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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
51/130

幕間 合コン

バンコク。王宮警察本部。


 大佐の執務室。


 柏木が呼び出されていた。


 「合コンをやれ」


 「......は?」


---


 柏木は聞き間違いかと思った。


 「合コンだ。知っているだろう」


 「知っています。ですが、なぜ」


 「お前たちは、この地に根を張る必要がある」


 「根を張る」


 「そうだ。タイ国籍を取った。だが、それだけでは足りない。現地の人間と繋がりを持つべきだ」


 「繋がり」


 「伴侶だ」


 「伴侶......」


 柏木は頭が追いつかなかった。


---


 大佐は立ち上がった。


 「政治的にも正しい。外国人部隊が、タイ人の女性と結婚する。これは、部隊がタイに根を下ろした証拠になる」


 「政治的に......」


 「信用にも繋がる。家族がいる人間は、逃げない。裏切らない」


 「それは......そうかもしれませんが」


 「それに、お前たちは働きすぎだ。息抜きが必要だろう」


 「息抜き......」


 「合コンは良い息抜きになる」


 「......」


---


 柏木は混乱していた。


 ミニガンを買う時と同じ目の輝きで、大佐は合コンを語っている。


 「相手は用意する」


 「用意する?」


 「王宮警察の女性職員だ。独身者が三十人ほどいる。その中から、希望者を募る」


 「希望者......」


 「場所も用意する。バンコクの高級レストランだ。経費で落とせる」


 「経費で」


 「そうだ。部隊の福利厚生だ」


 「福利厚生......」


---


 柏木は深呼吸した。


 「大佐。一つ聞いてもいいですか」


 「何だ」


 「なぜ、そこまで」


 大佐は少し黙った。


 「......お前たちは、いい部隊だ」


 「はい」


 「だが、戦うだけでは人は幸せになれない。俺は、お前たちに幸せになってほしい」


 「......」


 「それに、独身の男が十一人もいると、色々と問題が起きる。早めに片付けた方がいい」


 「問題?」


 「女を巡る争いだ。軍隊ではよくある」


 「......」


 柏木は何も言えなかった。


---


 チェンマイに戻った。


 全員を集めた。


 「大佐から命令が来た」


 「何ですか」


 「合コンをやれ、だそうだ」


 沈黙。


 「......合コン?」


 ニコライが聞いた。


 「そうだ」


 「相手は」


 「王宮警察の女性職員」


 「......」


---


 男たちの反応は様々だった。


 ジョンソンは嬉しそうだった。


 「俺の出番だな」


 「お前は既に自信満々だな」


 「当然だ」


 マルティネスも乗り気だった。


 「ラテンの魅力を見せてやる」


 「お前、離婚したんじゃ」


 「だから次を探す」


 川島は困惑していた。


 「僕は......その......」


 ファリダーの方をちらりと見た。


 プラウィットも同様だった。


 ラッタナーの方を見ないようにしていた。


 ニコライは肩をすくめた。


 「悪くない。だが、俺はロシア人の女がいい」


 「贅沢を言うな」


 ヨナタンは無表情だった。


 「興味がない」


 「参加は強制だ」


 「......」


---


 問題は、女性陣の反応だった。


 サラの目が冷たくなった。


 「合コン?」


 「そうだ」


 「王宮警察の女性職員と?」


 「そうだ」


 「......なるほど」


 サラは何も言わなかった。だが、空気が凍った。


---


 ファリダーは明らかに動揺していた。


 「あの、川島さんも参加するんですか」


 「全員参加だ。大佐の命令だから」


 「そうですか......」


 「どうした」


 「いえ、何でもありません」


 何でもなくない顔をしていた。


---


 ナターシャは眉をひそめた。


 「アレクセイも?」


 「全員だ」


 「......そうですか」


 ナターシャは何かを考えている顔だった。


---


 ラッタナーは俯いていた。


 「プラウィットさんも......」


 「全員だ」


 「......」


---


 マリーは無表情だった。


 だが、スコープを磨く手が少しだけ速くなっていた。


---


 その夜。


 女子宿舎の共有スペース。


 緊急会議が開かれた。


 「阻止するわよ」


 サラが言った。


 「阻止?」


 「合コンを」


 「できるんですか」


 「やる」


---


 ナターシャが言った。


 「私も賛成。アレクセイを他の女に取られたくない」


 「取られるって、まだ付き合ってないでしょう」


 「だからこそよ。これから攻めるのに、邪魔が入るのは困る」


 ファリダーが頷いた。


 「私も......川島さんとは、まだ何もないけど......」


 「何もないからこそ、阻止する必要があるの」


 サラが言った。


 ラッタナーも頷いた。


 「プラウィットさんと、もう少し仲良くなりたかったのに......」


---


 マリーは黙っていた。


 「マリーは?」


 「私は関係ない」


 「本当に?」


 「本当だ」


 「柏木が他の女と仲良くなっても?」


 「......」


 マリーは答えなかった。


 「参加する」


 「阻止に?」


 「そうだ」


 「理由は」


 「......面白そうだから」


 「面白そう」


 「そうだ。作戦を立てて、実行する。訓練みたいなものだ」


 「......まあ、いいわ。戦力は多い方がいい」


---


 作戦会議が始まった。


 「まず、合コン自体を中止に追い込む方法を考える」


 サラがホワイトボードに書き始めた。


 「方法一。大佐を説得する」


 「無理でしょう」


 ファリダーが言った。


 「大佐は、ミニガンを買う時と同じ目をしていたって、柏木さんが言っていました」


 「......確かに。あの人は、一度決めたら曲げない」


 「却下ですね」


 「却下」


---


 「方法二。相手の女性職員に辞退させる」


 「どうやって」


 「脅す」


 「脅す?」


 「『柏木班の男と付き合うと、毎日銃撃戦に巻き込まれる』と言えば、引くかもしれない」


 「......それは嘘じゃないですね」


 「嘘じゃない。事実だ」


 「でも、それでも来る女はいるかもしれません」


 「......危険な男が好きな女」


 「いますね」


 「いる」


 「却下......とは言えないか。一応、候補に残す」


---


 「方法三。男たちを説得する」


 ナターシャが言った。


 「説得?」


 「『合コンに行かなくていい』と言えば、行かない男もいるでしょう」


 「誰が」


 「川島。プラウィット。アレクセイ。イーゴリ。ダニエル」


 「乗り気じゃない組か」


 「そう。この五人を説得すれば、参加者が減る」


 「参加者が減れば、合コンの意味がなくなる」


 「そういうこと」


 「......いけるかもしれない」


---


 「方法四。当日、緊急事態を起こす」


 マリーが言った。


 「緊急事態?」


 「作戦が入ったことにする」


 「嘘の作戦?」


 「そうだ」


 「バレたら、まずいでしょう」


 「バレなければいい」


 「......リスクが高い。最終手段にしましょう」


---


 「方法五。合コンに参加して、内部から破壊する」


 サラが言った。


 「内部から破壊?」


 「私たちも参加する。そして、男たちを独占する」


 「独占......」


 「相手の女性職員には、話しかけさせない。私たちが、ずっと横にいる」


 「それは......効果的かもしれません」


 「でしょう」


 「でも、私たちが狙っている男以外は」


 「他のメンバーは犠牲にする」


 「冷酷ですね」


 「戦争よ」


---


 作戦が決まった。


 フェーズ一。乗り気じゃない男を説得し、参加者を減らす。


 フェーズ二。相手の女性職員に、部隊の危険性を伝える。


 フェーズ三。合コンに参加し、狙っている男を独占する。


 最終手段。緊急事態を偽装して、合コンを中止させる。


 「作戦開始」


 サラが言った。


---


 翌日。


 フェーズ一。


 ファリダーが川島に話しかけた。


 「川島さん、合コン、行くんですか」


 「あ、まあ、大佐の命令ですから」


 「そうですか......」


 「ファリダーさんは、嫌ですか」


 「嫌......というか......」


 「というか?」


 「......私と、コーヒー行く約束、まだですよね」


 川島の顔が赤くなった。


 「あ、はい。まだです」


 「合コンの前に、行きませんか」


 「え」


 「行きましょう」


 「......はい」


---


 ラッタナーがプラウィットに話しかけた。


 「プラウィットさん、今日の経理、手伝ってもらえますか」


 「今日ですか。いいですよ」


 「ありがとうございます。あと、合コンの日も、ちょっと......」


 「何ですか」


 「経理の締め日なんです。一緒に残業してもらえませんか」


 「合コンの日に残業......」


 「駄目ですか」


 ラッタナーの目が潤んでいた。


 「......分かりました」


 「本当ですか」


 「はい」


---


 ナターシャが医務室に行った。


 「アレクセイさん」


 「何だ」


 「合コン、行くんですか」


 「行かないと、まずいだろう。大佐の命令だ」


 「でも、医務室を空けていいんですか」


 「......どういう意味だ」


 「合コンの日に、怪我人が出たら困りますよね」


 「出るのか」


 「出るかもしれません。作戦がなくても、訓練で怪我する人はいます」


 「......」


 アレクセイは考えた。


 「確かに、医務室を空けるのは問題だな」


 「でしょう?」


 「だが、大佐の命令だ」


 「大佐に相談してみてはどうですか。『医務室を空けられない』と」


 「......それは、言い訳に聞こえないか」


 「聞こえません。事実ですから」


 「......考えておく」


 「お願いします」


---


 フェーズ二。


 サラがバンコクに行った。


 王宮警察の女性職員に、直接話をするため。


 「あなたたちが参加する合コン、相手は柏木班よ」


 「存じています」


 「彼らは、二日に一回、銃撃戦をしている」


 「......」


 「毎回、被弾している。車もヘリも穴だらけ」


 「......」


 「付き合ったら、毎日が命懸けよ。覚悟はある?」


 女性職員の顔が青くなった。


 「......少し、考えさせてください」


 「どうぞ」


---


 三日後。


 参加希望者が三十人から十二人に減った。


 「効果あったわね」


 サラが言った。


 「でも、まだ十二人います」


 「十二人でも、十一人の男に対しては多い」


 「むしろ、ちょうどいい人数になってしまったのでは」


 「......」


---


 フェーズ三の準備。


 女性陣は、合コンに着ていく服を選んでいた。


 「勝負服よ」


 サラが言った。


 「勝負服......」


 ファリダーは恥ずかしそうだった。


 「私、こういうの苦手なんですけど」


 「苦手でも、やるの。川島を取られたくないでしょう」


 「......はい」


---


 合コン前日。


 柏木がサラに話しかけた。


 「お前たちも参加するのか」


 「ええ」


 「なぜだ」


 「息抜きよ。大佐が言ったでしょう」


 「......」


 柏木は何かを感じていた。


 だが、何なのか分からなかった。


 「まあ、いい。楽しんでこい」


 「あなたも楽しみなさい」


 「俺はいい」


 「なぜ」


 「モテないから」


 「......」


 サラは何か言おうとして、やめた。


---


 合コン当日。


 バンコク。高級レストラン。


 男たち十一人と、女性職員十二人が集まった。


 だが、柏木班の女性陣五人も参加していた。


 合計、男十一人、女十七人。


 「なぜ、こんなに女が多いんだ」


 ジョンソンが呟いた。


 「知らない」


 柏木が答えた。


---


 合コンが始まった。


 女性職員たちは、最初は積極的だった。


 だが、柏木班の女性陣が、狙った男の横に張り付いていた。


 ファリダーは川島の隣から動かなかった。


 ラッタナーはプラウィットの隣から動かなかった。


 ナターシャはアレクセイの隣から動かなかった。


 サラは柏木の隣にいた。


 マリーは......柏木の反対側にいた。


 「挟まれているな」


 ニコライが言った。


 「何がだ」


 「お前がだ」


 柏木は左右を見た。サラとマリーがいた。


 「......なぜだ」


 「知らない。俺に聞くな」


---


 女性職員たちは、困惑していた。


 話しかけようとしても、柏木班の女性陣が割り込んでくる。


 「あの、柏木さんは」


 「柏木は忙しいの。私が相手するわ」


 サラが遮った。


 「川島さんは」


 「川島さんは、私と話があるんです」


 ファリダーが遮った。


 「アレクセイさんは」


 「医療の相談があるの」


 ナターシャが遮った。


---


 結果。


 女性職員たちは、ニコライ、ジョンソン、マルティネス、ヨナタン、エイブラハム、イーゴリ、ダニエル、カルロスと話すしかなかった。


 「俺たちは余り物か」


 ニコライが言った。


 「そうみたいだな」


 ジョンソンが答えた。


 「まあいい。俺はモテるから」


 「お前はいつも自信満々だな」


 「当然だ」


---


 合コンは、予想外の展開になった。


 柏木班の女性陣は、狙った男を独占することに成功した。


 女性職員たちは、残りの男たちと話した。


 だが、意外にも盛り上がっていた。


 ニコライは、ウクライナの話をしていた。女性職員の一人が、真剣に聞いていた。


 ジョンソンは、紳士的に振る舞っていた。女性職員の一人が、笑顔で話していた。


 マルティネスは、ラテン系の魅力を発揮していた。女性職員の一人が、頬を赤らめていた。


 「......意外と、うまくいっているな」


 柏木が呟いた。


 「そうね」


 サラが答えた。


 「お前の作戦は、失敗だったんじゃないか」


 「作戦?」


 「俺を独占しようとしていただろう」


 サラは少し驚いた。


 「気づいていたの」


 「気づいていた」


 「なぜ何も言わなかったの」


 「言う必要がなかったから」


 「......」


 「それに、悪い気はしなかった」


 サラは柏木を見た。


 柏木は、何でもない顔をしていた。


 「......鈍感なのか、鋭いのか、分からないわね」


 「何が」


 「何でもない」


---


 合コンは、深夜まで続いた。


 結果。


 カップル成立。三組。


 ニコライと女性職員。


 ジョンソンと女性職員。


 マルティネスと女性職員。


 そして、非公式に。


 川島とファリダー。


 プラウィットとラッタナー。


 アレクセイとナターシャ。


 「大佐の狙い通りになったな」


 柏木が言った。


 「そうね」


 サラが答えた。


 「お前は、どうなんだ」


 「私?」


 「相手は見つかったか」


 サラは少し笑った。


 「見つかったわよ。ずっと前から」


 「誰だ」


 「秘密」


 「......」


 柏木は首を傾げた。


 サラは、それ以上何も言わなかった。


---


 翌日。


 大佐から連絡が来た。


 「成功したようだな」


 「はい」


 「カップルが成立したと聞いた」


 「三組。いや、六組かもしれません」


 「六組?」


 「班内でも、いくつか」


 「そうか。良いことだ」


 「はい」


 「次は、結婚式だな」


 「......早すぎます」


 「早くない。勢いが大事だ」


 「......」


 大佐は、また目を輝かせていた。


 柏木は、嫌な予感がした。


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