第78話 2年経過して
“パンッ!!”
「ギャッ!!」
銃の引き金を引き、凛久は一角兎を倒す。
「お疲れさまでした」
「……どうも」
倒した一角兎をギルドの買取所に出し、受付の女性から依頼達成の代金を受け取る。
「…………」
ギルドを出た凛久は、無言のまま宿屋へと向かう。
「ク~ン……」
「あぁ、ごめんな。心配させちゃったな……」
表情が優れない凛久に、クウが声をかける。
従魔に心配されるなんて主人として情けないと思い、凛久は笑みを浮かべて返答する。
しかし、その笑みも造られたもの。
クウに謝ったばかりだというのに、またも表情暗く思考状態にはいってしまった。
『どうしようかな……』
宿に戻った凛久は、借りた部屋のベッドに横になって今後のことを考える。
初めてこの世界に来た時、一角兎なんて恐ろしくて逃げた魔物だった。
しかし、今ではなんの脅威にもならなくなっている。
つまりは、それだけこの世界に慣れたということになる。
『諦めるしかないのかもな……』
初代日向国王の日記には、凛久が蒼に言ったように元の世界に帰るための方法が書かれていた。
国王として配下の者を世界中に調査へ向かわせて得た情報によると、この世界に異世界人が出現したという情報は僅かながら存在していた。
そもそもこの世界で生き残ることができず、早々に命を落とすことが多いため、確定できる結果ではないという注意書きが足されていたが、異世界人がこの世界に点にしてくる場所も間隔もランダムなようで、数十から数百年程の開きがあるらしい。
日向を出てから2年くらい経つが、凛久が日向を出てから2年間世界を回って得た情報も同じようなものでしかなかった。
地球からこの世界に転移した人間がいるのなら、この世界から地球に転移してしまった者もいるのではないかと考えたが、それを確認することはできない。
今後、地球から転移してくることや、逆のこともあり得たとして、それがいつどこで起こるのかは分からない。
それこそ、日向初代王妃のような予知の能力がないと無理だ。
そんな能力を持っている人間が、わざわざ公表することはあり得ない。
いたとしても、国に厳重に管理されている可能性が高いため、凛久が会わせてもらえる可能性は低い。
そもそも、そんな人間すらいない可能性すらあるため、これ以上の地球へ帰還するのを諦める時期なのではないかと凛久は思い始めていた。
「んっ?」
地球へ帰還するための情報を得るためにも、そろそろ他の町へと移動しようかと思っていた凛久は、ギルド職員に一声かけてから町を出ていくつもりでいた。
しかし、ギルドに着くと、何故か併設されている訓練場の方が騒がしい。
「何かあったのか?」
「おぉ、リク」
訓練場に向かい、知り合いの冒険者であるブリーツィオの姿が目に入った凛久は、この状況の理由を彼に問いかける。
ブリーツィオとは、彼が大量の魔物に囲まれているところを助けたことが仲良くなるきっかけになった。
「実は、イザッコの奴が、ここに初めてきた女にちょっかいかけて返り討ちに遭ったんんだ」
「イザッコが……」
イザッコというのも、凛久がこの町で知り合った冒険者だ。
彼と仲良くなったのも、ブリーツィオと同じような理由だ。
普段は問題なんて起こさないイザッコだが、酒が入ると少々面倒になる。
依頼が速く終わって酒が入っている所に美人に遭遇し、実力を見ずに絡んで返り討ちに遭ったようだ。
酒癖が悪いのだから、飲みすぎるのはやめるように凛久は何度か注意したのだが、彼には届いていな方ようだ。
「結構な実力者なんだな……」
「あぁ、峰打ち1発で伸びちまった」
「マジか……」
凛久からすると、イザッコはまあまあの実力者だ。
酒に酔っていたとしても、そう簡単に負けるような実力の持ち主ではない。
それなのに、峰打ち1発なんて、凛久ですら難しいかもしれない。
それだけで、その対戦相手が相当な実力者なのが分かる。
もしかしたら、自分以上の実力を持った冒険者かもしれないと思うと少し興味が湧く。
「……まぁ、それも俺には関係ないか……」
「んっ? 何でだ?」
「あぁ、この町から出ていくことにしたんだ」
「何っ!? いくらなんでも急だな!?」
イザッコをあっさり倒した女性は気になるが、所詮自分はこの町から出ていく身だ。
別に知る必要もないと、凛久はあっさり興味が失せた。
ここに来たのは町を出ることだ。
そのことをブリーツィオに伝えると、あまりにも突然の事だったため驚きの声を上げた。
「気まぐれな放浪の身なんでな……」
「……そうか、残念だ……」
自分が異世界人だなんて信じてもらえるとは思わないため、凛久はブリーツィオたちには、世界を旅してまわっているとだけ伝えている。
この町にも長居するつもりがないことは、あらかじめ伝えていた。
出会いがあれば別れもある。
冒険者ならば、そんな事はよくあることだ。
命を失っての別れではないことを考えれば、仕方がないことだとブリーツィオは諦めた。
「まぁ、そう訳だから、イザッコにもよろしく言っといてくれ」
「分かった。元気でな……」
「あぁ、お前もな」
イザッコにも伝えるつもりだったが、返り討ちに遭って医務室で気を失っているようなので、声をかけずに出て行くことにした。
とりあえずブリーツィオに伝言をして、凛久はクウと共にこの町から出て行くことにした。
「ワウッ?」
「そうだな……。どうするか……?」
知人が少なかったことが幸か不幸か、出立の挨拶はすんなり済ませた凛久とクウは町から出る。
この世界は1周している。
それでも地球に帰るための情報は見つけられなかった。
町を出たはいいが、はっきり言って行き先も決まっていない。
何の手掛かりもない状況に、凛久の中では帰還することを諦めている部分がある。
そのため、クウの「これからどこに向かうのか?」というような視線に、凛久は困ったように呟いた。
当てどもない無い旅を続ける意味も分からなくなっているが、何もしないでいる訳にはいかない。
とりあえず、凛久は街道沿いに進み、次の町へ向かうことにした。
「また黙って居なくなってしまうのか?」
「っ!?」
移動を開始した凛久とクウ。
そんな彼らの背後から、不意に声がかけられた。




