あとがき 神様の反省会
「……で?」
神の執務室。
巨大な机の向こうで、神が頭を抱えていた。
「どうしてこうなった?」
「どうして、と申されましても」
向かいに座る部下が、淡々と書類をめくる。
「最初の計画では、問題ありませんでした」
「だよな?」
「はい。髭に悩む魂を転生させ、新しい世界でその執着を克服させる。本人も周囲も、幸せになる想定でした」
神は椅子に深くもたれた。
「……魔王になったぞ?」
「なりましたね」
「どうしてだよ!」
神が机を叩く。
「髭が嫌だっていう感情が、なんで魔王なんてもん作り出してんの!」
「本人の選択です」
「神の責任は!?」
「転生させたところまで、です」
「冷たい!」
部下は一枚、書類をめくった。
「その後の経過ですが」
「聞きたくない」
「時間魔法を習得しました」
「……」
「空間魔法も習得しました」
「……」
「最終的には時間と空間を歪め始め、世界崩壊の危険性が発生しました」
神は両手で顔を覆った。
「髭ごときで……」
「本人の前で、その言い方は避けたほうがよろしいかと」
「分かってるよ」
少し間を置いて、神は顔を上げた。
「で、対処としてタカハシを送ったんだよな」
「はい。同じように髭を剃りたいという願望が強い魂を選びました」
「魔王と同じ問題を抱えた人間をぶつければ、互いに理解できるだろうと」
「そのつもりでした」
「……それが」
神は報告書を見る。
「浄鉄を聖剣ではなくカミソリにした」
「結果的に、です」
「魔王に渡した」
「はい」
「二人とも髭がなくなった」
「はい」
「世界は救われた」
「はい」
神はしばらく黙っていた。
「……成功、なのか?」
「タカハシを送った目的は、世界崩壊の阻止ですので。一応」
「一応ってなんだよ」
「計画通りではありませんが、最悪の事態は避けられました」
「まあ……そうだけど」
神は報告書の最後を見る。
「タカハシのその後は?」
「新しい道具を作り始めています」
「……そうか」
神は、少しだけ息を吐いた。
「なら、いいか」
「何がです?」
「髭はなくなった。計画も、半分以上は外れた」
神は椅子に背を預ける。
「でも、自分の人生までなくなったわけじゃない」
「……」
「それなら、まあ」
神は報告書を閉じた。
「転生は、成功ってことで」
部下が小さく頷く。
「では、次の案件ですが」
「待て」
「はい?」
「次は絶対に、髭の問題がない魂にしてくれ」
「……」
「どうした?」
「次の案件、エルフです」
「…………」
「歯磨きの習慣がありません」
「………………」
「どうします?」
神は、再び頭を抱えた。
「……知らん」
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。




