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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第21話:傲慢なる審問官と、氷狼の咆哮

城門を叩く鐘の音は、氷の粒を震わせるほどに鋭く、不吉だった。


 白銀の雪原を汚すように整列した、黄金の太陽旗を掲げる一団。その中心で、純白の法衣に身を包んだ男が、雪の上でも汚れることを知らない傲慢な足取りでこちらを睨みつけていた。


「ノースウォール辺境伯カイルム! そして、国家反逆の嫌疑がかかりし罪人、エルシア! 聖王令に基づき、直ちにその身をこちらへ明け渡せ!」


 男の名は、異端審問官マルファス。王都でも「冷酷な光」と恐れられる、リュシアン王太子の飼い犬だ。


 カイルム様は、私の肩を抱き寄せたまま、微動だにせず彼らを見下ろしていた。その肩にかかっているのは、私が今朝縫い上げたばかりの、氷の刺繍が輝く漆黒のマント。

 不思議だった。いつもなら、このような侮辱を受ければカイルム様の周囲には荒れ狂う魔力が渦巻くはずなのに、今の彼は、凍てつく湖面のように静かで、底知れない。


(……私の刺繍が、彼を支えている。……なら、私はもう震えたりしない)


 私は一歩、カイルム様の腕から踏み出した。


「エルシア!?」


 背後でカイルム様の驚く声がしたけれど、私は振り返らず、城壁の端に立ち、冷たい風を真正面から受け止めた。


「審問官様。私は、ノースウォール辺境伯夫人、エルシア・ド・ノースウォールです。……私の名を呼び捨てにし、根拠なき罪を被せる無礼。この北領では、決して許されることではありませんわ」


 私の声は、自分でも驚くほど澄んでいた。

 眼下のマルファスが、顔を屈辱に赤く染める。


「黙れ、不浄の娘が! 王太子の慈悲を裏切り、辺境の獣を唆して国を乱す魔女め。……その身に宿る不吉な冷気こそが、罪の証だ。聖なる光に焼かれ、悔い改めるがいい!」


 マルファスが杖を掲げると、空中に巨大な光の陣が展開された。

 王都の『太陽神』の加護を借りた、高熱を伴う光の奔流。雪を蒸発させ、大地を焼き焦がす暴力的な光が、一直線に私へと放たれる。


「死ね! 魔女め!」


「――させないわ」


 私は、右手を静かに前にかざした。

 魔力を練る必要さえない。ただ、私の大切な居場所を汚す熱を「眠らせたい」と願うだけで、指先から透き通るような白氷の魔力が溢れ出した。


 ドォォォォン……ッ!!


 光と氷が激突する。

 けれど、結末は一瞬だった。

 マルファスが放った熱い光は、私の白氷に触れた瞬間、パキパキと音を立てて「凍りついた」のだ。


 光そのものが、結晶となって空中で静止する。

 熱を失い、力を奪われ、ただの美しい光のオブジェと化した魔法の残骸が、雪の上にバラバラと崩れ落ちた。


「な、なんだと……!? 私の『神罰の光』を、凍らせた、だと……!?」


 マルファスが絶句し、背後の太陽騎士たちがざわめきに揺れる。

 私は、凍りついた光の破片を見下ろしながら、哀れみを込めて告げた。


「……王都の光は、あまりに熱すぎて、周りが見えていないようですわね。……今の私は、誰かに奪われるだけの存在ではありません。……愛する人を守るために、この氷を研ぎ澄ませてきたのですから」


「エルシア……」


 カイルム様が、私の隣に並び立った。

 彼の身体から立ち上る魔気は、私の刺繍によって完全に制御され、純粋な「殺意」へと凝縮されている。


「聞いたか、審問官。……私の妻を魔女と呼び、魔法を放った。……その報いは、万死に値する」


 カイルム様がゆっくりと手をかざす。

 刺繍の氷狼が青く輝き、彼の背後に巨大な氷の魔王の幻影が立ち上がった。


「カ、カイルム……待て! これを見ろ!」


 マルファスが、震える手で一通の羊皮紙を突き出した。


「これは、お前の父親――先代辺境伯が、エルシアの父親であるフレイム公爵と交わした『裏の契約書』だ! ……エルシアがここへ来たのは、お前を愛するためではない! ノースウォールの領土を、内側から凍てつかせて滅ぼすために送り込まれた、フレイムの刺客だったのだ!」


 その言葉に、城壁の上の騎士たちが息を呑む。

 ロザリア様が「なんて見苦しい嘘を!」と叫ぶ声が聞こえた。


 けれど、マルファスは醜悪な笑みを浮かべ、さらに声を張り上げた。


「信じられぬか? エルシアの本当の母親は、王都を裏切り、北へ逃げようとして処刑された『氷の反逆者』だったのだ。……お前が愛しているのは、お前の家を滅ぼそうとした女の血筋だぞ、カイルム!」


 私の身体が、一瞬だけ硬直した。

 母様の、本当の、秘密。


 カイルム様の手が、私の肩を掴む。

 その力が、今までとは違う強さで――。

「お前が愛しているのは、お前の家を滅ぼそうとした女の血筋だ」

……なんて卑劣な、そして残酷な嘘(あるいは真実)を!

マルファスの歪んだ笑顔に、私の心まで凍りついてしまいそうです。


エルシア様が凛と立ち向かい、光の魔法を凍らせたあの瞬間のカタルシス。

それさえも踏みにじろうとする、王都の執念深さ……。

愛する人が、自分の家を滅ぼすために送られた刺客かもしれない。

そんな疑惑を突きつけられたとき、カイルム閣下はどう動くのか。


もし、エルシア様の凛とした美しさを応援してくださるなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、

彼女と閣下の絆を、さらに強固なものにしてあげてくださいな。


皆様の評価が、二人の仲を引き裂こうとする嘘を打ち砕く、

真実の光になります。

次回、第22話「裂かれた信頼? 閣下の執務室に閉じ込められて」でお会いしましょう。

(※閣下の執着心が、さらにとんでもない方向へ暴走する予感がいたしますわ!)

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