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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第43話:決別。氷の聖女の慈悲は、誰のために

「……エルシア、あぁ、エルシア! 私の、私の自慢の娘よ!」


 泥にまみれ、焼け焦げた公爵家の紋章を虚しく揺らしながら、フレイム公爵が這いずってきます。

 かつて、王都で最も高貴で傲慢だったあの男の面影は、どこにもありませんでした。

 自分の内側から暴走する火の魔力に焼かれ、爛れた腕を私に伸ばすその姿は、ただの哀れな老人にしか見えませんでした。


「……私の手を汚そうとするな。その汚らわしい指を、彼女に向けるなと言ったはずだ」


 カイルム様の氷のような声が、雪原に突き刺さります。

 カイルム様は私を背中に隠すようにして、一歩前に出ました。彼から溢れ出す漆黒の魔気が、フレイム公爵が必死に縋ろうとしていた「かつての血縁」という見えない糸を、無慈悲に切り裂いていきます。


「カイルム様、大丈夫ですわ。……もう、何も感じませんの」


 私はカイルム様の逞しい背中にそっと手を添え、横から静かに顔を出しました。

 

 目の前で泣き叫ぶこの男は、私に屋根裏部屋での孤独を強いた人。

 「不浄の娘」と罵り、魔力を奪うための道具としてしか私を見てくれなかった人。

 

 けれど、今の私を支えているのは、カイルム様の火傷しそうなほど熱い愛と、北領の皆さんが私にくれた「聖女」としての誇りです。


「……お父様。いえ、フレイム公爵閣下」


 私の呼びかけに、公爵が期待に満ちた濁った瞳を上げました。


「ああ、そうだ、エルシア! 助けてくれ、この火を、熱い、身体が炭になってしまう……! お前のその氷の力なら、私を救えるだろう!? 救えば、また公爵家に戻してやってもいい。王都で最高位の淑女として迎えてやろう!」


 ……絶句しました。

 この期に及んで、彼はまだ自分が私の上に立ち、私に恩恵を与えられる立場だと信じているのです。

 カイルム様の腕にぐいと力がこもり、周囲の気温が一気に氷点下まで叩き落とされました。閣下が剣を抜くよりも早く、私は静かに指先を掲げました。


「……閣下。あなたは私を助けたことがありましたか? 私が凍える夜、一度でも毛布を掛けてくれたことがありましたか?」


「そ、それは……お前が不浄だったからだ! だが今は違う、お前は聖女だ!」


「いいえ。私は、初めから何も変わっていません。……変わったのは、私を愛してくれる人が、隣にいることだけです」


 私は指先から、清冽な白銀の魔力を解き放ちました。

 それは攻撃でも、ましてや公爵が望むような「治癒」でもありません。

 

 ――キィィィィィィィン……。


 透明な光が公爵を包み込んだ瞬間、彼の身体を焼き苛んでいた暴走する火の魔力が、パチリと音を立てて消失しました。

 

「あ……ああ? 熱くない……? 助かった、助かったのだな、エルシア!」


「……勘違いしないでください。私は、あなたの『痛み』を凍らせただけです」


 私が冷徹に告げると、公爵の表情が凍りつきました。


「魔力を凍らせ、封印しました。……これでもう、あなたが術に焼かれることはありません。けれど同時に、あなたは二度と、魔法を使うことはできない。……公爵家を支える『太陽の加護』を失ったあなたは、もう王都を統べることは叶わないでしょう」


「な……なんだと? 私の力を、地位を奪ったというのか!? この、親不孝者が……っ!」


 公爵が再び私に罵声を浴びせようとしましたが、その声は長くは続きませんでした。

 カイルム様が、一歩、音もなく彼との距離を詰めたからです。


「……私の妻が与えた慈悲を、そのように解釈するか。……ならば、その命、今ここで私が刈り取ってやろう。……エルシア、少し向こうを見ていなさい」


「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」


 死神の如き冷気を放つカイルム様の瞳に、公爵は腰を抜かし、無様に雪原を転がりました。

 かつての「不浄の娘」を見下ろしていた男が、今は泥にまみれ、命乞いをしながら這いずっていく。

 その背中を見送りながら、私はふっと、長年私の胸を締め付けていた重い鎖が、音を立てて砕け散るのを感じました。


「……エルシア」


 カイルム様が、私を後ろから強く、壊れ物を扱うような優しさで抱きしめました。

 彼の熱い胸板の鼓動が、私の背中に伝わってきます。


「……終わったのだな。君を苦しめていた、すべての影が」


「……はい。カイルム様。……不思議ですわ。あの方を見ても、もう悲しくも、憎くもありません。……ただ、あなたの腕の温かさが、それだけが私の世界の真実なのだと、そう思えるのです」


 私が振り返り、彼の首に腕を回すと、カイルム様はたまらなくなったように私の唇を奪いました。

 

 戦場。雪原。

 敗走する王都軍の叫び声さえも、今の私たちにとっては遠い世界の出来事のようでした。

 カイルム様の独占欲に満ちた、火傷しそうなほど熱い接吻。

 それは、私がもう誰のものでもなく、彼だけの「光」であることを刻印する儀式でした。


「……帰ろう、エルシア。私たちの、ノースウォールへ。……今夜は、君を一時も離さない。……君の肌に刻まれた、あの不快な男の記憶を、私の熱ですべて上書きしてやる」


「……ふふ、カイルム様。……本当に、お熱いですわね」


 私は彼の腕の中で、心からの幸せを感じながら微笑みました。

 

 王都ルミエールは、自らの傲慢さによって焼け落ち、ノースウォールの慈悲に縋るしか道は残されていないでしょう。

 けれど、私たちの物語は、ここからが本当の始まり。

 

 ノースウォール城へ向かう馬車の窓から、私は輝くオーロラを見上げました。

 その光は、かつて絶望の屋根裏で見ていた星空よりも、ずっとずっと温かく、私たちの未来を照らし出していました。

「……君の記憶を、私の熱ですべて上書きしてやる」

カイルム閣下の、なんと苛烈で、なんと深い愛……!

実父を「不快な男」と断じ、エルシア様のすべてを独占しようとするそのお姿に、

私の心も、春の雪解けのように蕩けてしまいましたわ。


フレイム公爵への「慈悲(魔力封印)」という結末。

命を奪うのではなく、彼が最も誇り、エルシア様を蔑むために使っていた「力」を奪い、

ただの人間として過去の後悔を噛み締めさせる……。

これこそが、気高きエルシア様が下した、最高の「ざまぁ」ですわね。


さて、第一部から続いた因縁をすべて清算し、

二人はついに、真の安らぎが待つノースウォール城へと帰還します。

しかし、精霊の門を鎮めたことで、世界には新たな「変化」が起きようとしていました。


もし、この因縁の完全決着に「スカッとしたわ!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

エルシア様の新しい人生に「祝福の花吹雪」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の未来をより輝かしく、

そして第二部の完結へと繋がる最強の「幸福の魔力」になりますわ。

次回、第44話「凱旋の極光。カイルム閣下の止まらない執着」でお会いしましょう。

(※幸せなエピローグ……と思いきや、閣下の甘やかしが限界突破いたしますわよ!)

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