だがどうも、良い力とはとても思えない、悪い予感しかしないのだが……

 その曇っていく顔色を、じっと見ていた早苗。何かを思い切ったように仁美の眼前に近づいて。

「仁美……私ね?おじいちゃんからあなたについて、聞いてたことがあるの。うんと子供の頃に……多分今、猫又さんが言ってたことに関係あることを……

 黙っててごめん。だけど、その時のおじいちゃんの言い方がすごくぼんやりしてて、私にも今まで意味がよくわからなくて、だからあなたにもなんて言ったらいいのかわからなくて。今まで黙ってたんだ……

 ようやくわかった気がする。後でちゃんと詳しく話してあげる、話そう!

 ……だけどお願い、今は」

 早苗の切なげな顔を見て、仁美はぺしゃんと両掌で自分の額を挟んで叩く。自らに、喝。

「……そうだった!まただ、あたしってば、すぐ気が散ってダメ!うん、今はそれどころじゃないんだよね。

 よっしゃ、まずはこんなバカ始めた巌じいをブチ懲らしめて!そのことも後でキッチリ聞き出そう!」

 そう早苗に答えるなり、仁美は前方を、公園に向かう登り坂を一度きっと見つめ、それから、

「……みんな!ママはお仕事に行ってきます。みんなは一旦超空間に帰って待ってて♪あとでうんと遊ぼう!」

「「「「ハーイ、ママ~♪」」」」

 すんなりズモズモ消えていくグロゲロたち。実に素直、仁美は満足そうに頷く。続いて、まず前後左右足元を指差確認、そこからシュッと前方に指す指を伸ばして。

「点検ヨシ!それでは!臨時特急仁美号、只今出発致しま〜す!口裂けさんさっちゃん、あたしと息を合わせてね!

 さぁいくよ、右足からぁ、セーノ!イッチ、ニ、イッチ、ニィ!!」

 そして始まったのは電車ゴッコじゃなかった、どう見てもそれはムカデ競争というものだ。ゆっくりと坂を登り始め、そして。

「さぁ二人ともぉ、いい?急ぎだから、だんだんペース上げるよ!ついて来てね!イッチニイッチニ!!

 ……ホラ声出して合わせる、声よ、声!」

「い……イッチニ!」

「ニャハァ♪イッチニイッチニィ!」

 仁美のペースに巻き込まれて慌てる口裂け女と、なんだかすっかり行楽気分のさつき。

 かくて特急は丘の上を目指して発車した。先を行くその車列を少し見送り、早苗が言う。

「槌の輔様、私達も参りましょう。それと作戦があるんです。槌の輔様に一つ、お願いしたいことが……まず私に憑いて下さい。お話はそれから」

 ふむ、と槌の輔は一も二もなく即座に早苗の中に飛び込む。どのみち二人とも行くのだし、この距離なら時間切れは考えなくていい。そして合身していればお互い思考が通じ合う、打ち合わせには絶好だ。

【して巫女殿、策とは如何に?】

【かくかくしかじか、でお願いします!】

【なんと?むむう、これは難しい……まあしかし()()()()()()ならば……()()()()()()()()()()()()()であるし……承知した、どうにかやってみようぞ】

【ありがとうございます!では!】

 小説という形式の都合上、作者は数行に分けて会話体で書いているが、実は二人の【意見交換】はほんの一瞬で完了している。そして青白い霊気の輝きに包まれて、槌の早苗はたちまち仁美特急に追いつき並走して行く。

 さて早苗が槌の輔に託した作戦とは、これ如何に?


「……止められるものかァァァァァァァァァァ!!」

 空気を切り裂く、怪鳥のような絶叫とともに。

 八ッ神恐子は手に青々と灯っていた鬼火の玉を本殿に、いや俊介その人に投げつけた。

 だが俊介は微動だにしない。ただ一度、手にした御幣ではらりと扇ぐ。そう、ただそれだけで。

 鬼火は、俊介の数十センチ手前で音もなく消滅した。

「……!」

 女妖術師は声を呑む。驚愕はもちろんさりながら、そもそも声が出ない、出せない。いやそれどころか、全身固まり小指の先すら動かせない!

 ああ、いつの間にか。境内全てを包み込むのは、今丘の上で巌十郎が用いているのとそっくりな霊気霊力。八ッ神恐子の体は瞬時に、そして最早完全に、霊的に拘束されてしまったのだ。

「種明かしするよ。『地形効果』さ」

 疑念の表情を浮かべながら固まったままの敵に、俊介はひもとく。

「君の言う通り、僕には霊的な何の能力も無い。()()()()()ね。ただしそれでも僕は、鴻神神社当代神主。先代の父さんから正式に認められて、この地位を受け継いだ者。

 だからその僕は、この御社の境内にいる限り!この場に湛えられた蛇神様の御力をお借りし使いこなすことが出来る。父さんと同じ力を……いいや。

 僕は当代。神主の座を辞した父さん(先代)を超える力を、この境内でなら、蛇神様からお借り出来る……!」

 今目の前にいるのは、霊的無能力者にあらず。それどころか、巌十郎の能力をも超える敵だった!動かない女の顔色は、ただ青ざめていく。

「君は僕に会った時、()()()()()()()()()()()()()()。それが君の、()()だよ」

 俊介は今は穏やかに、しかしきっぱりと宣告する。そして凍りついたような八ッ神恐子体に悠々と近づいて、耳元に流しこむように、さらに語る。

「鴻神神社神主代々の霊能力は、初代神主、すなわち寂蓮尊者から受け継がれたものだ。

 寂蓮様は、蛇神様が桜姫様を助けるため最後の命の珠をお吐きになられた時、その間近におられた。そして燃える命の白珠のその炎で身を炙られて、お身体に蛇神様の神力が染み備わった。その時すでに御高齢だったはずの寂蓮様が後に、この昴ヶ丘で子孫を授かることが出来たのもそのためだ。そしてその神力もまた、子孫に代々受け継がれたんだ。

 ただ。長い年月の中で、蛇神様からお分けいただいたその力は薄まって……ある時から、鴻神家の子孫にも力無き者が生まれるようになった。いずれは力ある者がまったく生まれなくなる時が来る、そんな将来も見えて来た。

 しかしそれでも、邪教の信徒が蛇神様の御力を狙うなら。護らなければ、護り続けなければならない!

 だから鴻神家の御先祖様たちは考えた。鴻神流の秘術を力を失った子孫でも使えるように、新たな体系の術をもう一つ考案し練り直した。

 僕のような者のための、もう一つの鴻神流。それを僕は父さん、いや師匠鴻神巌十郎から教えていただいたんだよ。早苗が今修行している退魔術とは違う、鴻神流の()()()()をね。

 さて、そしてだ。鴻神流に二つの術体系が確立すると。霊力のある退魔師神職と、霊力の無い防備専門の神職は、役割分担をするようになった。すなわち。

 鴻神流退魔術の使い手は、一般の人々にはその存在を秘密にしているが……蛇の道は蛇。蛇神様の力を狙う邪教徒には嗅ぎつけられる、かえって目立つ。そうだろう君?君だって、父さんばかり目の敵にしていたじゃないか?

 ならば。鴻神流退魔師は敢えて()()()()()()()。敵を倒せればそれでよし、もし不覚をとりあるいは隙を突かれても、その時は……影に隠れたもう一人が、()()()()()()()()()

 わかるね?父さんは初めからわざと、君の矢面に立ってくれていたのさ。存在を晒して、囮役を自ら引き受けてくれていたんだ。なに、別に特別な打ち合わせなんか無かったよ。それが鴻神一族の慣わしだから。父さんも僕も、御先祖様が考えてくれた当たり前の備え(ルーチン)を続けていただけ。

 だが君はそれに、まんまと引っ掛かった」

 耳を塞ぐことは出来ない。目を閉じることも出来ない。俊介の言葉に否応なく攻め立てられて、八ッ神恐子はその魂だけがただ、慄き震える。

「最後に。君と初めて会ったあの時、僕は君に一言言いたい事があったんだ。言わせてもらおう。

 僕は霊的には無能力者。君に言われるまでもないよ、それは単なる事実だ。だから、()()とは言わないさ。でも。

 ……鴻神一族を、鴻神流を、舐めるな」

 そっと言い放って。俊介は御幣をサラサラと左右に振る、それがとどめ。八ッ神恐子の体は地に倒れた。

 先代巌十郎には、最初から敵わなかった。

 次代早苗には、思いもよらぬ足踏みをさせられた。

 そして最後に、当代俊介によって打ち倒された。

 稀代の女妖術師・八ッ神恐子。その野望は、現鴻神一家三代の力によって、ここに潰えたのであった。


五月蝿うるさいのがやっと全部いなくなった。スッキリだ」

 ……なぁお前、覚悟出来てる?」

 プチと共に、静かにノッコの前に降り立つヤスデ。重い怨念を湛えたその問いに、ノッコの答えは。

「出来てるよヤスデちゃん。覚悟した。わたしは、あなたとお友達になる。お友達になろうよ」

「な……何ぉぉぉぉぉ?!」

「あなたが勝ったら、わたしをどうとでも。でもわたしが勝ったら、あなたはわたしのお友達になるの。

 ……覚悟、出来てるかな?」

 その顔は、溢れんばかりの笑顔。ヤスデは激怒する。

「ふざけるな!プチ、デコ合身!

 ……からの!『スーパーコーデ・ノヴァ』!!」

 ヤスデが身に纏った宇宙人ロボットの鎧が、さらに変化する。ヤスデの両腕の装甲の他に、三対の腕。鈍い銀白色から、黒々と輝く鋼鉄色に。プチのパワーリミッターを全解除し妖力を無制限に載せた、それはヤスデの最強にして禁断の姿。

 対するに。

「ヤスデちゃん、約束だよ。お友達に……なろう!!」

 ノッコの全身から、桃色の霊力の炎が噴き出す。身につけていた服は、今や全て燃え上がり燃え落ちて。

 現れたノッコの姿は、白い鱗の陶器に見紛う面に、輝く霊気の流れを湛え、全身白銀。

 神小姫、これぞ完全覚醒のかたち


 そして二人は同時に、互いに向かって地を蹴った。

(続)

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