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第11話:強敵――

あらすじ:スミレの突きは見事にボスを即死させた。だが、防御の代償でセシルは両腕を粉砕骨折していた。



◆◆◆◆



 今までならば、盾を構える暇もなく胴体を輪切りにされるその一撃に、僕は反射だけで盾をかざした。普通の冒険家の盾だ。結晶カマキリの鋭い鎌ならばあっさりと切り裂くだろう。でも、鎌の一撃に合わせて柔軟にしならせ、それを受け止めるのではなく受け流すような動きをした盾は、わずかに角度をつけて、結晶カマキリの攻撃を逸らしていく。


 そして、一瞬だけ生まれた回避不能の時間の中で、スミレは踏み込んだ。神速の突きが放たれる。スミレが狙ったのは結晶カマキリの頭部だった。スミレの刀が伸びたようにさえ思えた。踏み込むだけじゃなくて上体を倒すほどの、防御を全て捨てて間合いの外にまで届くあり得ない突きを放ったのだ。スミレの手は柄ではなく柄頭の先端にあった。


 結晶カマキリの脳天を貫いて、スミレの刀は止まった。目と目の間を、まるでドクターの外科手術のような正確さで白刃が通っている。刀身を緑色の体液がゆっくりと伝って、地面に滴り落ちた。結晶カマキリの鎌がだらりと垂れ、その巨体がゆっくりと傾いていく。スミレが刀を抜いた。やがてそれは地面に倒れ伏す。もう二度と動くことはなかった。


「強敵――討ち取ったり」


 スミレの呟きが、僕たちの死闘が終わったことを告げた。


「はは……か、勝った」


 余韻に浸るスミレの横で、一世一代の勝負を終えて僕の身体は震えていた。盾が手から滑り落ち、腰が抜けて僕はその場にしゃがみ込んだ。この隠された階層の領主である結晶カマキリ。それを僕とスミレの二人だけで討伐した。しかも一撃で。


 スミレの必殺の突きがなければ絶対に不可能だった奇跡だ。僕だけだったら必死に逃げて何とか生き残れたかどうかだろう。


「僕たち……生きてるんだよね」

「はい。見事な守りでした、セシル。たわむようなその受け流し、まさしく守の極致。お見事です」


 そう言ってスミレはいつものようにほほ笑んでくれた。


 でもきっと、あれはスミレの誘導がうまかったからだ。余計なことを一切僕に考えさせず、最初の一撃だけを全力で受け止めろと言われたから僕はできたんだろう。それに、失敗すればスミレが死ぬという背水の陣。人生を賭けた防御が実った瞬間だった。――そして当然、まだ見習いの僕がなんの代償もなしに完璧な防御ができるはずもなく。


「あ……今頃、痛くなってきた」


 改めて僕の盾を見ると、深々と切り裂かれた跡が残っている。その衝撃を全部受け流せれば、あるいは受け止めるだけの筋力があれば、こんなことにはならなかったんだけど、まあ無理だよね。


「痛い痛いっ……あっ、これ、折れてるっ間違いなく両手っ、痛たたっ!」

「セシル!?」


 緊張の糸が切れて、戦勝の高揚感もなくなれば、後には無茶をした結果だけが残る。


「ごめんっ、やっぱり完璧にはできなかったみたい……両手が折れてるっ……!」


 人体を楽々両断するような鎌の一撃を受け止めたんだ。僕の両腕から激痛が這い上がってくる。服と籠手で覆われているけど、たぶんものすごい勢いで腫れあがっていくだろうなあ。


「ぐぅぅ! ああがっ!」


 あ、これ本当に痛い。骨がバキバキに折れてる、絶対。


「これを飲んでください」


 スミレが僕の口に治療薬をねじ込む。僕は何とかそれを飲み下した。激しい痛みと熱がわずかに和らぐ。


「セシル、私の肩に寄りかかって下さい」


 僕は何も考えずスミレに寄りかかる。そのまま二人で慎重に立ち上がった。


「まずはこの場を離れましょう。この状態で敵に見つかったら厄介なことになります」

「そうだね……」


 僕は盾を持つことができないし、今も痛みで脂汗が流れ落ちている。何この傷、治療薬が効かない。深層の複眼の攻撃って、防御や回復を阻害する権能を帯びているのかも。僕を捨てればスミレは戦えるだろうけど、その方がいいだろうか。


「僕をここに残して……スミレはみんなのところに戻って。イザベラさんを連れてきてくれれば、何とかなるから」

「馬鹿なことを言わないでください。その間あなたはどうするのですか」

「何とかなるよ……。それに僕がいたら、スミレも足手まといでしょ……」

「愚かな」


 スミレは怒った顔で言う。


「でも……盾がない僕はただのお荷物だよ……?」



◆◆◆◆




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