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王の選出1

マルミナ大陸で一番の大都市スフスフ。

穏やかな年老いた王が没し、新たな王が選出される祭りに街は大いに賑わっていた。

それも先王の統治が豊かで正しくあったためだろう。

活気にあふれあちこちで笑い声が聞こえてくる。


石畳をロク鳥の手綱を引きながらシェラは好ましげに行き交う人々を眺めていた。

ロク鳥は飛ぶことを忘れた為に巨大化し馬という生き物が居ないこの世界の

騎乗動物として重宝されている鳥である。

彼女の引く手綱の背にはマントを深々と纏い顔を白い仮面で隠した人物が座っていた。


「なにやら賑やかしい都ですね、老師」

返事を期待していたわけでは無い。

老師と呼ばれた白の魔導師ミダルは世間話を期待する相手ではないからだ。

白銀に金の縁取りも鮮やかな甲冑を来たシェラとすっぽりマントで覆われ

あまつさえ仮面で顔を隠している人物を胡散臭いと思う事もなく。


「蜜菓子をどうぞ、騎士様」

祝いの振る舞い菓子を配る人当たりのよさそうな婦人がシェラに勧めてきた。

蜜菓子はちょっとした贅沢品である、それを振る舞うという事は、、、。

「すまんな、何か祝い事か?」

素直に受け取り婦人にそう尋ねる。

「ええ、新しいお館様が決まるんです

 あれ、その為に要らしたんじゃないんですか?」


「あ、いや、我々は、、、」

一目で白の騎士と分かるシェラの甲冑に朗らかに笑いながら婦人は続けた。

「でもね、今回は白の騎士様を煩わせるような事はひとつもありゃしませんよ

 なんたって、七徳の光羽こうよくを持つお方が現れたんですもの」

光羽という言葉にシェラは反応した。

「新しいお館様選びは中々甲乙がつけられなくって大変だと聞いてましたけど

 光羽を持つお方が出てきちゃ誰もぐぅの音もでませんよねぇ

 前のお館様が長生きしてくださったんで私の代では初めてのお館様選びなんです

 が穏やかにすみそうでほんとよかったですよ」

幻羽人の寿命は短い。四、五十年で寿命を全うする。

自分の生の中で血なまぐさい荒事が起こらないという事はとてもありがたい事

なのだ。その事もあっての賑わいなのだろう。


「、、、老師、「あの方」でしょうか?」

今まで答えなかったミダルがくぐもった声で答える。

『光羽、、確かに「あの方」である印の一つではある』

貰った蜜菓子を口に運びながらシェラはゆっくり頭を振る。

「では、城に行ってみますか」

彼女と老師ミダルは「あの方」を探しているのだ。

それは当てのない旅であった。

なんの手がかりもない中「光羽」と聞いては見過ごすわけにはいかない。

古の大戦のなか行方不明となった光神・幻羽げんようその人を。


「あ、、、ところで老師。「お館様を選ぶ」とは? 何の事でしょうか?」

白の剣士といってもシェラはまだ若く世俗には疎かった。

『、、、言葉 そのままじゃよ』

彼女の師でもあるミダルは弟子の質問にはぞんざいに扱うことなく答えてくれる。

「では、真に背の羽の優劣で城の主、一国の王を選出するのですか?」

あっけにとられた声でさらに問う。

『、、、馬鹿げておる、そう思うかね?シェラよ』

「ええ!能力の優劣を競うというのならまだしも、世襲制でも頷けますが、、、

 碌に飛べもせぬお飾りの様な羽ごときをありがたがるとは、、、」

勿論彼女にも羽はあるし、ある程度飛ぶことも出来る。だが脆いその羽では長期間

飛ぶことは出来ない。

要するに実用性に欠けるただ美しい飾りの様なものなのだ。


「だいたい幻羽人にしても普段から羽を伸ばしている者は殆どいない

 そう丈夫な物ではない為、破損を恐れての事でしょうが、、、

 見えもせぬ羽の美しさをどうこう言ってみても、、、」

古の一族である彼女には幻羽人が感じる羽の畏怖は解らない。

「それに美しいというのは人それぞれ好みというものもあるでしょう

 それを、、、」

そういう彼女の容姿は美しい。

すらりと伸びた手足、女らしい体系は白銀の甲冑で覆われているがそれでも

プロポーションの良さは隠しえない。

金の流れる髪は左右に少し垂らし、後ろでポニーテールにしている。

光に透けると薄っすらと若草色にも見え、その長い睫に覆われた瞳も

新緑の若葉の色だ。

ただ耳だけが少し尖っている。


『そうじゃな、幻羽人では無いそなたがそう思うのも無理はないかもしれん

 しかし、それこそが逆に申せば幻羽人の羽の意味

 幻羽人の一生は生まれ落ちた時の羽で決まると言っても過言ではない

 羽の優劣によって 支配階級、市民階級、奴隷階級とな

 そしてその羽はひどく脆く危うい

 幻羽人は皆魔法にかかっている様なものだ

 その美しく儚い羽を愛でる者によって永遠に解けぬ絶対の魔法に、な 』

「魔法、、、?ですか」

『白の剣士のそなたにはそう言えば理解しやすかろう?』

「はぁ、、確かに釈然とはしませんが、魔法なら、、、」

ふむ、と考え込むようなしぐさを見せ続ける。

「でも、そうなら親子はどうなるのです?

 例えば美しい羽の親から劣悪な羽の子が生まれることはないのですか?」

『羽はほぼ遺伝するものだが、まぁ、稀にその様な事もあるだろうな

 恐らく親はそれを恥と思い内々に処分するのだろうよ』

ミダルの答えに蜜菓子を苦々しく噛み砕きシェラが唸る。

「はっ!愚かしいこと極まりませんな!

 我々古の一族には中々子が授からぬというのに全く!

 では逆の場合は玉の輿という訳ですか?今回の奴のように」

弟子の言葉にミダルが逆に問う。

『何?』

咀嚼していた蜜菓子を飲み込み憮然とした表情のままシェラは続けた。

「これをくれた女性は「七徳の光羽を持つ方が現れた」と申しました

 幻羽人の羽の優劣が生まれた折に決定されるというなら

 「現れる」というのは妙です

 恐らくその者はこの都の者ではありますまい、そして親が支配者なら

 その後を継ぐはず、つまり親に似ず美しい羽に生まれたのでしょう」

蜜の甘味の残った指先をなめ、続ける。

「親を捨てて違う都に来たのか、まったく! 親も親なら子も子ですな!!」

憤懣収まらぬという体である。

確かに古の一族は繁殖能力が低い。だが、短く限りある幻羽人の生に比べると

古の一族の寿命は限りなく長い。そう、永遠かと思うほどに。

繁殖能力の低さは寿命との正比例であると言っていい。


『ふふふ、、、』

くぐもった笑い声にシュラは不思議そうに師を見た。

「どうかされましたか?」

『いや、流石、森の賢者ヌークの娘よ、、と思ってな

 そうか、無より現れ出でた者、、、ということか

 ならば、 「あの方」かもしれん』

ミダルは視線を彼方に臨む城に向けた。

今から訪れるスフスフの新しい城主が居ると思われる処へ。

 



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