218 炎帝杯-Ex 強者への下克上
エキシビションマッチ第二戦。一戦目での炎帝の戦い方を見て怖じ気づく者が多い中、二戦目の出場者は覚悟を決めて舞台へと現れた。
今回の出場者は二名となっており舞台へと現れる様子が対照的となっている。一人は折角の機会だからと受け入れたものの先程の戦闘を見てどう対応すれば良いかと思考を巡らせている者。もう一人は恐れを感じるどころか一泡吹かせるという意思が見えそうな程に堂々と舞台へと上がった拳士―――"フィルメル"であった。
「今回は二人か…」
「そういえばあの娘も派手に立ち回ってたわね…」
「一人よりは可能性がありそうだね」
エキシビションマッチは炎帝の後ろにある宝玉を取る事が挑戦者側の勝利条件となっている。先の試合では真っ向から挑んだ事であっさり返り討ちにあったが、挑戦者が増えればその分だけ炎帝の注意はばらけて隙を突ける可能性は上がる筈である。
「…そう簡単に行くのかな?」
舞台に出場者が出揃った。挑戦者側というより"フィルメル"がやる気を滾らせている中、炎帝は先程と同じように剣には触れず試合が始まる時を待っている。単純に考えれば数の多い挑戦者側が有利に思えなくもないが、炎帝は一切焦るような様子を見せていない。
試合の開始が告げられる。誰よりも先に動いたのは当然ながら"フィルメル"であった。"フィルメル"は俊敏性を活かして走り出すが意外にも正面ではなく外周に沿うことで炎帝を避けて宝玉へと近付いていく。
「あれ?意外」
"フィルメル"を少しでも知る者ならば宝玉よりも炎帝を優先して強襲するぐらいはすると思われるが、今回は勝ちを優先した動きのようだ。
"フィルメル"に一歩遅れる形でもう一人も動き出す。もう一人は同じように宝玉へと走りながら武器である弓矢で炎帝に牽制する。威力よりも注意を引く事を優先したその行動は炎帝の身体だけでなく足下や空中にも矢を放っている。
「どちらかに反応すればその隙にもう一人が宝玉に辿り着く…」
「さてどう動くんだろうな…」
挑戦者の矢をものともせずに二人の動きを見ている炎帝。その炎帝が弓矢の挑戦者へと身体を向けた。理由はどうあれ注意を引く目的は成功だろう。此れで背中側にいる"フィルメル"が宝玉へと辿り着けば少なくとも一人は勝利する。のだが――――
『ほぅ、やはり狙いは此方か』
宝玉を狙うと見せかけて背後から仕掛けた奇襲を炎帝は片手で受け止める。受け止められた"フィルメル"はその状態から格闘で繋げるが軽く流される。だが炎帝が"フィルメル"の相手をしている間に弓矢の挑戦者は宝玉に急接近していた。
「(此れで――――)」
『甘い』
「うなっ!?」
「――――がっ!?」
あと少しで触れるという所だったが、炎帝によって投げつけられた"フィルメル"によって勝利は妨害されて二人揃って地面に転がる。
「何で邪魔してんだよ、もう少しで届いたのにさあ!」
「邪魔するつもりで邪魔した訳じゃないから!」
『随分と余裕だな』
二人が直前の出来事で口喧嘩に発展しようかとしている時、空中から炎帝が迫った。業炎を伴った矢の如き蹴りが二人の居た場所へと突き刺さる。衝撃と火柱が舞台から上がる。
「っちあ」
「…喧嘩してる場合じゃないな」
業火の中から二人が何とか抜け出す。咄嗟の回避で直撃は避けたものの其れでも二人のHPはかなり削られていた。次の攻撃を受ければ直撃で無くとも脱落してしまう程に。
『逃がさん』
業火の中から炎帝の腕が伸びる。その先には"フィルメル"が居た。先程のお返しとばかりの炎帝の奇襲は速度も相まって相手の行動を許さない。"フィルメル"が反撃をする事も出来ずその拳が突き刺さる。此れで"フィルメル"は脱落となるだろう。しかし只では倒れない。
「ッ……こなくそっ!」
『ぬ』
"フィルメル"のHPが危険域に到達して吹き飛びながら外野へと転送される。しかし、反撃は出来なかったが攻撃を受ける前提で攻撃を行った事で最後の最後で炎帝に一矢を報いた。
僅かといえど傷を与えられた事に炎帝は少々止まっていた。其処に天から攻撃が降り注いだ。降り注ぐ攻撃が土煙を上げて炎帝の姿を隠す。
「少しは効いたろ…」
攻撃は確かに命中したが反応は無い。弓矢の挑戦者は同じ攻撃を続けて天から攻撃が再び降り注ぐ。反応は無いにしろ視界を奪っている内に宝玉へと急ぐ挑戦者。そんな挑戦者に耳を疑うような声が届いた。
『ハハハハハッ、こうでなくてはな』
状況に合わない笑い声が響いて、試合を見ている者は土煙の方を見た。攻撃は治まったものの土煙はまだ残っておりその中に炎帝の影だけが映っている。その影に大きな動きは無いが大きなダメージを受けたような様子も感じられない。その上その影は視界の影響を受けているにも関わらず弓矢の挑戦者の動きを感じ取っていた。
『さあ、足掻いてみせろ』
土煙の中に居た筈の炎帝が瞬時に弓矢の挑戦者の前へと立ちはだかった。すぐ其処には宝玉があり、いきなりの事で咄嗟な対応が出来ない事もあり弓矢の挑戦者はそのまま突っ込む賭けに出た。だがそう甘くはなく弓矢の挑戦者が炎帝を抜き去るよりも速く炎帝がその炎と拳で挑戦者の勝利を粉砕した。
「やっぱり攻撃も耐久も俊敏性もどれも高いな…」
「此れで本気じゃないってなんなんだ…」
炎帝の戦いを続けて見てもまだ底が見えない。今後の参考にする為にも控え室の参加者たちは次の試合を待つ。何せ次のエキシビションマッチで最後なのだから。
『第三戦のご用意をお願いします』
第三戦で公開されている挑戦者の数は一人。辞退した者も居るので最後の試合は一人で戦う事となる。この時点で既に参加者の何人かが先の試合のような結末を想定しただろう。二人であの結果なら一人で此処迄以上の力を曝け出させる事は出来ないだろうと。だけど次の挑戦者は此処迄の挑戦者よりも可能性を有していた。
「え、結局参加してたの?!」
「折角だから」
最後の挑戦者は"せんな"であった。参加のアンケートで悩んでいただけに少しばかり驚きはある。本人曰く参加した理由に目の前で参加権を得られなかった者を見て申し訳なくなったというのがあるらしい。要は"Akari"たちが原因である。
理由はさておき、"せんな"は試合の為に舞台へと向かった。今回も正体を誤魔化すためか仮面を付けている。控えでは外していたので効果は薄そうであるが。
『よくぞ来た』
舞台へと上がった"せんな"が手にしていたのは先の試合で使った大剣ではなく、普段使いの白紙の妖刀であった。大剣の時よりも攻撃力は幾分か劣るだろうが身のこなしに関しては此方の方が適しているだろう。"せんな"はパワーよりスピードを選んだ。
『此れで宴も終わりとなろう…折角盛り上がってきたのだ、せめてもう少し楽しませろ』
先程の試合で漸く火が付いたかのように炎帝は此れまでの試合よりも戦意が感じられた。対する"せんな"の方も仮面で表情が読めないながらも軽い素振り等動作に心情が現れていた。
「あの仮面の奴ってあの派手に立ち回ってた奴だよな?」
「だろうな…武器変えたのか」
「あの人ならもしかして…」
「いや分からないよ」
様々な視線に見守られながら試合の開始が告げられる。
開始早々"せんな"に光が作用する。そして続けざまに暗い光が溢れてスキルが起動する。その直後、炎帝の足下の影が蠢いたかと思うと立体な影が無数の棘のように炎帝を襲う。だが炎帝は身体を少し動かすだけで流すように被害を最小限に抑える。
『―――――ふんっ』
炎帝が腕を振るうと纏わり付くように残っていた無数の棘がバラバラと砕け散っていく。だがその瞬間、"せんな"が炎帝を抜き去る。
「速い…!」
「始めの光は身体を軽くする〈ウィンリード〉だったか。しかも〈シェイドブライツ〉が拘束の役割をする事で相手の動きをワンテンポ遅らせたのか」
重量補助によって動きを軽くする〈ウィンリード〉によって"せんな"は速度を上げた。しかし炎帝を完全に出し抜くには少し足らず、一歩遅れながらも炎帝は喰らい付いてくる。
『良い動きだが其れで出し抜けると思っているのか』
「思ってない――――」
早まった速度を保ちながらの近接戦闘。刀と拳の攻防戦。お互いに研ぎ澄まされた反射神経で相手の攻撃を防ぐもしくは躱していく。だがこの状況が続けば不利なのは"せんな"の方である。動きを軽くする〈ウィンリード〉には移動速度や攻撃速度が上がる反面一撃が軽くなるというデメリットも存在する。元々攻撃力が足りていない節のある"せんな"の攻撃は防がれなくとも大したダメージにはなりづらい。
そんな高速戦闘を続けていた"せんな"だったがその動きが急に鈍くなる。〈ウィンリード〉の効果が切れて重量が戻ったのだ。効果が切れても持ち前の神経はまだ速度に縋り付いているが炎帝にはバレている。
『どうした、そんなものか!』
速度を捉えられ其処に炎帝の拳が伸びる。だが其れに反射で攻撃を加える事で互いに弾く。炎帝は拳が引っ込み、"せんな"は相殺しきれない衝撃で身体ごと後方へと飛ばされる。
『其処かッ!』
飛ばされて地に足が付いていないという事は先程のような回避が出来ない。着地狩りかのように炎帝の拳が迫る。"せんな"が地に足が付いた時には攻撃は間近にまで迫っていた。回避するにもタイミングが遅い。此れは当たる。そう思われたのだが、次の瞬間には"せんな"は空中に居た。
「躱した…!?」
「…!着地地点に〈エアホッパー〉だと!?」
炎帝の攻撃が届く直前、一瞬であるが足下には風溜まりが生じていた。"せんな"は対象を宙に飛ばすスキルを強引に自身に使う事で緊急回避を行ったのだ。
そして空中に回避した"せんな"の周囲に眩い光が生じる。鮮やかに輝く光はエネルギーとして七つの剣を形成する。空中に形成された剣を足場として蹴ることで加速、相手へと撃ち出されていく七つの剣と共に"せんな"が炎帝へと斬りかかる。
『―――面白い!』
降り注がれようとする光を見て炎帝は歓喜する。そしてその手が遂に―――
「奴が剣を…抜いた!!」
引き抜かれた途端に剣からは荒々しい炎が溢れた。その炎は次第に強まり、炎帝が剣を大きく振るうと共に空中へと解放される。
地上から放たれ空中を浸食するかのように上る業火と、空間を切り裂くように空中から降り注ぐ七色の光刃。二つの力が衝突し、会場に力の余波が広がった。
【独り言】
予約確認で気付いたけど、最後王勇を示してるなぁ…




