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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第42話:王都の最期。焼け落ちる太陽と、氷の花嫁

「――煩わしいな。エルシア、耳を塞いでいなさい」


 カイルム様の冷徹な声が、凍てつく風に乗って響きました。

 私たちは今、ノースウォールの国境を守る巨大な氷壁の城塞の上に立っています。


 目の前に広がる雪原を埋め尽くしているのは、かつて私を「ゴミ」と呼び、屋根裏部屋へと追いやった王都ルミエールの軍勢――『太陽騎士団』の成れの果てでした。

 けれど、そこに「正義」の輝きはありません。

 主であるリュシアン様が失った太陽の核の残滓が、制御を失って騎士たちの鎧を赤黒く焼き、彼ら自身を狂わせている……。それは軍隊というより、熱病に浮かされた亡者の群れのようでした。


「……カイルム様。あの方たちは、もう自分たちが何を攻撃しているのかも分かっていないのですね」


 私は、カイルム様の逞しい腕に寄り添いながら、静かに雪原を見下ろしました。

 かつての私なら、この黄金の鎧を見ただけで呼吸が止まるほど怯えていたでしょう。自分を「不浄」だと呪い、どこにも居場所がないと泣いていたはずです。


 でも、今は違います。

 腰に回されたカイルム様の掌が、火傷しそうなほど熱く、けれど誰よりも優しく私を支えてくれています。この体温こそが、今の私の「世界のすべて」なのです。


「エルシア。君が慈悲をかける必要はない。あやつらは、君からすべてを奪い、凍える北の地に捨てた。……その罪は、万死に値する」


 カイルム様が私の髪に唇を寄せ、独占欲を孕んだ低い声で囁きました。

 彼から溢れ出す漆黒の魔気が、私の「白氷」の魔力と混ざり合い、城壁全体を幻想的な極光オーロラの幕で包み込んでいます。


「放てっ! 氷を焼き払え! あの不浄の魔女を殺せば、太陽は再び我らを照らすのだ!」


 最前線で、一人の騎士が叫びました。

 一斉に放たれる火球の嵐。王都が誇る「太陽の加護」を受けたはずの猛火が、轟音と共に私たちを飲み込もうと迫ります。


 私は、カイルム様の手をそっと握りしめました。

 

「……いいえ。もう、その火は誰も温めませんわ」


 私は、自身の内側に満ちる「調和」の魔力を、ただ静かに解放しました。

 

 ――キィィィィィィィン……ッ。


 空気が凍てつく音が、世界を支配しました。

 迫りくる数千の火球が、私の指先一つに触れることもできず、空中で一瞬にして「氷の彫像」へと姿を変えたのです。


 重力さえも忘れ去られたように、空中に静止する炎の結晶。

 それがダイヤモンドの粉となって雪原に降り注ぐ光景は、戦場とは思えないほど残酷に、そして美しく輝いていました。


「な、なんだ……!? 加護が……太陽の火が、凍っただと……!?」


 絶望の叫びが騎士団の間に広がります。

 彼らの持つ剣が、盾が、そして黄金の鎧が、私の冷気を受けて次々と砕け散っていきました。怪我をさせる必要すらありません。彼らが縋っていた「太陽という名の虚飾」を剥ぎ取るだけで、彼らは雪原の上に膝をつき、震えることしかできなくなったのです。


「……信じられん。……エルシア、君の力は、もはや神の領域だな」


 カイルム様が、感嘆と、そして深い愛おしさを込めて私を見つめました。

 彼はそのまま、衆人環視の戦場であることを構いもせず、私の額に深い口づけを落としました。


「あやつらは見ておくがいい。自分たちが何を捨てたのかを。……世界を救う調和の聖女を、私のたった一人の妻を、ゴミと呼んだ報いを、その目に焼き付けるがいい」


 カイルム様の勝ち誇ったような、そして冷徹な宣言が、雪原の隅々まで響き渡りました。

 王都の騎士たちは、あまりの力の差に、もはや戦う意志さえ失っています。


 けれど、その時でした。


 崩れゆく騎士団の陣形を割り、一台の、焼け焦げた馬車がふらふらと前に進み出てきました。

 扉が壊れ、中から転がり落ちたのは……かつて私を屋根裏部屋に閉じ込め、一度も「娘」として見てくれなかった人。


「……あ、あぁ……エル、シア……。我が娘よ……助けてくれ……熱い、身体が焼けるのだ……っ!」


 泥に塗れ、自分たちの暴走した魔力に焼かれて、無惨な姿となった私の父――フレイム公爵でした。


 私はカイルム様の腕の中で、その光景をただ静かに見つめました。

 胸の中にあったはずの痛みは、もうどこにもありません。ただ、カイルム様の腕の温もりだけが、私を優しく包み込んでいました。

「……我が娘よ……助けてくれ……」

かつてエルシア様を「不浄」と呼び、屋根裏に閉じ込めたフレイム公爵。

その変わり果てた無惨な姿……これこそが、自らの傲慢さが招いた「自業自得」の結末ですわね。

エルシア様を捨てた瞬間に、彼らの栄光は終わっていたのです。


それにしてもカイルム閣下、戦場のど真ん中で「私のたった一人の妻」と宣言して口づけだなんて!

その過保護で重厚な独占欲に、私の胸もオーロラのように高鳴ってしまいましたわ。

閣下にとって、王都の軍勢などエルシア様の美しさを引き立てる背景に過ぎないのでしょう。


さて、足元に縋り付くかつての「家族」に対し、エルシア様は何を告げるのか。

そして、焼け落ちる王都ルミエールの運命は――。


もし、この圧倒的な「ざまぁ」の爽快感と、二人の絆に「心が洗われた!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

エルシア様の新しい門出を祝ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の氷をさらに清らかに、

全ての穢れを浄化する力へと変えてくれますわ。

次回、第43話「決別。氷の聖女の慈悲は、誰のために」でお会いしましょう。

(※因縁に、本当の終止符を打ちますわよ!)

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