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破壊者の叫び

総合評価110pt、ブクマ件数18件ありがとうございます!


「よし。これで邪魔者はいない。続けるぞ」


 大雅たいがは体育館に着くと言った。

 もう一度包丁を構えて軽く足踏みをしている。

 まるで悠希ゆうき達を挑発しているかのようだった。


「……もうやめようぜ」


 悠希はそんな大雅をよそにボソッと呟いた。


「何だと」


 大雅は悠希の言葉に怪訝な表情をした。

 せっかく楽しめると思っていたのに急に冷めたことを言われたからだ。


「俺を殺したいなら殺せばいい。でも殺せないからそうやって遊びみたいにしてるんだろ?」


 悠希は大雅をまっすぐ見つめて静かに言った。

 大雅を追って歩いている時に思い立ったことだった。

 大雅が持っている悠希に対する殺意はひしひしと伝わってくる。

 だが早絵さえが屋上に来た時に大雅は殺す標的を早絵に変えた。

 もし心の底から悠希を殺したいと思っているなら早絵を無理やりどかしてでも悠希を刺すはずだ。

 でも大雅はそうしなかった。

 その姿を見て悠希は確信したのだ。


「はぁ!? そんなわけないだろ。僕に勝てる気がしないからってそうやって誤魔化そうとしてるんだろ」


「違う。今までのお前を見て思ったことだ」


「何が言いたいんだよ」


 大雅は苛立って髪の毛をくしゃくしゃとかいた。

 そんな大雅の様子を見て、悠希はさらに確信を持った。


「お前にはまだ迷いがあるって言ってるんだ」


 悠希の言葉を聞いた瞬間、大雅の目が大きく見開かれた。

 まるで悠希の言葉通りだと言うかのような反応だ。

 きっと図星だったに違いない。

 確かに大雅の殺意は本物だ。

 だが同時に迷いがあるのも事実だった。

 本当に悠希を殺してしまっていいのか。

 殺した後自分はどうなるのか。

 現実的な未来と向き合った時にそれでも悠希を殺すかと問われると即座に頷くことはできない。

 そんな心の内を悠希に見抜かれたような気がした。


「何なんだよ……」


 たまらず大雅はしゃがみ込んだ。

 そして天を仰いでため息をつく。


陰陽寺おんみょうじ


 悠希がそっと声をかけた。


「もうやめよう。これ以上こんなこと続けても意味ない」


「お前に何がわかるんだよ……」


「え?」


「お前に何がわかるんだ!!!!」


 大雅は突然立ち上がり、怒りの炎がほとばしる形相で悠希を睨みつけた。


「僕だってやめなきゃって思ってたんだ! でも、もうここまで来たら引き返せないんだよ……」


 悠希に向かって叫び続けるが、大雅はついに弱音を吐いた。


「最初はほんの面白半分だった。みんなが楽しそうに毎日過ごしてる中で何で僕だけが苦しい思いしないといけないんだって思って……それで、いっそ燃やしてみたらどうなるのかなって」


 大雅は蚊の鳴くような弱々しい声で誰にともなくつぶやいている。

 悠希はそんな大雅をじっと見つめていた。


「別に罪悪感とかはなかったんだ。ザマァ見ろって思った。僕だけに苦しい思いをさせた罰だって。学校が燃えてるのを見ても綺麗だなとしか感じなかった。それが、普通だと思ってたのに……」


 実は大雅が初めて小学校を燃やした日の夜、まだ当時は一緒に生活をしていた両親に報告が行き、大雅は彼らにこっぴどく叱られたのだ。

 両親は一斉に大雅を責め立てた。

 自分たちは大雅をそんな風に育てた覚えはない、いつからそんな性格のひん曲がった子になったんだと泣きながら怒っていた。

 そこで大雅は初めて知ったのだ。

 燃やして喜んで、おまけにそれを普通だと認識しているのは自分だけだったのだ、と。

 かなり衝撃的だった。

 だが頭にはそのことがずっとぐるぐる回っていて両親の注意も耳に入ってこなかった。

 それから数年経っても燃やすことに対する概念は変化しなかった。

 そして次から次へと転校を繰り返すことで両親は大雅に燃やすことの罪の意識を持たせようとした。

 自分が学校を燃やすことでずっと転校を繰り返さなければならないということに罪悪感を感じてほしかった。

 だが転校を繰り返してもその度に転校先を燃やし続ける大雅の態度に失望した父親は、とうとう別れを切り出した。

 母親も認めざるを得なかった。

 もちろん夫婦二人で協力して何とか我が子を改心させたいという気持ちはあったが、父親がそれに嫌気がさしたのだった。

 そして父親が出て行く日、母親はそっと父親に告げた。


 大雅のことは私に任せて、と。


 そんなことを当時の大雅が知るはずもなく、これまでと同じように学校の全焼を続けた。

 母親は何度も何度も大雅に忠告したが、彼は一切聞く耳を持たなかった。

 厳密に言えば、なぜ自分の行動に母親がしつこく怒ってくるのかが理解できていなかった。

 彼にとって、学校を燃やすことが習慣になっていたからだ。


「母さんが疲労で病気になって死んでひとりぼっちになって、周りから白い目で見られてるって気づいた時にやっとわかった。今まで僕がやってきたことはいいことなんかじゃない。母さんが何で僕に怒ってたのかもわかった」


「じゃあ、何でやめなかったんだ?」


 悠希は尋ねた。


「やめられなかったんだよ! 燃やす時は罪悪感とかなくて。燃やして大事になった後に燃やしたらダメだったんだって思い返してた。でもテレビとか新聞では悪魔みたいに言われてたから今更手のひら返して謝ることもできなかった!」


 大雅はそこまで言うと、床を拳で力強く叩いた。

 バン! という音が体育館中に響き渡った。

 あまりにも大きな音に悠希の隣で大雅の言葉を聞いていた早絵はビクッと肩を縮めた。


「お前の言う通りだよ、早乙女さおとめ


 大雅は体全体から絞り出すようにため息とはまた少し違った息を吐いて言った。


「僕はここで死のうと思ってる」

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