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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第2章 捜査班
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幕間 疲弊

チェンマイ。柏木班の拠点。


 車庫。


 エイブラハムが車の下に潜り込んでいた。


 「また穴が開いている......」


 Hiluxの底面に、弾痕があった。三つ。


 昨日の作戦で撃たれた。


 「これで今週四回目だ」


---


 隣のHiluxも穴だらけだった。


 ドアに二発。フェンダーに一発。リアウィンドウは割れている。


 「防弾ガラスじゃなかったのか」


 「拳銃弾は止まる。ライフル弾は止まらない」


 ダニエルが言った。


 「つまり、ライフルで撃たれたら終わりか」


 「そうだ」


 「......」


---


 ダニエルはヘリの整備をしていた。


 UH-1のローターブレードを点検している。


 「こっちも穴が開いている」


 「どこだ」


 「テールブーム。AKの弾だな」


 「飛べるのか」


 「飛べる。だが、放置すると危ない」


 「直せるのか」


 「直す。他に選択肢がない」


---


 イーゴリがコーヒーを持ってきた。


 三人分。


 「休憩だ」


 「休憩している暇がない」


 「それでも休め。死ぬぞ」


 エイブラハムが車の下から這い出てきた。


 油まみれだった。


 コーヒーを受け取った。


 「ありがとう」


 「どういたしまして」


---


 三人は車庫の隅に座った。


 疲れ切った顔をしていた。


 「今月、何回出動した」


 エイブラハムが聞いた。


 「数えていない」


 ダニエルが答えた。


 「俺は数えた。十四回」


 「十四回?」


 「そうだ。二日に一回以上のペースだ」


 「休みは」


 「ない」


 「......」


---


 イーゴリが言った。


 「俺は十二回飛んだ」


 「二回少ないな」


 「車両だけの作戦が二回あった」


 「ああ、そうか」


 「それでも十二回だ。ウクライナの前線より多い」


 「前線より多いのか」


 「多い。前線では、三日に一回くらいだった」


 「ここは二日に一回」


 「そうだ」


 「狂っているな」


 「狂っている」


---


 ダニエルがコーヒーを飲んだ。


 「整備も追いつかない」


 「分かる」


 「ヘリは毎回被弾する。毎回だ。一回も無傷で帰ってきたことがない」


 「車も同じだ」


 「穴を塞いでも、次の作戦でまた穴が開く」


 「永遠に終わらない」


 「永遠にだ」


---


 エイブラハムが天井を見上げた。


 「イラクの方がマシだった」


 「イラク?」


 「そうだ。俺はイラクでトラックを運転していた。物資輸送だ」


 「撃たれなかったのか」


 「撃たれた。だが、週に一回くらいだった」


 「週に一回」


 「そうだ。ここは二日に一回だ」


 「三倍以上か」


 「三倍以上だ」


 「......」


---


 イーゴリが目を閉じた。


 「眠い」


 「寝るな」


 「寝ない。だが、眠い」


 「いつ寝た」


 「昨日の夜。三時間」


 「三時間?」


 「作戦が終わったのが午前二時だった。それから報告書を書いて、機体の点検をして、寝たのが午前四時だ」


 「起きたのは」


 「七時だ」


 「三時間じゃないか」


 「だから三時間と言った」


 「俺も同じだ」


 エイブラハムが言った。


 「俺は二時間だ」


 ダニエルが言った。


 「二時間?」


 「ヘリの修理が終わらなかった。徹夜だ」


 「......」


---


 沈黙が落ちた。


 三人とも、目の下に深い隈があった。


 「このままじゃ、本当に死ぬな」


 エイブラハムが呟いた。


 「作戦中にじゃない。整備中に」


 「疲労で手が滑って、工具で自分を刺すとか」


 「あり得る」


 「あり得る」


---


 その時、アレクセイが車庫に入ってきた。


 三人を見た。


 「......お前たち、顔色が悪いぞ」


 「悪いだろうな」


 「いつ寝た」


 「三時間」


 「三時間」


 「二時間」


 アレクセイの顔が険しくなった。


---


 「立て」


 「何だ」


 「診察する」


 「診察?」


 「そうだ。今すぐ」


 「作業が」


 「後でいい。立て」


 三人は渋々立ち上がった。


---


 医務室。


 アレクセイが三人を診察した。


 血圧。脈拍。瞳孔反射。簡単な問診。


 「......駄目だ」


 「何が」


 「三人とも、重度の睡眠不足だ。このまま続けたら、倒れる」


 「倒れている暇がない」


 「倒れたら、もっと暇がなくなる」


 「......」


---


 アレクセイは腕を組んだ。


 「柏木に進言する。出動ペースを落とすべきだ」


 「落とせるのか」


 「落とす。俺が言えば、柏木も聞く」


 「本当か」


 「医者の言うことは聞く。それが柏木だ」


 「......」


---


 アレクセイは柏木の部屋に向かった。


 三人は医務室に残された。


 「どうなると思う」


 「分からない」


 「作戦が減るといいな」


 「減るといいな」


---


 三十分後。


 アレクセイが戻ってきた。


 「話はついた」


 「どうなった」


 「出動ペースを週三回に制限する」


 「週三回?」


 「今までの半分だ」


 「本当か」


 「本当だ」


 三人は顔を見合わせた。


 「......助かった」


 「助かった」


 「本当に助かった」


---


 「ただし、条件がある」


 「条件?」


 「今日から三日間、休養を取れ。作戦には出ない」


 「三日間?」


 「そうだ。寝ろ。食べろ。回復しろ」


 「整備は」


 「後でいい。機体と車両は、最低限動く状態だ。三日くらいは持つ」


 「だが」


 「だがも何もない。これは医者としての命令だ」


 アレクセイの目は真剣だった。


 「お前たちが倒れたら、部隊が動けなくなる。パイロットがいなければヘリは飛ばない。運転手がいなければ車は走らない。整備士がいなければ機械は壊れる」


 「......」


 「お前たちは、この部隊に必要だ。だから、休め」


---


 三人は黙った。


 やがて、エイブラハムが口を開いた。


 「......分かった」


 「分かった」


 「分かった」


 「よし。今すぐ寝ろ」


 「今すぐ?」


 「今すぐだ。部屋に戻れ」


 三人は立ち上がった。


 足取りが重かった。


---


 宿舎に向かう途中、イーゴリが言った。


 「三日間も寝られるのか」


 「寝られるだろう」


 「何年ぶりだろう」


 「覚えていない」


 「俺も覚えていない」


---


 ダニエルが言った。


 「アレクセイに感謝だな」


 「感謝だ」


 「あいつがいなかったら、俺たちは倒れるまで働いていた」


 「倒れていた」


 「確実に」


---


 エイブラハムが空を見上げた。


 「いい天気だな」


 「そうだな」


 「こんな天気の日に、寝るのはもったいない気がする」


 「寝ろ」


 「寝る」


---


 三人は宿舎に入った。


 それぞれの部屋に向かった。


 「おやすみ」


 「おやすみ」


 「おやすみ」


---


 十分後。


 三人とも、深い眠りに落ちていた。


 十五時間後に目を覚ますまで、誰も起きなかった。


---


 三日後。


 車庫。


 エイブラハムが車の下に潜り込んでいた。


 「よし、穴は全部塞いだ」


 顔色が良くなっていた。


 目の下の隈も、薄くなっていた。


 「こっちも完了だ」


 ダニエルがヘリから降りてきた。


 「ローターブレードも交換した。新品同様だ」


 イーゴリがコーヒーを持ってきた。


 「また被弾するんだろうな」


 「するだろうな」


 「だが、今度は週三回だ」


 「週三回」


 「半分だ」


 「半分でも多いけどな」


 「多いな」


 「多い」


 三人は笑った。


---


 アレクセイが車庫に来た。


 「顔色が良くなったな」


 「おかげさまで」


 「十五時間寝たそうだな」


 「寝た」


 「よく寝た」


 「記録だ」


 「今後は、週に一度は八時間寝ろ。最低でも」


 「努力する」


 「努力じゃない。義務だ」


 「......分かった」


---


 アレクセイは車庫を出ていった。


 三人は顔を見合わせた。


 「いい医者だな」


 「いい医者だ」


 「ロシア人は信用できないと思っていたが」


 「俺も」


 「俺もロシア人だぞ」


 イーゴリが言った。


 「お前は別だ」


 「別なのか」


 「別だ。仲間だから」


 「......そうか」


 イーゴリは少し笑った。


---


 コーヒーを飲み干した。


 「さて、仕事だ」


 「仕事だ」


 「週三回になっても、整備は必要だからな」


 「必要だ」


 「行くか」


 「行こう」


 三人は仕事に戻った。


 少しだけ、足取りが軽くなっていた。

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