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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第20話:氷の刺繍と、魔法のレース。夫人としての初仕事

「――いいえ、ロザリア様。私は逃げませんわ」


 氷の温室に満ちる百合の香りを吸い込みながら、私は静かに、けれど明確に告げた。

 『聖王令』。王都が私を「犯罪者」として連れ戻そうとしているという衝撃的な報せを受けても、私の心は不思議なほど凪いでいた。


「エルシア様! 正気ですの!? 王都の『太陽騎士団』は野蛮ですわよ! あなたのその可憐な指先に鎖をかけるような真似、わたくしが、このロザリア・フォン・グランベルが許しませんわ!」


 ロザリア様は鼻息荒く私の手を握りしめ、まるで自分が戦場に赴くような勢いで捲くし立てる。数時間前まで「認めませんわ」と叫んでいた面影はもうどこにもない。


「……落ち着け、ロザリア。私の城で勝手に騎士団を組織するな」


 カイルム様が私の肩を抱き寄せ、ロザリア様を冷ややかに牽制する。その手は、昨夜よりも心なしか強く、私の身体を自分の方へと引き寄せていた。


「エルシア。聖王令が下れば、この領地は王都と正面から対立することになる。……私は構わない。だが、君を『盾』にはさせない。君は地下の最深部にある、最も安全な奥庭に隠れていればいい」


「……カイルム様。それは、私の望みではありません」


 私は、彼の胸にそっと手を置いた。

 分厚い礼服越しに伝わる、狂おしいほどに激しく、そして私を求めてやまない鼓動。


「私は、あなたの妻です。……あなたの孤独を半分背負うと決めたのです。王都が私を罪人と呼ぶのなら、私はこの北領の『正義』として、あなたの隣に立ちますわ」


 カイルム様の灰色の瞳が、驚きに揺れる。

 私は彼に微笑みかけ、セフィに用意させていた「仕事道具」を受け取った。


「夫人としての初仕事……させていただいてもよろしいかしら?」


 ◇◇◇


 数時間後。私は執務室の窓辺で、銀の針を動かしていた。

 

 手元にあるのは、カイルム様がいつも身につけている、漆黒の騎士マント。その襟元に、私は自分の魔力を込めた「糸」で刺繍を施していく。


 王都で「ゴミ」として扱われていた頃、私に許されていた唯一の娯楽は、暗い屋根裏部屋での刺繍だった。当時は指先が凍え、布を汚さないようにするのが精一杯だったけれど。


(……今は、違う)


 ひと針、刺すごとに、私の指先から透明な「白氷」の魔力が糸に溶け込んでいく。

 

 さらさらと、小さな鈴の音が部屋に響く。

 布の上に描き出されるのは、ノースウォールの紋章である「氷狼」と、それを包み込む「雪割草」。

 私の魔力が宿った刺繍は、ただの模様ではない。カイルム様の暴走する「熱」を優しく吸い取り、彼の理性を守るための、世界で唯一の『調和の防具』。


「……なんてこと。糸が、光っていますわ……」


 傍らで見守っていたロザリア様が、感嘆の声を漏らす。

 針を通した跡が、細かな氷の結晶となって布に定着し、朝日を浴びてダイヤモンドのように煌めいていた。


「エルシア様……。あなた、ただの聖女ではなく、魔力を物質に固定化する『神聖工作』の権能まで持っていらっしゃるの……? 王都の馬鹿どもは、本当に何を手放したのか分かっておりませんわね!」


 ロザリア様が熱狂的に私の技術を称賛していると、部屋の扉が開き、カイルム様が入ってきた。

 彼は私の手元にあるマントと、少しだけ誇らしげに顔を上げた私を交互に見て、絶句した。


「……これを、私のために?」


「はい。……カイルム様の魔力が、少しでも穏やかになりますように。私の『氷』が、いつもあなたの隣でお守りしますわ」


 カイルム様は、震える手でその刺繍に触れた。

 彼の指先が、私の魔力に触れた瞬間。部屋の中に漂っていた彼の荒々しい気配が、春の凪のように静まり返る。


「…………ああ。……身体の奥が、これほどまでに静かなのは、生まれて初めてだ」


 彼は跪き、私の膝に頭を預けた。

 北の死神と恐れられた男が、一人の少女の刺繍に救われ、安らぎを得ている。その光景は、あまりに尊く、甘美だった。


「エルシア。……私は、君を誰にも渡さない。たとえ神の命令であっても、君を連れ去る者は、私のこの熱で灰にしてやる」


 カイルム様は私の腰を抱きしめ、首筋に深く顔を埋めた。

 その独占欲に満ちた熱い吐息が、私の身体を甘く焦がす。


 けれど、その幸せな時間は、突如として鳴り響いた「警鐘」によって破られた。


 ――城門に、軍勢の影。

 

 黄金の太陽を模した旗を翻し、白銀の雪原を汚すように進軍してくる、王都の使節団。

 その先頭には、あのリュシアン王太子に代わって派遣された、冷酷無比な「異端審問官」の姿があった。


「……来たか。身の程知らず共が」


 カイルム様が立ち上がる。

 その肩には、私が縫い上げた、光り輝く氷の刺繍。


 私の初仕事は、どうやら「守る」だけでは終わらないようです。

 この北の地を、そして私を愛してくれたこの人を汚すものなら。

 私の氷は、今度こそ、牙を剥くことでしょう。

「私の氷は、今度こそ、牙を剥くことでしょう」

エルシア様が、自らの意志で「戦う主母」へと覚醒した第20話。

皆様、彼女の縫い上げた「氷の刺繍」の輝き、

そしてカイルム閣下の蕩けるような安らぎの表情を、目に浮かべていただけましたでしょうか。


愛されることで自信を得たヒロインは、もはや「悲劇のヒロイン」ではありません。

大切な場所を守るための、誇り高き「辺境伯夫人」ですわね。

しかし、現れた王都の軍勢……。

「聖王令」という公の武器を振りかざす彼らに、

閣下の激しい愛とエルシア様の新しい魔力が、どう立ち向かうのか。


もし、エルシア様の凛とした決意に「よく言った!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と、下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して、

彼女の刺繍に「不滅の加護」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、王都の使節団を追い返すための「最強の吹雪」になります。

次回、第21話「氷の刺繍と、魔法のレース。夫人としての初仕事」……いえ、

「傲慢なる審問官と、氷狼の咆哮」でお会いしましょう。

(※タイトルは、閣下の怒りに合わせてさらに激しくなる予定ですわよ!)

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