両親揃って〇〇
5歳になったことで瞑想にチャレンジしてみたアデル。
しかしそれは、魔力を察知して駆けつけた母に現場を押さえられることとなってしまった。
「え、えっと……」
部屋の入口で、お母さんが固まっている。
彼女の目線の先は私で固定されていて、その下には魔法陣まで見えている。流石に言い逃れはできないだろう。
しまった、迂闊だった。
初めてこの身体で魔力を扱うのだから多少は漏れ出てしまうとは思っていたが、まさか庭にいるお母さんに探知されちゃうなんて。
これは私の魔力素養が思いのほか高かった……というのもあるけれど、それ以上に母がとんでもない達人だったということなんだろう。
両親共に優秀な冒険者だったという話は聞いていたし、実際つよいんだとも思っていたけれど、ここまでか。
「……アディ。今のは、貴女がやっていたの?」
「…………うん」
声を絞り出すかのように、確認が飛んでくる。
誤魔化しようもない。私は諦めて頷いた。
恐る恐ると、お母さんを見上げる。
怒られる……で済んだらまだ良い方。いきなり勝手に魔法の練習を始める子なんて、きっと気味悪がられ…………わぷっ
「!」
ゆっくりと近付いてきたお母さんに、抱きしめられた。
頭を撫でられた後、目を合わせられる。
「……本を読んで、やってみたくなったの?」
「…………うん」
「……魔法陣も、自分で描いたの?」
「…………うん。練習しやすくなるって描いてたから」
「魔力、使ったでしょ。何も身体に異常はない?」
確認するような問いに、こくこくと頷く。
すると、お母さんはふっと表情を緩めて立ち上がった。
「お父さーん! 大変よ!! アディは天才よー!」
「え」
不意に叫ぶと、そのまま走って部屋を出ていってしまう。
私はポカンとその場に一人残された。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「いや~~はっはっは! そうかそうか。アディがなぁ」
「きっと貴方くらいに偉大な戦士になれますよ」
「どうだろう。お母さんみたいになるんじゃないか?」
「ふふふ。楽しみねぇ」
えーと、こちらアデル。現在いつもよりちょっと豪華な食事で晩餐会の実施中。
両親は、私が天才だの楽しみだのと二人で大いに盛り上がっております。
いやほんと、どうしてこうなった?
ことの発端は、例の現場を目撃されたこと。
あの瞬間、気味悪がられることまで覚悟して身をこわばらせた私。
けれど、その予想は良い意味で180度裏切られた。
飛び出していったお母さんに呆気にとられる私のもとに、ものすごい勢いでお父さんまでが飛んできた。
狩りに行っていたんじゃないかとか、そんな直ぐに戻ってこられる距離じゃないだろうとか、色々突っ込みどころは有るけれど、それを言う余裕はない。
不意に、高々と抱き上げられる。
「お母さんから聞いたぞ!自分で魔力を発現させたんだって?」
「う、うん」
「そうかそうか! お母さんの言う通りだ。アディは天才だなぁ!」
私を高く掲げたまま、お父さんがぐるぐると回り始めた。
「お母さん、今日は豪勢にしよう。アディの成長祝いだ!」
……というのが、一連の流れ。
そこからはあれよあれよという間に準備が進んで、気付けば、私の5歳祝いの時並に豪華な食卓を囲むこととなっていた。
こうやって喜んでくれるのは非常に、非常に嬉しいことなんだけども。
なんと言おうか、まさに『親バカ』というものに助けられたって感じになるのかな……
「アディ」
そんなことを考えていると、不意にお母さんから声がかかった。
その顔は先程までと打って変わって真面目なものだったので、思わず姿勢を正す。
「貴女が魔力の才を開花させたことは素晴らしいこと。
だけど、8歳……いえ、せめて6歳になるまでは、瞑想以外の魔力の使用を禁止するわ。
魔力っていうのは、可能性も無限大だけれど相応に危険でもあるの。一年はみっちりと修練しなさい。守れる?」
「はい、お母さん」
「良い子ね」
褒められちゃったけど、私はちょっとずるい。なぜなら、普通のこどもと違って、魔力の危険性を知っているから。
前世の長い研究で理解しているからこそ、私は基礎の修練を決しておろそかにはしない。
まだ5歳だしね。魔法自体を扱うのは、それからでも全く遅くない、寧ろ早いくらいだ。
よーし。じゃあ一年後、沢山の魔法を扱えるようになるために。
今日からみっちり魔力錬成の修行だっ。
私はぐっと小さな拳を握って、気合を入れ直す。
「お母さん! アディが更にやる気を出しているぞ!」
「あらあら。努力の才能まであるのかしら」
「はっはっは。うちの娘は将来楽しみだなぁ!」
ちょ、ちょっと。もういい加減にしてよーーーっ!!!!!
冒頭不遇からのざまぁ爽快が流行っている現状なのに、ひたすら優しいストレスフリー作品をぶん投げるわたし。
ほんとにゆるい気持ちで楽しんでもらえると嬉しい。