合格発表
受験者と試験監督に凄まじい衝撃を残した入学試験が終わった。
試験が終わった日は、流石に緊張感からか疲労を結構感じていたため、そのまままっすぐに宿に帰った。
ちなみに、合格さえすれば寮を使えるようになるので、宿を使うのはおそらく今日が最後。
流石に合格を外すことは無いだろう。
というか、もし外しちゃったらお母さんが怖すぎてお家に帰れない。
特待も問題ないとは思うけど……流石に発表を見るまではちょっと不安だね。
合格発表は明日の正午だっけ。それまでどうしようかなぁ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
やはり相応に疲れていたみたい。昨夜はぐっすりと眠ることが出来た。
街を見物して楽しむというのもちょっと考えたけれど、とりあえず発表までは落ち着かないし修練でもしてようかなぁ。
まずは長めの瞑想をしたあと、ストレッチに筋力トレーニング。
魔力で強化するからこそ、結局素の柔軟性や筋力はものすごく大事なんだ。
そこまで終えたら軽く休憩して、朝食を食べに行く。
ここの宿屋は朝食付きなんだって。なんかお得感あるね。
カウンターの女将さんに挨拶をすると、食堂で待っているように言われたので素直に座って待つ。
朝から結構席が埋まっているみたい。
のんびりとしていると、食事が運ばれてきた。
運んできたのは、なんと私よりも年若そうな女の子。一つ二つ下くらいかな?
危なげない様子でお盆を持ってきて、私の机の上に置いてくれた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
朝食は、ベーコンにスクランブルエッグをあえたものと、パン。
早速食べ始める。ほんのり暖かくて美味しい。
ふと気づくと、さっきの女の子がまた目の前に来ていた。
別の人の分かな。朝食を持っているみたいだけど……あ、もしかして。
「前、座る?」
「! はいっ。ありがとうございます!」
ぱっと顔を輝かせて、目の前に座る。
ちらっと受付の方をみてみると、女将さんがぐっと親指を立てているのが見えた。
なるほどねぇ。なんというか、粋なことをしてくれる。
「えーっと。私はアデル。名前聞いても良い?」
「マロンって言います」
「マロンちゃん。 えへへ、歳が近い子と話すの初めてかも」
「え、そうなんですか?」
「うん。結構な辺境から出てきたばかりだから。
村には近い子は居なかったし、何度かお父さんに連れられてこっちにきたときも、子供と話はしなかったからね」
「なるほど……!遠いところから来られたんですね」
「山二つ超えたくらいのところかな。冒険者になりたくて。学校有るでしょ?ここ」
「や、山っ!? ……一人で、ですか?」
「今回はね~。これでもすっごい鍛えられてるんだよ!」
「凄いなぁ……想像も出来ないです。学校ってことは……15歳ですよね。
二つしか違わないのに」
「ふふふ。お母さんのスパルタ指導を乗り越えたからね。このくらい……
マロンちゃんは、普段からお店のお手伝いをしているの?」
「はいっ! 店番したり、忙しいときはこうやって食堂のお手伝いもしたりしています」
「へ~~偉いんだねぇ」
「アデルさんほどじゃ……」
「私はやりたいことやってるだけだからね~!
ねえねえマロンちゃん」
「はい?」
「私達、もう友達ってことでいい……かな?」
我ながら変な質問だとは思う。
それを受けた彼女は、少し表情をキョトンとさせた後、にっこりと笑った。
「はい、もちろん!」
「やったー! 初めての友達だ……!」
客観的に考えるとちょっと虚しい内容で大喜びする私。
それをマロンちゃんはニコニコと見守ってくれている。天使かな?
それから、しばらくの間マロンちゃんの普段の暮らしを聞いたり、私の修行からちょっとおもしろめな話をしたりして過ごした。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、そろそろ仕事に戻らないと。という彼女を見送り、私も宿を出る。
まだ正午まではしばらくある。今日のところは、トレーニングでもして過ごそう。
やっぱり体動かしている方が落ち着くからね。
軽く街を2周ほどした後、今度は魔力を使った状態で型の練習。
戦闘中は臨機応変とはいえ、剣や槍でいう素振りみたいなものは格闘でも大事だから。
そうこうしているうちに良い時間になったので、昨日ぶりの学校へ。
門までたどり着くと、既にそこそこ賑わっていた。
合格発表の会場は、広場の中央。合計成績順に上から受験番号で表記されるらしい。
特待生認定の番号は赤色なんだって。
うん。大丈夫だとは思うけど、かなり緊張するね。
ドキドキとしながら、広場へ向かう。
「え、と、11番、11番……あった!」
よしっ。無事特待生として合格。それも首席!
良かったぁ……
「わたくしが2番!? 一体どういうことですのっ!?」
突然隣から聞こえてきた、半ば悲鳴のような声に思わず身を縮こませた。
そーっと様子を伺ってみると、金色の髪をドリルのように巻いた、いかにもお嬢様といった女の子。
信じられないものをみたかの様子で、掲示板を凝視している。
こ、これは面倒事の予感?
そーっと退散しておこうかと思って踵を返した瞬間だった。
「……こういう場での詮索はご法度。それを理解した上で、無礼を承知でお伺いいたしますわ」
「は、はいっ」
「……11番、と聞こえたような気がしたのですが」
ひぃぃぃ!!も、もしかして、受難の一年が確定した瞬間っ!?
いかにもな存在に目を付けられた(?)アデルの未来はいかに!
皆様いつも応援ありがとうございます。