プロローグ
前作に続き、ヒロイン系の新作です!
どうぞよろしくお願いします!
粘つき、まとわりつくような鉄の匂いが鼻をついた。視界のすべてが、赤と黒の狂気で塗りつぶされている。
(——あぁ、痛いな。全身の骨が折れてるみたいだ……)
ノアは仰向けに倒れ、暗雲立ち込める空を見上げている。
絶望的な状況だった。王都は炎に包まれ、騎士団は壊滅。聖女の神聖結界は打ち砕かれ、誰もが死を覚悟していた。
だが、その瞬間、魔力を持たないはずの一般人であるノアは、ただ一人、駆け出していた。兵器の暴走を止める唯一の手段。それは、人間の生命力を直接変換してシステムを強制停止させる「禁忌の制御核」に身を投じること。ノアはそれをなぜか知っていたのだ。
みんなの制止を振り切り、死の光線が乱反射する嵐の中を突っ切っていく。撃たれようが、殴られようが、足を止めることなく、ノアは走り続けた。
そして、ノアが制御核へと到達し、その内部へ自らの命を注ぎ込んだその瞬間——奇跡は起きた。暴走していた古代兵器の魔導回路は、ノアの生命力を喰らい尽くすと同時に、青白い静寂の光へと変色したのである。
ノアはその場に倒れ伏した。その歪んだ視界の端では、天を突くほどに巨大な古代魔導兵器——かつて世界を破滅へと追いやったとされる巨大な神の兵器が、漆黒の亀裂を吐き出し、狂乱した破滅の光波を撒き散らしながら静かに沈んでいく姿が見える。
——訪れた静寂と安寧。
しかし、その代償は、あまりにも残酷だった。ノアの右腕は兵器の放つ高熱線によって肉が焼き切れ、白骨が剥き出しになっていた。肋骨は砕け、内臓は潰れ、吐き出した大量の血が足元の黒い泥と混ざり合う。全身を焼き焦がす激痛と、肉体が崩壊していく恐怖に叫び出したいはずなのに、喉が焼き潰れていて声すら出ない。
「ノア様……! お願いです、目を開けてください……! ノア様ぁっ!!」
耳元で、破裂しそうなほどの悲鳴が響く。視界の端に映ったのは、純白の聖衣をノアの血で真っ赤に染め上げ、なりふり構わず自分を抱きしめる少女の姿だった。
彼女の手から伸びる金色の癒やしの光は、もはやノアの失われていく命を繋ぎ止めることができず、ただ虚しく明滅している。
(よかった……。みんな、無事だね……)
ノアは最後の力を振り絞り、血に濡れた左手で少女の頬にそっと触れ、満足感とともに最後の一息を吐き出した。少女たちの痛切な叫びが遠のき、世界が完全な闇へと沈んでいった。




