第34話:永遠の調和、そして……
窓の外には、かつての死の地とは思えないほど、穏やかで美しい景色が広がっていました。
魔力が暴走し、常に吹雪に閉ざされていたノースウォール。けれど今、私の指先から零れる「白氷」の魔力は、カイルム様の「熱」と溶け合い、領地全体に柔らかな奇跡をもたらしています。
凍土からは宝石のような結晶の花が咲き、領民たちの笑い声が、澄んだ空気の中をどこまでも高く響いていく。
「……夢では、ないのですね」
私は、バルコニーの欄干に手を置き、そっと呟きました。
王都の屋根裏部屋で、冷たい床に膝をつき、誰にも愛されず、ただ消えてしまいたいと願っていたあの日々。
「不浄」と罵られ、実の家族にさえゴミのように捨てられた私が、今、こうして誰よりも温かな光の中にいる。
「……夢なものか。もしこれが夢だと言うのなら、私は一生、この眠りから醒めるつもりはない」
背後から、聞き慣れた愛おしい声が響きました。
振り返るよりも早く、逞しい腕が私の腰を包み込み、引き寄せます。カイルム様の、火傷しそうなほどに熱く、けれど誰よりも優しい体温。
「エルシア。……君はまた、一人でどこか遠くへ行こうとしていたのではないか?」
「カイルム様。……ふふっ、そんなわけありませんわ。私の居場所は、もうここ以外にないのですから」
カイルム様は、私の肩に顔を埋め、深く、深く息を吸い込みました。
まるで、私の存在を細胞の一つ一つに刻み込もうとするような、激しくも切実な執着。
「……ああ。君の香りがするだけで、私の狂った血は静まり、魂が安らぎを得る。……エルシア。君を王都から奪い取ったあの日、私は初めて神に感謝した。……君という光を、私だけの暗闇に閉じ込めさせてくれたことを」
「閉じ込めるだなんて……。私は、あなたに救い出されたのです。この冷たい氷の城こそが、私にとっての天国なのですわ」
私たちは、沈みゆく夕陽に照らされながら、静かに唇を重ねました。
それは、幾度となく交わしてきた愛の誓い。
けれど、今日はいつもより少しだけ、未来に向けた確かな決意が混ざっていました。
私は、執務室の机で静かに光り続けている「母様の魔導書」を思い浮かべました。
そこに記された、氷の精霊王の謎。
世界のバランスが崩れ、王都の太陽が暴走したのは、単なる事故ではなかったのかもしれない。
母様が、自らの命と引き換えに私をこの地へ送り届けた理由。
カイルム様が「死神」と呼ばれるほどの熱を宿して生まれてきた理由。
それは、私たちが手に入れたこの幸せを、いつか世界規模の危機から守るための「試練」なのかもしれません。
「……カイルム様。私、もっと強くなりたいです。……あなたを守り、この平和を守るために」
「……ああ。君なら、そう言うと思っていたよ。……だが、忘れるな。君が世界を救う女神になろうとも、私の前ではただの『愛しい妻』だ。……君が歩む道の先には、常に私が立ち、君を傷つけるすべての理を、私の熱で灰にしてやる」
カイルム様は私の手をとり、薬指に輝く指輪に誓いの口づけを落としました。
王都ルミエールは、今やノースウォールの管理下に置かれ、かつての権威は地に落ちました。
リュシアン様もベアトリスも、自分たちが捨てた「愛」の重さを知り、後悔の檻の中で生きていくことになるでしょう。
けれど、それはもう、私たちの物語の本筋ではありません。
私たちの物語は、今、ようやく「始まり」の場所へ辿り着いたのです。
「……行きましょう、カイルム様。新しい明日へ」
「ああ。……どこまでも共に。永遠に、離しはしない」
ノースウォールの空に、かつてないほど巨大なオーロラが揺らめきました。
それは、氷の聖女と死神の騎士が織りなす、新しい伝説の幕開け。
不浄と呼ばれた氷が、真実の愛を得て、世界を優しく包み込む「調和の光」となった時。
物語の頁は、眩い輝きと共に、次なる章へと捲られていくのでした。
「不浄」と蔑まれた少女が、最高の愛と居場所を掴み取るまで……。
エルシア様とカイルム閣下の第一幕、ここに堂々の完結ですわ!
皆様、これまでの二人の歩みを、温かな目で見守ってくださり、
本当に、本当にありがとうございました。
王都での絶望から始まり、北領での溺愛、覚醒、そして「ざまぁ」。
花菱エマとして、読者の皆様に「スカッと」と「キュン」の両方を、
最高純度でお届けできたのではないかと自負しております。
さて、物語は一旦ここで幕を閉じますが、
母様の魔導書が示した「精霊王の謎」や、カイルム閣下の熱の正体など、
二人の前にはまだ、解き明かされるべき運命が待っております。
もし、この第一部完結に「最高のエンディングだったわ!」と思ってくださったなら、
ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、
二人の未来への「ご祝儀」を贈ってあげてくださいな。
皆様の評価が、第二部……「氷の精霊王と、熱き運命の番編」を呼び起こす、
最強の召喚魔法になります。
それでは、またいつか、オーロラの輝くノースウォールの地でお会いしましょう。
皆様の毎日に、エルシア様の祝福と、カイルム閣下の情熱があらんことを!




