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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第23話:氷の温室のティータイム。ロザリアとお嬢様談義

執務室の「甘い檻」から解放された翌朝、私の身体にはまだ、カイルム様の熱い体温が深く刻み込まれているようでした。


「――それで? あのお堅い閣下と、あんなに長い間ふたりきりで何をしていらっしゃいましたの!? 詳しく、一字一句漏らさず説明なさいませ!」


 氷の温室に、ロザリア様の賑やかな声が響き渡ります。

 透明な氷の壁越しに差し込む柔らかな光の下、私たちは真っ赤な冬薔薇に囲まれ、湯気を立てる紅茶を囲んでいました。


「ロザリア様、声が大きいですわ……。その、お話をして、少し……休んでいただけですの」


「嘘をおっしゃい! あんなに赤くなって、耳まで桃色ですわよ! ああ、神様。わたくしの愛しきエルシア様が、あの死神閣下の毒気に当てられて……。でも、お顔の色は昨日よりずっと艶やかで、お美しい……。複雑ですわ!」


 ロザリア様は扇子をバサバサと仰ぎながら、私を舐めるように見つめます。

 昨日まで「敵」だったはずの彼女は、今や誰よりも私の体調と恋路を心配してくれる、嵐のような親友(?)になっていました。


「……ふふっ。ロザリア様は、本当にお元気ですわね。……王都の審問官に、あんなに恐ろしいことを言われたのに」


 私がふと視線を落とすと、温室の空気が一瞬だけ凪ぎました。

 母様が王都の反逆者。私がその刺客。

 カイルム様は「どうでもいい」と笑ってくれましたが、私の胸の奥にはまだ、小さな氷の棘が刺さったままなのです。


「……エルシア様」


 ロザリア様が、それまでの浮ついた態度を捨て、真剣な眼差しで私の手を取りました。

 その手のひらは、私よりもずっと熱く、力強いものでした。


「あのバカ審問官が言ったことなんて、半分は出鱈目、残りの半分は捻じ曲げられた妄想ですわ。……わたくし、王都の裏事情には少しばかり通じておりますの。あなたの御母堂、イザベラ様が反逆者だなんて……。当時の社交界では、彼女こそが王都の『太陽』の暴走に異を唱えた、唯一の賢者だと言われていましたのよ」


「……母様が、賢者……?」


「ええ。熱すぎる王家に対し、『冷却と調和』の必要性を説いたために、危険視されただけ。……つまり、今のあなたと全く同じ。王都は、自分たちの制御できない『美しく高貴な力』を、すべて反逆にすり替えて排除してきただけなのですわ」


 ロザリア様の言葉が、私の心に刺さっていた棘を、静かに、けれど確実に溶かしていきます。

 私が「不浄」だと思っていた氷は、母様から受け継いだ「知恵」であり、「優しさ」だったのだと。


「……ありがとう、ロザリア様。私、母様のことをもっと知りたくなってきましたわ。……怖いだけの思い出ではなく、本当の彼女を」


「その意気ですわ! わたくしも全力でお手伝いいたします! ……そうと決まれば、もっと美味しいお菓子を召し上がれ。さあ、あーんして!」


 ロザリア様がスコーンを差し出そうとした、その時。


「――私の妻に、何をしている」


 温室の入り口に、巨大な影が立ちました。

 カイルム様です。彼はマントを翻し、一歩で私たちのテーブルへと歩み寄ると、私の肩にその大きな手を置きました。

 相変わらず、隙あらば私に触れようとする、困った旦那様。


「カイルム様。執務の方はよろしいのですか?」


「……君の魔力が、私を呼んでいた。……いや、単に君の顔を見ないと、血の巡りが悪くなる」


「まあ、相変わらず甘ったるいことですわね! わたくしとエルシア様の聖なるお茶会を邪魔しないでくださいまし!」


 ロザリア様が頬を膨らませますが、カイルム様は彼女を無視して、私の耳元に唇を寄せました。


「エルシア。……先代辺境伯の隠し倉庫から、君の母親のものと思われる『品』が見つかった。……心の準備ができたら、一緒に見に行こう」


「……母様の、遺品が?」


 私の指先が、微かに震えました。

 王都から捨てられ、ノースウォールへ流れ着いた私。

 けれど、この地には、最初から私を待っていた「何か」があったのかもしれません。


 カイルム様の熱い掌が、私の震えを優しく鎮めます。

 

「……怖いなら、私が手を握っている。君が何を見つけても、私の愛は揺るがない」


 温室の冬薔薇が、私たちの言葉に呼応するように、一層鮮やかに輝きました。

 王都の魔の手は、まだそこまで迫っているけれど。

 今、私の手の中には、温かな紅茶と、騒がしい親友、そして命を懸けて私を愛してくれる騎士がいる。


 私は、カイルム様の手を強く握り返しました。

 母様の真実。そして、この領地が「私」を呼んだ本当の理由。

 その扉を開ける時が、近づいていました。

「君の魔力が、私を呼んでいた」

カイルム閣下、もはやエルシア様がいないと生きていけない身体になっていらっしゃいますわね。

愛の重さが、ノースウォールの雪よりも深く、重く、そして甘い……。

そんな閣下の姿に、皆様の頬も緩んでしまったのではないでしょうか。


ロザリア様の励ましによって、自身のルーツへの恐怖を克服したエルシア様。

彼女の氷が、ただの「呪い」ではなく「知恵の継承」である可能性が見えてきました。

そして、ついに見つかった御母堂の遺品。

そこに隠された「真実」が、王都を震撼させる武器になるかもしれませんわ。


さて、次回はカイルム閣下と共に、地下の隠し倉庫へ。

そこでエルシア様を待っていた、運命の出会いとは……?


もし、ロザリア様とエルシア様の友情に「いいわね!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と、下の【☆☆☆☆☆】の評価をお願いいたします。


皆様の評価が、エルシア様の過去を照らす「真実の光」になります。

次回、第24話「幸せの温度。二人で焼く、初めての甘いパイ」……いえ、

「開かれた真実。母が遺した『氷の魔導書』」でお会いしましょう。

(※甘いパイも捨てがたいのですが、物語が大きく動く予感がいたしますわ!)

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