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旅立ち

漸く1章の終了です。

トリストに射すくめられううっとうめき声を漏らしながら。

「うっ、、、くそっ

 勝手にしろっ!」

覚えてろよっ今に吠え面かかせてやるからなーーっ!と

見事な捨て台詞を吐きギーレは走り去って行った。

「はいよ、好きにするよん」

と、かかかと笑うトリストだったが。

「あ、、、やべっこんなこと知れたらどやされちまう」

と、舌をぺろりと出した。

彼の脳裏には「幻羽人相手に恐喝だと?!」と怒るシェラがまざまざと浮かんでいた。

曰く白の剣士はすべからず見本とあるべし、だ。



ギーレによって痛めつけられたトウランスの傷をもう一度治療し

トリストは包帯をしっかり結びつける。

こういった治療は治癒魔法が使えない事もある遠征時に必要不可欠なため

手慣れたものである。

「悪いな、シェラだと治癒魔法も使えるんだが

 俺は魔法はからきしなもんでな」

痛みを麻痺させる軟膏を傷口に塗ってやったとはいえあの出血だ。

「痛むか?」

トリストの問いにいまだ血の気の失せた顔色のトウランスがおずおずと答える。

「あ、、、少し、、、でも随分ましに、、、」

「そうか、じゃ、横になって休んでろ」

寝台に促す。

「しかし、ひでぇ事する奴だよな

 あんなのが王になるとは、、、世も末だな

 もう一人の方がなんぼかましだったんじゃないか?」

てきぱきと医療品を片付けながらトリストが言う。

「ウェンリィは、、、

 蜘蛛の巣で死んでいた

 たぶん俺より前に、、、」

寝台に横たわりぽつぽつとトウランスが語りだす。

「蜘蛛は犠牲者に化け次の獲物を誘うという

 俺の見たウェンリィは幻影だったんだろう、、、

 俺が、、、愚かだったんだ、、、

 まんまと、、、」

涙が再び込み上がり、嗚咽が漏れそうになる。

「すまない、、、暫く一人にさせてもらえないか、、、」

これ以上醜態を見られるのは嫌だった。

トリストもそれを察する。

「わかった、扉の外にいるから

 何かあれば遠慮なく呼べよ」

そう言って部屋を後にする。

「すまない、、、

 助けてくれて、、、

 ありがとう、、、」

目頭を押さえつつ辛うじてトリストが出ていく前に礼を言う。


一人になると涙を抑えることは出来なかった。

ただ、嗚咽は噛み殺す。

引き千切られた自分の羽、もう自分は選ばれた者ではない。

それどころかもう幻羽人ですらない。

幻羽人として生きる価値さえ無いのだ。

何も自分には残っていなかった。

悲しかった、ただただ悲しく辛かった。


「大声で泣きゃいいのに」

扉の外でトリストは声を殺して泣いているであろうトウランスを

思いやっていた。

彼に羽を失うという本当の意味は解らない。

古の一族は羽を愛でられたものではないから

羽の魔法にかかってはいないのだから

だが、十分理解は出来た。

幻羽人の羽への執着は嫌というほど見てきたから。


それでも、前を向いて生きようとするトウランスの姿は好ましくあった。

「しかし、あそこであいつが魔力の片鱗を見せてなきゃ

 助けなかった、なんて口が裂けても言えないな、、、」

苦虫を噛み潰したような表情を見せるのは罪悪感からである。

そう、トリストはトウランスが魔法を使っていなければ助けることは無かった。

唯の幻羽人を助ける義理は無いからだ。

だが、魔法を使うとなると話は変わる。

それは白の一族の領分だ。

幻羽人に魔力は無い、魔法が使えるという事は魔力を有するという事。

それは、先天的であれ後天的であれ少なからず古の一族との係りを意味する。

トウランスに魔力があるとミダルが言った時からそれは解っていた。

解っていたが、存在するのと使用できるというのは違う。

実際使えることを確認しなければ介入することは無かったのだ。


「偶然とはいえミダル様の言った通りになるとはなぁ、、、

 予知と仰ってたが、流石白の魔導師、すべてお見通しかぁ」

前夜祭の時にはまさかこんな事になるとは思ってもいなかった。

いくらミダルが言った事とはいえトリストは予知という物が存在するとは

思っていなかった。

彼は現実的な男である。自分の眼で見、感じた事しか信じない。

トウランスはあのままこの都の王になりそのまま幻羽人としての

人生を謳歌すると思っていた。

が、どうだ、蜘蛛に羽を捥がれ幻羽人としての彼の存在は地に落ちた。

至高の存在から底辺まで叩き落されたのだ。

幻羽人としての人生は閉ざされたと言っていい、逃げ場はもうない。

魔道に生きるか亜幻羽人として奴隷になるか、、、しかもあの王の伽奴隷に。

選択肢が他に無いとなれば魔道を選ぶしか彼の生きる道は無い。

そして逃げ道が無いとなれば自然と魔道の修行に励むだろう。

あの桁外れの魔力だ

いずれ大した魔術士になるに違いなかった。


と、そこまで考えてはたっと気が付く。

あのままあそこで助けず放っておけばあの王を屠ってくれたんじゃないのか?と。

と、すると何か、俺は遠回しにあの糞野郎を助けたって事か?

うっわ~っ、しくったーーーっと後悔しまくる。


いや、いやいや、待て、そう考えるのは早計すぎる。

俺は荒事になれた剣士だからなにも気にはならないけど

あいつは唯の善良な幻羽人だったんだ。

蜘蛛の方はどうせ覚えていないだろうから大丈夫だろうけど

その手で王を殺めたとしたらその恐怖は如何ばかりな物か。

線の細そうな男だし、あれで良かったんだと思いなおす。

あの変態糞野郎が野放しというのは気にくわないが

まぁ仕方ない。

幻羽人の生活にあんまり干渉しないというのが白の一族の暗黙のルールだ。

うん、あれで上出来だ。

扉の前でうんうんと自問自答し結論を出すトリストだった。




それから、トウランスの傷が癒えるまでトリストはトウランスの部屋で

共に生活していた。

本来ならとうに白の里に帰還すべきところだが

ギーレがなんだかんだとまだトウランスを諦めていなかった為である。

執拗にちょっかいをかけてくるのをひと睨みで追い返す。

当然、トリストとトウランスと話す機会は増え

友情の様なものが芽生え始めた頃。

漸くトウランスの傷も落ち着き、まだ完治はしていないものの

どうにか旅に耐えられるだけの状態になった。

長居は無用と早々に旅立つ事にする。


「お~、旅立つには絶好の日よりだぜ」

青天であった。どこまでも続く青空にトリストが大きく伸びをする。

甲冑を袋に仕舞い肩にかけ背負うとい剣士の基本の旅姿である。

大きな彼の剣もその背にあった。

くるっと後ろにいたトウランスに振り返り。

「じゃ、また縁があったらな」

軽く手をかざし別れの挨拶をする。

「えっ?

 トリストも一緒に白の里まで行ってくれるんじゃ?」

てっきり一緒に行くものだと思っていたトウランスが戸惑った声を出す。


「あのさーっ、何で俺が野郎と2人で旅せにゃならん訳?

 そんなの、嬉しくも楽しくもねーじゃん!」

はぁ?と何言ってんのこいつという風な表情をしトリストが続ける。

「大体俺に案内されてどーすんだよ?

 あっさり行っちゃってどーすんだよ?

 苦労して探し出してこそありがたいってもんだろ?

 それが試練ってもんじゃん?」

人差し指をトウランスに突きつけこんこんと諭す。

「そ、そうか

 試練なのか、、、

 解った。」

心細そうな表情は変わらないが微かに笑んで。

「何とか探して見る」

と、トウランスは頷いた。

「おう、頑張れ」

ニヤリと笑い親指を立てるトリスト。

「うん」

にっこりと笑うトウランスからは以前の自信に満ちた尊大な表情が消え去り

年相応の素直さが浮かぶ。

あどけないともとれるいい笑顔だった。


それじゃあと先にトウランスが旅立つ

その足取りは軽かった。


城郭の物見の塔にギーレは兵隊を引き連れ潜んでいた。

この日を待っていたのだ。

「よし、離れたぞ

 いいか白の剣士だけを狙え

 トウランスは、怪我ぐらいはさせてもいいが殺すなよ?

 あいつにはまだたっぷりと用があるからな」

兵士達ははボウガンを手にトリストを狙う。

正面の物見の塔にそれぞれ20数名の兵士を配置している。

総勢50余名。

「あの糞生意気な白の剣士め

 ハリネズミにしてやるぞ」

大した執着である。

ギーレの合図で一斉にボウガンの矢がトリストに降り注ぐ。


と、トリストが背の剣を抜き貫き大きく薙ぎ払う。

薙ぎ払っただけなのだが起きた風圧は砂煙をあげ

全ての全てのボウガンが叩き落とす。

勢い余った力は大地に深々と亀裂を走らせた。


その様に門の衛兵は慄き尻餅をつき

ギーレや兵士は心底震え上がった。


「俺の相手になりたいならひと軍隊持ってきな」

ふんっと一笑し、踵を返すと前を歩く小さくなったトウランスの背を眼で追う。

「さてと、それじゃまぁこっそり後から付いてってやるか

 ああは言ったがあいつ一人じゃ危なっかしいからな」

手間のかかる弟を見るような目でトリストが呟やき

そっとトウランスの後を追った。






闇の力と光の力

両極を成す力をその身に宿す者


やがて彼は

白の魔術と黒の魔術を操る

ただ一人の魔術士となる


その背に在った

たぐいまれな光羽の輝きと引き換えに

彼が得たものは

幻羽世界でも類を見ない

稀有な魔力であった


そして時は流れ

時は流れ移り行く


緩やかに

緩やかに

唯、確実に


時は流れ、、、

百年の時が過ぎた





 











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