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第12話:戦の傷はもののふの誉れ

あらすじ:スミレはセシルに応急処置を施し、二人はなんとかその場から帰還するのだった。



◆◆◆◆



「それが何か? 私の知る剣客は両腕を失い呪いで再生も叶いませんでしたが、足と口で刀を振るう異形の剣を編み出しました。それに比べれば腕の骨など安いものです」


 それはもはや人間じゃないと思う。僕の知っている冒険家はそんな姿になってまで戦いたいと思わないだろうし、そんな状況になったら僕は死にたい。というか普通に死ぬ。


「私はあなたのその勇気に感服したのです。何としてでも連れて帰りますから。お覚悟を」

「でも……あっぐぅうう!」


 少し動かしただけで歩けなくなりそうなほど痛い。


「固定しましょう。鎧をはずします。よろしいですね」


 スミレがそう言うので、僕は何とかうなずく。慎重に僕とスミレはその場に座りなおした。


 スミレは丁寧に僕の上半身の鎧をはずして地面に置き、その横に盾とメイスを置く。


 「美しい傷ですね」


 盾に深々と走った結晶カマキリの鎌の跡を見て、スミレがそう呟いた。続いてスミレは、刀の鞘と脇差の鞘をそれぞれ自分の帯から抜く。


「添木です。後は三角巾や風呂敷があればよいのですが、ないのでこれを代わりにします」


 そう言うと、躊躇なくスミレは着物の上をするすると脱ぎはじめた。


「うわあっ!! ちょっ、ちょっとスミレ! 何を!」

「私の着物を三角巾代わりにします。もう少しだけ我慢してください」

「僕の服を使えばいいから、脱がないで!」

「怪我をしていて腕が動かないのに、どうやってあなたの服を脱がすんですか?」


 恥ずかしがる様子もなく、スミレは真顔で着物の上を脱ぐと、小太刀を当ててさっさと切れ目を入れてから破いていく。慣れた手つきだ。もしかすると既にこういうことは経験済みだろうか。


「綺麗な着物が……ごめん、僕のせいで」


 東の国の華やかな着物が引き裂かれて、僕の両腕に巻かれていく。固定されたことでほんの少し楽になった。


「戦の装束は戦場で裂かれてこそ美しいもの。少しも惜しいとは思いません」


 応急処置を終えて「立てますか?」と言われ僕は立ちあがった。歯を食いしばれば耐えられる。


「ありがとう。だいぶ楽になった」

「セシルは強い男子ですね」


 スミレは上半身がさらしだけになってしまったけど、全然気にしていないようだ。むしろ僕の方が落ち着かない。


 抜き身の大小を両手に持ったスミレに寄りかかりながら、僕は結晶の林を後にしていく。


「何とも良き……死闘でした」


 しみじみとスミレがそう言う。ああ、やっぱりこの子、骨の髄まで戦闘民族だ。命を賭けた一瞬の攻防なんてなるべく避けたい僕に対し、スミレはその瞬間にこそ高揚する生粋のサムライなんだろうなあ。


「あなたに守られたからこそ、私は捨て身の一突きを放つことができたのです。武士の本懐。剣の玄趣。なんという至福……」

「いや、あの時は必死だったから。あんな無茶な戦い方、二度とできないよ」

「それはもったいない。あなたならば修羅に堕ちることなく、盾の絶技さえ見いだせると私は踏んでいるのですが」

「あはは……僕は落ちこぼれのナイトだよ。本当の使い手ならこんなふうにならなかったはずだけど」

「だからこそ素晴らしいのです。戦の傷はもののふの誉れ。私は感服いたしました」

「……えっと……ありがと」


 褒められて照れる。僕だって別に好き好んで戦っているわけじゃないんだけど、スミレみたいな女の子に誉めてもらえると嬉しいものだ。



◆◆◆◆



 その後、僕たちは何とか無事にパーティに合流することができた。イザベラさんが血相を変えて僕を治療してくれたこと。スミレがアンナの前で伏して「私が至らないばかりに、あなたのお兄様に怪我をさせてしまいました」と詫び始めたこと。僕が慌てて「違うよ、悪いのは僕の方だから!」と言い張って、スミレに怒られそうになったこと。


 日をまたいで、ローガンさんとイザベラさんが改めてあの場所を訪れて結晶カマキリの死骸を確認して「これ深層の領主じゃねえか!?」「よくあの子たち二人で仕留めたわね!」と驚いていたこと。何よりも素材と原盤がとんでもない高額で売れて、パーティの財政が一気に好転したこと。そんなことがあったけど、これはまた別の時に話そう。



◆◆◆◆




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