最終話 一緒に……
「…………えっ?」
声をかけてきた人間の声には覚えがある。
しかし、こんな所にいるわけがない。
そんな思いのまま振り向くと、頭に浮かんだ人間が目の前に立っていた。
信じられない思いから、凛久は目を見開いて固まった。
「蒼……」
「やぁ! 久しぶりだな。凛久……」
背後から声をかけてきた人間。
それは凛久の思った通り、蒼だった。
凛久が戸惑いながら話しかけると、蒼は嬉しそうに挨拶をして来た。
「次期女王が何で……?」
内乱が治まり、蒼は日向の次期王に決まったはず。
その蒼が、どうして遠く離れたこの地に来ているのか理解できない。
そんな思いから、凛久は思ったことが口から洩れていた。
「……いや、その、何でって……」
「…………?」
凛久の疑問に対し、蒼は言いにくそうにモジモジと態度になった。
どんな時もハッキリした返答をする印象の蒼が、そんな反応するとは思ってもおらず、凛久は不思議そうに首を傾げた。
「じ、実は……、その……」
「…………?」
顔を合わせていないうちに、性格が変わってしまったのではないかと思えてくる。
しかし、どう見ても蒼にしか見えない。
何が言いにくいのか分からないが、凛久はとりあえず蒼の言葉を待った。
「……あの、わ、私は…………」
「蒼様は、凛久殿に逢いたくて世界中探し回っていたのですよ」
「…………えっ?」
いつまで経っても返答がない状況だったが、いつの間にか蒼の側に現れた風巻が代わりに答えてくれた。
答えが聞けたことは良いのだが、凛久はその内容に固まった。
「か、風巻!!」
代わりに答えた風巻に対し、蒼は顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。
「そう……なのか?」
風巻の答えと蒼の反応を見て、凛久はなんとなく察した。
しかし、それは自分の勘違いの可能性もある。
そう思った凛久は、確認の意味を込めて蒼へと問いかけた。
「…………あ、あぁ………」
「……そ、そうか……」
凛久の問いに、蒼は少し俯き加減で返事をする。
顏は良く見えないが、真っ赤になっていることは想像できる。
完全に自分への好意を示した発言に、凛久も顔に熱を帯びてきた。
「……逢えたのは嬉しい。でも、次期女王が国を離れるなんて……」
内乱によって、日向の国内にはもう蒼しか現国王の血を引く者はいない。
それだけ国にとって貴重な人物が、どうしてこんな場所にいるのか。
好意を伝えるにしても、流石に王や配下たちに止められるものではないだろうか。
「そ、そう! あくまで次期だ。だからもう少しの間は自由にさせてもらった!」
「…………」
凛久の疑問に対し、蒼は顔を上げ胸を張って答える。
その答えに、凛久は言葉を失った。
驚きというより、呆れたと言った方が正しいかもしれない。
蒼の側に居る風巻も渋い表情をしている所を見ると、かなり無りやりな方法で国から出てきたのだろう。
「……蒼らしいと言えば蒼らしいのかもな」
自分の信じた道を突き進む。
凛久が考える蒼とはそういう女性だ。
そう思うと、凛久は蒼がここにいることになんとなく納得してしまった。
「元の世界に戻る方法を探しに行くのだろ? 私も付き合わせてくれ」
「えっ? あぁ、日記を読んだのか……」
「その通り」
凛久は、別れの言葉もなく蒼の前から姿を消した。
初代日向国王の日記には、帰還方法が書かれていたと言っていたため、凛久は元の世界に帰ってしまったのだと蒼は思っていた。
最後に自分の気持ちを伝えたいと思っていただけに、蒼はあまりにも急な別れに落ち込んだ。
気持ちを整理するために、父に頼んで凛久が最後に呼んだ初代国王の日記を見せてもらうことにした。
すると、そこには異世界への帰還方法なんて記されていなかった。
つまり、凛久は元の世界になど帰っていない。
それが分かった蒼は、風巻たち花紡衆を使って捜索を開始した。
そして、父の吉護に無理を言って、凛久に会うために国を出たという話だ。
実力があり、風巻たち花紡衆も付いていれば危険な目に遭うことは滅多にないとは言え、無茶苦茶なことをしているというのに蒼は何だか自慢げに胸を張って答えた。
「……じゃあ、行くか?」
今更元の世界に戻れるなんて思っていない。
しかし、そうなると蒼との時間も終わりということになる。
そのため、凛久は旅を続けることにした。
「ワンッ!」
「んっ?」
どこに行くとも決めずに歩き出した凛久だが、それをすぐにクウが呼び止める。
何事かと思って振り返ると、蒼が先程の場所から動かないでいた。
「あの……、先程の答えを聞いていないのだが……」
「あぁ……、そうだ…な……」
立ち止まった蒼は、顔を赤くして俯きつつ小さい声で話しかけてくる。
その呟きに、凛久も蒼が何を求めているのかを察する。
そのため、凛久も段々と顔を赤らめた。
「…………」
「…………コホンッ!」
どんな答えが返って来るのか分からず、不安の混じった表情をする蒼。
そんな彼女の正面に立ち、凛久は気持ちを固めるために軽い咳をした。
「蒼!」
「あ、あぁ!」
「俺もお前が好きだ!」
「……そ、そうか……///」
意を決したように、凛久は先程の蒼の告白への答えを返す。
その答えを聞いて、蒼は更に顔を赤らめて笑みを浮かべた。
「……行きましょうか?」「ワンッ!!」
「そ、そうだね!」「そ、そうだな!」
自分の気持ちを伝えあった凛久と蒼は、両者ともに顔を赤くしたまま無言で見つめ合う。
誰も何も言わない時間がしばらく続き、流石に変な空気に耐えられなくなったのか、風巻とクウが見つめ合う2人に声をかける。
その声に、凛久と蒼は気まずそうに反応した。
「よし! 行くか?」
「あぁ!」
「ワンッ!」
「はい!」
凛久の言葉を合図に、3人と1匹は旅を始めた。
『元の世界に戻る方法か……、無理なのは分かっているんだよな……』
この2年の旅で、元の世界に戻ることなんて諦めかけていた。
そのため、どこへ向かうべきかも分からず、凛久は心の中で1人呟いた。
その後、蒼と共に旅を続けたが、凛久は最期まで元の世界に戻れることはできない。
しかし、凛久は残念に思ったりはしていない。
元の世界に戻るよりも、この世界に居たい理由ができたからだ。
日向王国女王、日向蒼。
その王配である凛久の名は、異世界の知識を使い、日向発展を果たした人物として永く知れ渡ることになる。
そしてその人生は、蒼やクウ、子や孫に囲まれ、幸せな最期を迎えた。
最後まで呼んでいただき、ありがとうございました。
キャンプ関連の話を書きたいと思っており、見切り発車で始めましたが、今回でこの作品は最終話となります。
この作品が、1人でも多くの人に楽しんで頂けたなら幸いです。




