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蠕動 黒の一族の復活 2

姉からにして頼りないと称された妹は物欲しそうな顔をして蜜菓子の屋台の前に

いた。

甘い蜜の香りが辺りに漂い食欲を誘う。

あろうことか指をを咥え涎さえ垂らしている。

美少女が台無しであった。

「お嬢ちゃん、欲しいのかい?」

見かねた店主が声をかける。

ぶんぶんとミューズは首を縦に振る。

「だったら1個5リーフだよ」

店主も商売である、タダで渡せる訳がない。

「それが、、お小遣い貰うの忘れて来ちゃった」

ぐすんと涙目で指を咥えている。

「それじゃあ駄目だねぇ」

店主も残念そうに言う。


「泥棒っーー!!」

人ごみから叫び声が聞こえる。

ミューズははっと振り返り、チャンスとばかり指を鳴らす。

「やりぃっ♪奢って貰えるかも!」

人垣をかき分け叫び声が起こった辺りへ駆け寄る。

「どいて!どいて!」

事件が起こっていたであろう現場に駆けつける。

そこには巾着袋を持った少年の後ろ姿と

被害者で在ろう老女と幼い少年の姿があった。

すかさず腰の剣を引き抜きミューズが名乗りを上げる。

「ちょっと!

 白昼堂々往来で盗人とはいい度胸ね!

 お天道様が許してもこの白の剣士ミューズが

 許さないんだからっ!」

結構な口上を言いながら少年に切りかかる。

が、ひょいっと頭に手を置かれ、その手を支点にひらりと上に躱される。

「え?」

そのまま上から少年の体重がかかり

リューズはどべしゃっ!と派手な音をたて顔から地面に崩れ落ちた。

「誰が盗人だって?」

明るい声がかかる。

「馬鹿ぁ!

 お兄ちゃんは泥棒を捕まえてくれたんだいっ!」

そして被害者の少年の罵声が聞こえる。

 「うそっ?」

その声を聴き、状況を把握する。

どうやらミューズは泥棒を捕まえた少年に切りかかったようだ。

バツの悪さと地面に思いっきりぶつけた顔面がひりひりと痛み。

「うっ、、、痛ぁい~っ!!

 顔面打ったぁあああ!!」

わんわんと大泣きし始める。

「なっ、おいっ?」

納得がいかないのは切りかかられた少年の方であった。

これではどちらが被害者か分からない。


「言っとくが先に切りかかったのお前だぞ?!

 普通切り殺されても文句言えなくないか?!」

そんな声など聞こえないとばかりにミューズはさらに大きな声で泣く。

事情はどうであれ女の子が座り込んでわんわん大泣きしている訳である。

見物人も集まってくる。

被害者の少年の方がなんとなく加害者のように観られ出す。

「ちっ、悪かったな

 大丈夫か?」

不承不承ながら謝罪を口にする。

それを聞いたミューズは鼻水を啜りながら。

「みづがしだべだら なおるがも、、」

「はぁ?!」

蜜菓子を食べたら治るだ?なんじゃそりゃ??

そう思いながらも仕方なしに少年が買い与える。


「甘~いwおいし~ぃ

 とろけそう~♪」

蜜菓子を買ってもらいミューズは上機嫌である。

「そりゃよかったな」

呆れ顔で少年はその場を去ろうとした。

「あ、待ってよ!」

ミューズが呼び止める。

「ね、あなた剣士なんでしょう?

 それもなかなかやるわね。

 あたし、ミューズ

 あんたは?

 あたしをああも手玉に取るなんて

 さぞかし名のある剣士なんでしょう?」

呼び止められ半身を捻った格好で聞いていたが。

「ばーか、あんたが弱すぎるんだよ」

少年は身もふたもなく言い切った。

「よ、弱いですって?

 私はこれでもねー

 白の剣士でちっとは」

「違うね、あんたは白の剣士じゃない」

弱いと言われ反論するリューズにぴしゃりと言う。

「俺はまだ白の剣士に会ったことは無いけど

 俺が聞いてたのとまるで違うからな

 あんたが本当に白の剣士なら

 俺は今こうして無事に此処に立ってないと思うぜ?」

真実を言い当てられミューズは拳を握りしめる。


「そ、、、そうよ

 あたしは白の剣士じゃないわ

 まだ見習いよ、、、」

ふるふると握りしめた拳が震えている。

「どうせ、、、才能ないんだもん、、、

 シェラ様なんてあたしの歳にはとっくに白の剣士の称号貰ってて、、、」

また、ぽろぽろと泣き始める。

「あたしなんかさっぱりで、、、

 ひょっとしたらこのままず~っと見習いのままかもしれない

 なんて、、、そんなひどい事

 わざわざ言わなくったっていいじゃん、、、」

えぐえぐとしゃくりあげるミューズにぎょっと驚く少年。

「こらこらこら!

 誰がいつそこまで言ったーーっ?!」

濡れ衣もいいところである。

しゃくり上げ泣き続けるミューズがすっと野外店のトロピカルジュースを指差す。

「あでのんだらなおるがもじれない、、、」

少年は開いた口が塞がらなかった。


ココナッツに似た果物の上部を切り、中の果汁に他の果物を混ぜ

そのままストローを刺した飲み物である。

「あんた、剣の才能はどうか知らないけど

 たかりの才能はあるよ」

まんまと少年にジュースを奢らせることに成功する。

「そうかな?

 あんたが甘すぎるんじゃない?

 白の里でもほとんど引っかからないわよ?

 こんな手」

ちぇっとそっぽを向く少年。

ミューズは向かい合わせにテーブルに座りジュースを飲みながら

少年を観察した。

黒い髪を肩くらいで切り揃え、簡易甲冑を着ている。

年の頃は15,6くらいだろうか大きな金色の眼をした

可愛い顔立ちの少年だった。

時々除く八重歯が印象的だ。

「口悪いけど、いい奴ねあんた」

にっこりミューズが笑う。

と、バツが悪そうにそっぽを向きながら少年が名乗る。

「グラン、だ」


-あ、赤くなってる。

 グランかぁ、うんうん、いいかもしんない

 腕はたちそうだし顔も可愛いし♪

白の一族と言っても夢見る少女の年頃なのだ。

ミューズは頭の中で恋バナを組み立てていた。


「あのさ、白の一族って

 絶対剣士か魔術士にならなきゃいけないものなのか?」

不意にグランが質問する。

「え?そんな事はないけど、、、

 どうして?」

妄想を中断させミューズが不思議そうに答える。

「いや、あんた確かに剣の才能あんまりなさそうだし

 ならなくてもいいならその方がいいんじゃないかって、、、」

グランの言葉が終わる間もなくうるうるとミューズの瞳が潤みだす。

「うわっ!待った!!

 ごめんっ!悪かった!!」

慌ててグランが謝罪する。

「なーんちゃって」

にぱっと嘘泣きを止めるミューズ。

「おまっ、、、」

呆れるグランを尻目にミューズが組んだ手に顎を乗せ、悪びれもせず

話を続ける。

「そうなのよね~

 いい加減見切りつけた方がいいんじゃないかと思っちゃう

 あたしよりリューズの方が才能あるかもなーんて思ったり

 する事あるしぃ、、、」

「リューズ?」

「あたしの片割れ♪」

組んだ手をほどきそのまま頬に当て美味しそうにジュースを飲む。


「白の一族」という言葉に反応した客がいた。

全身黒いマントと長衣で身を覆った影の様な人物だ。

楽しげに会話をしているミューズの後ろの席にその男はそっと移動し

耳を澄ませて会話を盗み聞きしている。


「ねぇ、グランって緑の森の民の血が入ってるの?」

「は?」

「だってその耳」

ミューズが指差すグランの耳は確かに少し尖っている。

「これは、、、」

その時だったいきなりむせ返るほど濃厚な体液の臭いがグランを襲う。

グランの鼓動が早鐘を打つかのように早くなる。

瞳孔が開き犬歯が伸びる。

慌てて口元を抑え、急いで席を立ちグランはその場から逃げた。

大量の血の臭いから。

「え?ちょっと

 グラン?」

いきなりの様子にミューズも釣られて立ち上がる。

「どうしたの急に、、」

わけが分からず走り去るグランの背を眼で追う。

その時、背後の黒い男がすっとミューズのジュースに手を伸ばし

白い粉を入れる。

暫くグランが走り去った方角を見つめていたミューズだったが

諦めて座り直しジュースを飲みなおす。

何か入れられたことには全く気が付いていなかった。

「何か気に障る事言っちゃったのかなぁ、、、?

 混血なのを気にしてる、とか?

 変なの~

 やっぱ幻羽人ってよく解んないなぁ、、、」

?マークを飛ばしながらジュースを飲むミューズを

黒い男はほくそ笑んで見ていた。

そして、ミューズは眠り込んでしまう。


店から走り去り人気のない路地にグランは駆け込み蹲る。

顔を抑え精神を集中させ衝動に耐える。

-なっちゃだめだ、なっちゃだめだ!

呪文のように繰り替えす。

-蜘蛛なんかになっちゃだめだっ!!

 血なんか欲しくない!

 治まれ! 治まれっ!!

喉が渇き甘ったるい体液を牙が欲しがる。

血が欲しい、新鮮な血、、瑞々しい肉に喰らい尽きたい。

湧き上がる欲望を意志の力でねじ伏せようとする。

-トウランス、トウランス、トウランス、、、

何時しか呪文はトウランスの名前に代わっていた。

そう、グランはシェラのような森の緑の民の血が混じっているわけでは無い

彼は蜘蛛との混血だった。


果たして、蜘蛛と幻羽人との間に愛情が芽生え子を成し得るのか?

答えは否である。

だが、稀に腹に余る幻羽人を捕えた蜘蛛が戯れに獲物を犯す事がある。

運よく、いや運悪くなのかもしれないがその後討伐隊に助け出され

蜘蛛の子を宿してしまう事がある。

グランの母もその一人だった。

彼は忌み嫌われ虐待されていた所をトウランスに助け出されたのである。


暫くの必至の葛藤ののち漸く血への渇望を乗り切る事に成功する。

伸びた犬歯が小さくなり顔に表れつつあった隈取が消え去り

安堵の表情になる。

「よかった、、これでまたトウランスといれるや、、、」

後ろの壁に体重を預け空を仰ぐ。

危なかった、多少の血の臭いも気合を入れていれば耐えることが出来る様には

なっている。

だが、いきなりああもむせ返るほどの血の臭いに襲われれば我を失いそうになる。

「まだまだ修行が足りないな、、、俺」

我が身の情けなさに自然とため息がでる。

蜘蛛になる気は無い、いや、なりたくは無かった。

グランは自分を救い、育ててくれたトウランスに恩義を感じている以上に

肉親の様な愛情をいだいている。

彼と共に歩めない世界になど行きたくなかったのだ。

「しかし、普通街中であんな血の臭いがするなんて思わないじゃんか、、、

 なんだったあれ?」

胸騒ぎがしたグランはミューズの元に戻る事にする。


戻った時ミューズの姿はもうなかった。

血への葛藤にかなり時間を要していたから、戻らないグランに見切りをつけた

のかもと思ったが、ミューズが無一文なのを思い出す。

「そういやあいつ金も持ってなかったっけ、、」

テーブルの上を片付けている女性に聞いてみる。

「おばちゃん、ここにいた

 まさか無銭飲食で捕まったりしてないよね?」

「ああ、あの寝ちゃった娘だね

 いいえ、ちゃんとお連れさんが払ってくださいましたよ」

笑顔で女性が答える。

「連れ?」

ミューズの連れは自分の筈だったが?

「ほら、後ろに座って黒いマントをめした」

黒いマント?!そう聞いてグランは気が付いた。

その男のいた辺りから血の匂いがしたんだと。

あのむせ返るような濃い臭い、、、間違いなく大量の血だ。

一見ただの黒いマントのようだったが

あのマントにべっとりとそれが付いていた事になる。

-それってなんかやばかないか??

「おばちゃん、その二人どっちへ行ったか覚えてる?」

グランの問いに。

「え~っと、御嬢さんを担いで、、、

 ああ、すいませんその後はよく覚えてないんですよ

 何しろ戴冠式を控えてお客様が多くて、、、」

謝る女性。

グランの嫌な予感はますます強くなった。












 




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